この城の外
【くだらない螺旋階段】
この城は、タイムリセットしない限り20分毎のループを繰り返す。
ループの後には、全てが20分前に戻る。
全ての鍵は施錠され、
死者は蘇る。
浄土真宗には諸行無常などという言葉があるが、
いかんせんここは異世界であるからなのか、頑なな『常』がある。
だが……それでも、
もうベーゼンドルファーは戻ってこない。
建成はそう感じた。
それが別にどうということではないのだが、
あいつはこの出口のない迷路の中で、自分なりの出口を見つけたのかもしれない。
螺旋階段を登りながら、建成は、自分だけ取り残されたような、一種の寂しさを感じた。
螺旋階段を登り切った。
確か、『あとは任せろ』とベーゼンドルファーに言われていたはずだ。
しかし、いまだにエレベーターは起動していないようである。
本来であるならば、他人の痴話喧嘩に巻き込まれる義理はないのだが、
かといってでは、エレベーターガールの気持ちを無視して、たとえば最悪力に物を言わせて……エレベーターを占拠してしまうことは、
なんとなくベーゼンドルファーの決意を踏み躙るような行為に思えてできなかった。
よって建成はしばらく待ってみることにした……。
【気まずさのエレベーター】
エレベーターの中で、エリーは膝を抱えて泣いていた。
結局自分には、この城の外の世界などないのだ。
そう、思っていた。
『カタン』という音が、エレベーターの外に響いた。
エリーは、ゆっくり顔を上げる。
エレベーターホールの外に、湯気の立つ器が置かれている。そして、
誰かが去っていく気配を感じた。
エリーの心には恐ろしさもあったが、
器を覗き込んでみた。
湯気から、美味しそうな匂いがしたからである。
それは、みた事もない食べ物だった。
だが、食べ物であることはわかった。
泣きすぎて体力を使った。そうでなくてもずっとお腹が空いていたのである。
エリーは、器の中の麺を啜ってみた。
……塩っぽい。
それはお世辞にも、美味しいとは言えなかった。
ただ、このやりきれない気持ちを飲み込むには都合の良い形状、汁っけ、塩味をしていた。
思わず腹にかっこむ。
そして……器の横に置いてある手紙を見つけた。
麺を半分口に咥えながら、エリーはそれを開いてみる。
……
……
『エリーへ。
許してくれ、とは言いません。俺はケチなコソ泥。
その過去を変えることはできません。
でも変わることならできます。
俺は人生を変えます。
この世界で一番の、ラーメン屋になります。
ここを出たら、中華飯店「優礼」を出そうと思います。
それまで、修行を積みます。
君に、最初のお客様になって欲しくて。
最後に、俺を、
ユーレイから、血の通った人間に戻してくれてありがとう。
過去は変えられないけど、出会えた過去も変わりません。
俺の一番最初のラーメンを食べている君が笑顔になってくれることを祈って。 ユーレイ』
エリーは、手紙を脇に置いて、
ラーメンを啜った。
湯気が、涙を隠してくれたし、
涙の塩っ気がちょうど良かった。




