触るんじゃねえ
【王の間】
20分経過により、転生した建成。
王の間は相変わらず、王と兵士たちがなすすべなくまんじりともせず、
佇んでいた。
少し前の、1秒でも早くスタンウェイを解放するために各々のタスクをこなす事に夢中で、それにより一つになっていた『チーム』が、
今は見る影もない。
「時間がかかっていたようだが、どうしたのだ?」
国王が建成に聞いた。
「……なんとかなるやもしれませぬ」
建成がいうと、また部屋の空気がガラっと変わった。
建成は多くを語らず、
「では、行って参る」
とだけ告げて【無限回廊】にまで進もうとしたので、
思わずガリガーリンが呼び止めた。
「待て。今の顔は死にに行く者の顔だ」
「……政務官殿には敵いませぬ……」
「勇者よ、お前はいったい、何をしに行くのだ?」
すると建成は振り向いてガリガーリンと目が合う。
「……スタンウェイの事、よろしく頼みもうす。私が言えた義理はないのでござるが……」
「そうだ。君の言うセリフではない」
「……南無三」
建成は【無限回廊】へと駆け抜けた。
【無限回廊】
建成は、王の間から数えて69番目の右側の扉を開けた。
なんとなく、ここを通るのもこれで最後だろう。そんな気がした。
【『もう』と鳴く馬小屋】
いったん木綿と、ウサインボルトは、建成を待っていたようで、
建成が入ってくるや否や、
「もうーーー!!」 と周囲を鼓舞するかのような雄叫びをあげた。
「……いや、今日はお前たちに頼らなくて良くなった。
できればお前たちを俺の愛馬として現実世界につれて帰りたいところだが……
元々お前は王の馬だ。
この国のことをよろしく頼む」
建成はいったん木綿、ウサインボルトの鼻を撫でた。
いったん木綿は、寂しそうな顔を浮かべた。
ウサインボルトは、『触るんじゃねえ』と建成の腕に噛み付いた。
建成は、腕を押さえながら馬小屋を後にした。
【くだらない螺旋階段】
建成が石造りの螺旋階段に踏み込むと、そこには……ベーゼンドルファーがすでに待っていた。
「おせえぞ。あと、いきなり負傷してんじゃねえか! やる気あんのか!」
「す、すまん。まさか、馬に噛まれると思ってなくてだな……」
「言い訳をするな! 」
「それはそうと、どうしたのだ? 地下牢で合流ではなかったか?」
「……聞きたいことがある」
ベーゼンドルファーは険しい顔になった。
「呪いが解けたら、呪いに造られたものは消えるって……言ったな?」
「……ああ」
「……エリーはどうなる」
それは、もはや建成まで気にしていたことだった。
別にそんなことを心配する義理はないのだが、二人に対してそれなりの情がある。
従って、無下に返答できる問題ではなさそうだった。
「……わからん」
「わからん じゃねえ!! おい! エリーは、お前が呪いを解いたら消えるのか!?」
建成は下を向いた。
「すまんが、俺にはわからん。だが、この城は随所で作りが甘かったり、
システムがガバガバだったりする。
やりようはあるのではないだろうか……」
「どうすればいい!?」
ベーゼンドルファーが他人に助けを求めるのは、極めて珍しい事だった。
本人も、自分ではどうにもならない問題に葛藤しているのだろう。
建成は目をつむり、なるべく最良の答えを導き出した。
「やれることを、やれ。ユーレイ」
「やれること?」
「わからんが、お前ができることをして後悔をするな。
やれることを、やる。それがこの城の不条理に対して我々がやってきたことじゃないか」
ベーゼンドルファーはしばらく目を丸くして建成を見つめ、
「わかった」
とだけ言った。
そして……ベーゼンドルファーは螺旋階段を降りる……のではなく、登っていった。
「おい! そっちじゃないぞユーレイ!!」
「俺もできることをやる。心配すんな。お前に迷惑はかけねえよ……勇者」
二人は、螺旋階段の頂上まで登った。




