完結編 第11話 崩壊
——ドンッ。
衝撃が、身体を貫いた。
「……っ、ぐ……!」
呼吸が、一瞬止まる。
何が起きたのか——理解が追いつかない。
遅れて、痛みが来る。
「……蓮!!」
誰かの叫び。
視界が揺れる。
腹部から血が流れる。
足元が、崩れる。
——倒れる。
その瞬間——
「立て」
低い声。
腕を掴まれ、強引に引き上げられた。
「まだ終わってねぇ」
橘さんだった。
「……っ……!」
歯を食いしばり俺は立ち続けた。
膝が震える。
だが——
「……まだ、やれます」
声が、かすれる。
その言葉に、橘は一瞬だけ目を細めた。
「なら動け」
——パンッ!!
すぐ横を弾丸がかすめる。
「っ、くそ……!」
「ボーッとすんな!!次来るぞ!!」
橘さんの怒鳴り声が耳に響く。
その一言で、意識が一気に引き戻された。
体は痛む。
だが、まだ動く。
敵と距離を詰め、切りかかるが痛みのせいか踏み込みが甘い。
(…くそっ…)
――その時だ。
銀色の髪をなびかせながら、蒼真が走り抜けた。
敵へ飛び掛かり切り抜いていく。
「無茶すんなよ、バカ」
斬りかかりながら蒼真は小さく呟いた。
蓮にはその声がはっきりと聞こえた。
怪我したんなら、俺の後ろに居ろ。
今度はお前が援護しろ。と蒼真の背中が蓮に語りかけていた。
「左!」
蓮が声を張り上げるとすぐに蒼真が切り抜く。
ー速い。
四方を敵に囲まれているが
蓮の指示が適確だ。
後ろや横を見る必要はない。
蒼真は目の前の敵だけを見据えていた。
――ドォォンッ!
爆発音に2人は車列前方へと瞬時に目をむけた。
煙が上がり、火災も発生している。
「……やべぇな」
蒼真が小さく呟いた。
その声に、さっきまでの余裕はない。
「行くか…」
蓮が呟き、橘へ視線を送った。
「当たり前だ、行ってこい」
「もうすぐ、応援部隊も到着する。ガキ2人分の仕事なんぞ、抜けてもカバーできるさ」
橘は早くいけ。と、まくし立てた。
蒼真と蓮は頷き合うと前線へと走り出した。
「……想定より多いな」
額に汗が滲む天音が呟く。
だが、その呼吸は乱れていない。
「天音さん、大使の車両だけでも動かせませんか…っ…」
葛城は先ほど被弾した肩を抑えながら天音へ指示を仰ぐ。
「いや…敵の思う壺だ」
いくら防弾の車両でも動かして一斉射撃を浴びれば
どうなるかわからない。
「このまま対峙する。葛城、頼むぞ」
天音はそれだけ告げると敵との距離を詰め
踊っているかのように切りかかっていく。
軽そうに見えるその一撃は重く、敵をなぎ倒していく。
天音は前に出すぎている天馬、紫苑の様子を気にかけていた。
――危うい。
このままの戦況が続けば、危険だ。
だが、下がれと言っても下がらない2人だ。
自然に天音は2人より前に出てカバーするように戦闘をしていた。
「…くっ…」
先ほど被弾した肩が痛む。
これほど長い時間、真剣を振るい続けたこともない。
手のひらは剣の重みで皮が向け血が滲んでいる。
痛みと疲労で天馬は目が霞み始めていた。
でも、誰も諦めていない。
守り抜くという覚悟の元、戦い続けている。
痛みに耐えながら、天馬は剣を振るい続けた。
天馬の横では紫苑が何も言わずに戦い続けている。
――何も音がしない。
銃声も刃の交わる音も。
ただ、俺は目の前の敵に剣を振るうだけだ。
長時間の戦闘で全身が悲鳴をあげている。
だが、それさえも心地よく感じる不思議な感覚。
止まったら終わる。
ただ、それだけに支配される。
ー「…紫苑っ!!!」
突然だ。
突然、天馬の自分を呼ぶ声だけが耳に届いた。
ーー視界が赤く染まる。
友の体が地面へと落ちていく。
誰かの叫びが鼓膜を振るわせている。
ーーなのに、意味が分からない。
音として聞こえているはずなのに、
何も聞こえていないみたいだった。




