大成ちゃん
……バスに揺られて何分経つだろう?
建成を乗せたバスは、『何色』と表現することも憚られる光の中を走っていた。
まるで光の速度で走っているかのようだが、それでももうバスに乗って数分以上経つ。
実際に光の速度で走っているのなら、裕に地球を100周はしている事になる。
……ここが地球なら、の話だが。
体感で30分ほどだろうか? バスは、目的地にたどり着いた。
【おばあちゃん家】
バスから降りて、一番最初に感じたのは、『懐かしさ』だった。
いつのことかはわからない。しかし、確かに建成はこの場所を知っている!
そして目の前にいる、おばあちゃんの事も。
「よくきたね。お上がり」
おばあちゃんは、建成を優しく向かい入れた。
建成は、ベーゼンドルファーから受け取った『肩たたき券』を取り出した。
……今にして思えば、この肩たたき券ですら建成には身に覚えがあった。
おばあちゃんの家は、いかにもおばあちゃんの家然としたおばあちゃんの家、そしておばあちゃんの家の匂い、
そして、猫がいた。
確か、このおばあちゃんは、正直村の門番のおばあちゃんだという。
……本当だろうか?
建成が通された居間にて、360度の景色にことごとく既視感を覚えた建成に、
隣の部屋からやってきたおばあちゃんが話しかける。
「肩が上がらなくてねえ」
おばあちゃんは、カルピスと、サラダせんべいを持ってきてくれた。
「おや、肩を揉んでくれるのかい?」
……
……
おばあちゃんの肩は、女性にしては硬く、非常に張っていた。
一人暮らしなのだ。こうもなるだろう。
建成はそんなことを考えながら、おばあちゃんの肩を揉んでいた。
「そういえば、大成ちゃんはどうした?」
おばあちゃんが、兄の名を呼んだ。
懐かしすぎて、半分忘れていた名だ。
「……あってない」
「どうして?」
「いなくなった」
「そうかい……」
おばあちゃんは、特に寂しいとも、悲しいとも、そんな感情の一才もなく淡々と言葉を紡いだ。
「でもね、案外近くにいるのかもよ」
それに対して、建成は何も答えなかった。
ただ……涙が勝手に溢れていた。
「はい。ありがとう。ほら、これが必要なんだろう?」
おばあちゃんは、『故郷の鍵』を壺の中から取り出した。
「行ってらっしゃい建ちゃん。向こうは夜は冷えるから、あったかくしていくんだよ。
もうじき、バスもくるさ」
そういうと、ばあちゃんの体はだんだんと透けていき、さっきまでの肩の硬さが嘘のように消えてしまった。
建成は、流れた涙をそのままに、立ち上がってばあちゃん家を出た。
帰らなくては。奥多摩に。




