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ヒカリを結ぶ完結編ーすべての始まり、その先へー  作者: HANA


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完結編第17話 悔しさの音



夜の訓練場は静かだった。


昼間の喧騒が嘘のように、人の気配はない。


月明かりだけが、地面を淡く照らしている。


——バシッ。


乾いた音が響いた。


木刀を振るう奏の額には、汗が滲んでいた。


「……クソ」


もう何度目か分からない舌打ち。


先ほどの出来事が、頭から離れない。


『お前が持ち場を離れた間、正面は空いた』


『……誠が埋めた』


「……っ」


もう一度、木刀を振り下ろす。


——バシッ!


「なんで……」


呼吸が荒い。


「なんで俺だけ……」


悔しかった。


子どもを助けたいと思ったのは本当だ。


間違っているつもりもなかった。


それでも——何も見えていなかった。


「……クソッ!」


強く振り抜いた瞬間、足元がぶれた。


「力みすぎだ」


背後から低い声が落ちる。


奏が振り向く。


「……げ」


そこに立っていたのは、蓮だった。


腕を組み、呆れたように奏を見ている。


「なんだその顔」


「説教しに来たんすか」


「違う」


蓮は地面に置かれていた別の木刀を拾う。


「日課だから来た」


「クソ真面目かよ!」


奏が噛みつくように叫ぶと、蓮は気にも留めず構えた。


「来い」


「……は?」


「そのまま振っても一生強くならねぇよ」


月明かりの中、蓮の姿勢には一切の無駄がなかった。


奏は眉をひそめる。


「……なんで教えるんすか」


「橘さんの命令だ」


「絶対嘘だろ」


「来い」


言い切る声に、奏は舌打ちしながら構えた。


「……負けても知らねぇぞ」


「黙って打て」


次の瞬間、奏が踏み込む。


速い。


だが、蓮は半歩ずれて躱した。


木刀が空を切る。


「突っ込みすぎ」


「うるせぇ!」


二撃目。


三撃目。


全て見切られる。


そのたびに短い声が飛ぶ。


「肩に力入ってる」


「視線が近い」


「足が死んでる」


「死んでねぇ!!」


息が上がる。


それでも奏は止まらなかった。


何度弾かれても、何度転がされても立ち上がる。


「……なんでそこまでやるんだ」


蓮の問いに、奏は肩で息をしながら睨み返した。


「今日……何も出来なかった」


声が震えていた。


「蒼真さんにも、あんたにも……」


拳を握る。


「ダセぇとこ見せたまま終われるかよ」


沈黙が落ちた。


蓮は少しだけ目を細める。


「……そうか」


その時だった。


「おー、青春してんなぁ」


気の抜けた声が訓練場に響く。


「げ」

思わず蓮は可笑しな声を出してしまった。


蒼真が缶コーヒーを片手に現れた。


「夜更かし組は感心しねぇな」


「蒼真さん!」


奏が思わず声を上げる。


「見てました!? 俺かなり頑張って——」


「うるせぇ」


蓮の木刀が奏の頭に落ちた。


「痛っ!」


蒼真は笑いながら、奏へ缶ジュースを放る。


「ほら、休憩」


「……なんでそんなに優しいんすか、怒りもしないで…」


「それが先輩と後輩」


蒼真が肩を揺らして笑う。


「俺らもさんざん、先輩に迷惑かけてきたんだよ」



蓮は小さく息を吐くと、木刀を肩に担いだ。

「迷惑かけてたのは、お前だろ。…俺は巻き込まれてただけだ」

蓮は奏へ向き直ると


「明日、朝五時」


奏が顔を上げる。


「……は?」


「玄関前に来い」


「え、マジで?」


「遅れたら置いていく」


数秒の沈黙。


やがて奏の口元が、ゆっくり吊り上がった。


「……上等」


その横で蒼真が吹き出す。


「熱いねぇ」


「熱くないです…!」


蓮はぽつりと

「一番熱いのはおまえだろ」

と呟いたが、蒼真達には聞こえていなかった。



夜の訓練場の悔しさの音は、少しだけ前へ進む音に変わっていた。


「僕も…」

奏さんに負けていられない。

1人離れた場所にいた誠が呟いた。


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