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人間の手


【おばあちゃん家】


 おばあちゃんの話では、家の前で待っていたら奥多摩行きのバスがくるという。

奥多摩……それは確か東京都の最西にある地名だ。

そこと自分との間になんの因果があるのかは、思い出せない。

あの森も、

あの平家の建物も、なんなのかわからない。



「ケンちゃん!」


 後ろからおばあちゃんが追いかけてきた。


「これ、この間来た時の忘れ物」


 そう言って、おばあちゃんは、直径10センチほどの大きめなスーパーボールを手渡した。

それはゴム製のボールで、よく跳ねる。

子供のおもちゃだが、赤ん坊は間違えて飲み込む可能性があるし、

少し成長した子供が家で遊ぶと、ボールが地面から跳ねる時の騒音問題になるし、

道路で遊ぶと、予期せぬ方向にボールが跳ねて交通事故のリスクがあるという、

都会っ子は知らないであろうボールだ。


 ……建成は知っていた。建成の住む千歳船橋はまごうことなき、世田谷の都会だが、

それでも建成は知っていた。


 それより、直近でこれにものすごく似たようなものを、どこかで見たような気がする……?


「また来てね。ケンちゃん」


 おばあちゃんは言う


「……もう来ないと思うよ」


 建成は答える、

すると、おばあちゃんは悲しそうに笑った。


「そういう意味じゃないの」


 おばあちゃんの体が透けていく。さっき触っていた、硬い肩が嘘のように消えていく。

そして、最初からそこにいなかったかのように、消えてしまった。


 バスは、時刻表通りやってきた……



【夜の奥多摩の森】


 実に30分バスに揺られているうちに、明らかに速度がおかしい太陽が沈み、深夜になっていた。

バスは奥多摩の暗く寒い森に、建成を降ろした。


 建成は、視界の悪い中、木々の根、突き出た大きい石につまづきながら、『モアーリセット →』の石碑を見つけ、

石碑の案内通りに進んでいった。


 そして、見覚えのない、白い平家に再び戻ってきた。

『故郷の鍵』『別荘の鍵』を使い、ついに家に入る……。




【モアーリセットの間】


 平家の電気は生きていないようで、どのスイッチを押しても明かりがつかない。

建成は壁や扉にぶつかりながら、かびとホコリ、あとは判別のつかない匂いの中を進む。


 平家に入ってみれば、何かをもい出すと思ったのだが、

残念ながらここがどこで、自分とどんな関係があるのか、何も思い出せなかった。


 ……と、真っ暗でかび臭い家に、赤い光がさしている区域を見つけた。

玄関から一番離れた部屋、ここは、もともと寝室だったのだろうか?

その部屋から、6インチほどの赤い光が漏れている。


 建成が近寄り、覗いてみると、

ご丁寧に日本語で、『モアーリセット』と書いてあった。

それは、相応の大きさのボタンのようだった。


 建成は上空を見つめ、ため息をついた。


 ……成し遂げた。


 決して、自分が望んだ形の冒険ではない。思っていた異世界ではない。

むしろ真逆の地獄だったと言い切れる。


 その冒険が、ようやく終わる。

……解決してない問題が残っているような気がするが……


 一息ついた建成は、


 ついに


 モアーリセットの


 ボタンを


 ……押した。



 



 ……すると、特に大きな何かが動作したとも思えず、ただ音もなく、赤いボタンが緑色に変わった。


 ?? これで、『モアーリセット』が完了したのだろうか?

 

 やってみればあっけないものだ。


 ……しかし問題は、建成がボタンから手を離した瞬間に発生した。




 ……緑色だったボタンが、建成が手を離した瞬間に、『ポロリンロン』と奇天烈な音を出して、

 

 『赤に戻った』のだった。


 ??


 建成は、再びボタンに手を伸ばす。



 カチ……と、ボタンは緑色になった。



 手を離す。


 『ポロリンロン』と、ボタンが赤くなった。




 建成の背筋が凍っていく、まさか、ここまできて、まさか……


 焦った建成は、同じ動作を何度も繰り返す。


 カチ、ポロリロン、カチ、ポロリロン……




 まさか、ボタンを押し続けていないと、

 いや、『ボタンに触れている間のみ』モアーリセットが行われるのだとしたら……?



 建成は、身近にある重たそうなものを探した。

 一番重いのは、腰に下げている剣だ。


 ギリギリだが、ボタンに反応する重さではあった。しかし、ボタンは反応しなかった。



 ……つまり、叩き潰して言うと、『人間の手』でないといけないのだ。

誰かが、ここに残ってボタンを押し続けていないと、モアーリセットは行われない……。


 建成は、ここが地獄であることを思い出し、膝から崩れ落ちた。





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