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もう少し大きくなったら


…………………………


「じゃあ、行ってくるよ」


「どこに?」


「わからないけど、遠くに。そこには、観たことのない花が咲いていて、

 観たことのない空があって、観たことのない人々がいるんだ」


「え、俺もいく」


「ケンちゃんは、もう少し大きくなったらね……



…………………………







 建成が、奥多摩の森から、【王の間】に戻ってくるのに、実に3時間を要した。


 奥多摩の森から、帰りのバスはない。ではどうやって『強制終了』するかというと……



【王の間】


 転生し、戻ってきた建成は、来るや否や大粒の涙を流して、膝から崩れ落ちた。

そんな建成のことなどきせず、王の間の総員は早速いつもの作業に取り掛かっていた。


 それを涙声で建成が止める。



「納めよ!! 皆のもの!! 納めよ!!!」


 必死の建成の訴えに、流石に王や兵士たちは手を止めて、うずくまっている建成の方をみた。

寒そうに膝を抱えて、小刻みに震えている。


「……初めて、自ら命を絶っ…………」


 もはや建成の声は、声ではなく嗚咽だった。

よほど怖い目にあったのだろう。


 しかし、こうもしていられない。建成にはどうしても聞いておかねばならないことがあった。


「王よ! ……『モアー』を倒し、『この城の呪い』を解いた時、『あの空間達』はどうなるのです!?」


 あの空間達、すなわち、呪いによって改変されたこの城の各フロアの事である。

王は、答えることができずに、ガリガーリンの方を見た。


 ガリガーリンは、メガネの縁を指で持ち上げ、答えた。


「正直わかりかねる。前例のないことだからな。

 しかし……元々呪いによって作られた空間と考えると、呪いが解けた時、そのフロアも消滅すると考えるのが自然だ。

 その根拠はいくつかあって、

 第一に今の仮説が通らなかった場合、城の構造は呪いが解けたとて一生このままであるとは思えぬのだ」


「それでは、呪いが解けた時に空間に取り残されたものはどうなるのです?」


「わからぬが……」


 ガリガーリンは、兵士を促し、二つのゴブレットを持って来させ、そのうちの一つに水を汲ませた。


「異空間が、この世界の摂理に適うと仮定して……」


 ガリガーリンは、ゴブレットの中の水の半分をもう一つのゴブレットに移し替えた。


「異空間に行ったもの、それを、こちらの水だとする。では、呪いが消えて異空間も消滅したとしよう」


 ガリガーリンは、水を移し替えたゴブレットを逆さまにする。当然、中の水は床にこぼれ落ちる。



「摂理ではこの通りだ。だから、呪いが解ける瞬間は、城の外に出るか、牢獄に留まるのか、この王の間に居ておくことを推奨する。

 ……それで我々も無事であるという保証も何もないがな」


「……では、私は今から、皆に非情な現実を突きつけねばならなくなる。

 ……とりあえず、縛ったままでもいいからスタンウェイ……さん……をここに……」



 ……


 ……


 『この城の深淵部』を今しがた覗いてきた建成の言葉は、絶望に満ちていた。

兵士たちが、意味もわからずにとりあえず建成のいうとおりに、スタンウェイを拘束したまま、王の間に連れてきた。


 眉間に皺をよせ、顎に手を当てている王、ドゥングリは建成に問う。


「なんなのだ勇者よ。非情な現実とは」


「は。……私は今しがた、『モアーリセット』を行ってまいりました……」


 この建成の一言で、兵士たちは一瞬の沈黙の後、互いに顔を合わせ勝利の雄叫びをあげた。

王の間は歓声に包まれた。

 

 ガリガーリンと、スタンウェイは拘束されたまま肩を寄せ合った。


「静まれ!! 静まれ!! 問題は解決していないのだ!!」


 声を振り絞る建成。そしてあたりはまた沈黙に包まれる。


「…… ……」


 建成は、言葉を慎重に選びながら、一言ずつ、噛み締めるように口にした。


「……『モアーリセット』を成功させるには……誰かが異空間に残らねばならない」


「え……建成……さん。それはどういう意味ですか?」


 そこで建成は、先ほど奥多摩の森で見た全ての事、全ての事象を皆の前で、なるべく正確に語った。

語り終えると、王の間には、今までにないほど重苦しい空気に包まれた。


「……つまり、誰かがその……部屋でボタンを押し続けていないといけないというわけですね」


「どうやら、ボタンを押している間にしか、『モアーリセット』は成されないようだ。

 何度も試したから、多分間違えないつまり……」


「誰かが、部屋に残らなければならないという事だな。……下手をすれば永遠に」


 ガリガーリンが口にすると、

建成は震えながら頷いた。


「……つらい決断だな。生贄が必要とは」


 


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