勇者と幽霊のセッション
【赤か黒か! の間】
建成は、未だにうずくまりながら咳き込んでいた。
そこに、『賢者の指輪』を手にしたベーゼンドルファーが入ってくる。
「……え、……ゴホ!! ゴホ! オエ!! ……早いな『ユーレイ』」
ベーゼンドルファーは、建成の様子を見て、何も言わず黒い粒を口に含んだ。
表情ひとつ変えなかった……。
「『ユーレイ』!?」
ゴゴゴゴゴ……と、『黒側』の隠し扉が開き、
ベーゼンドルファーは黙って扉の向こうに消えていった。
……そこから5分とかからないうちに、ベーゼンドルファーは戻ってきた。
「す……すまん。ゴホ!! 『赤』でしくじったのだ! ゴホ! オエ!!
感謝する『ユーレイ』」
「いいんだ……。それより……後で話がある」
「……? 珍しいな? お前から話とは」
「『エレベーター』は使えんだろう。……俺のせいだ。
だからとりあえず、【国家を歌う間】から【螺旋階段】までいくぞ。
そこからは俺が何とかする」
「国家……すまん。俺は喉がこれだから、目玉の親父の真似がうまくできないかもしれん」
「……まかせろ。と言っても、俺も気分的に大声を出す気になれない……
……一緒に歌ってくれないか?」
「…… …… ……『ユーレイ』」
今までなかったベーゼンドルファーからの切実な相談に、建成は少なからず感動した。
「わかった! ゴホァ!! 行こう!!」
【特徴のない石畳の通路】
建成とベーゼンドルファーは、階段を登らず、『嘘こそ真の扉』を出てすぐ左折し、その先の扉に入った。
【(国家を)ファルセットでうまく歌えるまで出られない部屋】
これが最初で最後のセッションだ……
建成の本能は、なぜかそう感じとった。
二人は同時に息を吸い、どちらともなく先に、歌い出した。
「「おお、我らの地、ドゥングリムックリ 豊かさ響くこの大地 膨らむ腹は栄光の証 食卓は我らの命の源
満ちよ、満ちよ、我が祖国よ デイヴの名の下、共に栄えん 豊かな未来を、その『おい鬼太郎』!! ドゥングリムックリ、永遠に輝け!
四季巡る美しき山河 春の芽吹き、秋の実り 王デイヴよ、その御旗のもとに 民は一つ、心を合わせ
満ちよ、満ちよ、我が祖国よ デイヴの名の下、共に栄えん 豊かな未来を、その『おい鬼太郎』!! ドゥングリムックリ、永遠に輝け!」」
……見事な歌声だった。二人のデュオだが、100人はいるのではないかと言う音圧だった。
二人の男の奏でる『奇跡』だった……と言ってもいい。
あまりにもの音圧で、『騎士の扉』が弾け飛んだ!!
「……やれたな。いくぞ『ユーレイ』」
「……ああ、そのな」
ベーゼンドルファーは、言いにくそうに、手に入れた『賢者の指輪』と『ゴールドバス・チケット』『肩たたき券』を建成に手渡した。
「……?なんのつもりだ? 『ユーレイ』」
「おい勇者。……頼みがある。
このゴールドバスチケットを持って【箱根】を目指せ。
辿り着いた先に老婆がいる。正直村の門番のおばあちゃんだ。
一人暮らしで肩が上がらないらしい。
このチケットを持って【箱根】に行けば、彼女の元に行ける。そこから先は……俺にもわからん。
以上が俺が知ってることの全てだ。俺の家族に誓って言う」
「待て、待て、なんだ『ユーレイ』どうする気だ?」
「……建成。俺が、戻らなくても、……うまくやれよ」
そう言うと、ベーゼンドルファーは振り返り、【特徴のない石畳の通路】の方に進んで行った。
「『ユーレイ』!?」
「……お前ならうまくやれるよ。 この城を救え。建成」
ベーゼンドルファーは通路の方へ消えた……。
建成は、彼が何を思って引き返したのかはわからない。ただ……エリーに会いにいくのであれば、
この先の【螺旋階段】を登れば会えるはずである。
……もう、あいつは戻ってこない。建成は、直感でそう、感じた。
【何の特徴もない石畳の通路】
ベーゼンドルファーは、通路を通り、階段の方をしばらく眺めた後やはり奥の通路に進んだ。
【異界の日替わりランチを出す定食屋】
「へいらっしゃい! ……あれ? あんたさっき……」
「……大将に会わせてくれ」
「??」
ベーゼンドルファーの尋常じゃない佇まいに、大将の方から近寄ってきた。
「どうした。何かようか」
するとベーゼンドルファーは拳を固め……地面に膝をついた。
生まれて初めての土下座である。
「大将!! 俺を……弟子にしてくれ!!」
「…… ……ジビエ料理に目覚めたのか?」
「違う!! 一流のラーメン屋になりたいんだ!!」
男泣きである。
大将は全てを察し、ゆっくり近づいて……
「……スープに5年。麺に5年。さらに器とレンゲで10年かかる荊の道だぜ。
お前にやれるのかい」
ベーゼンドルファーは顔を上げた。
「俺は……生き方を変えたいんだ……」
大将はベーゼンドルファーの目の奥を見て、彼の申し出を受け入れた。
「……調理場に入りな。まずはお前がどれだけできるのか見せてもらう」




