唯一のざまあ展開
【正直村】
色々と吹っ切れたつもりでいても、建成の心は荒み切っていた。
『なんで俺を差し置いて、俺の周りで なろう系 の主人公みたいな展開が繰り広げられているのだ?! 俺は空気か!?」
このような邪念である。ともかく邪念は邪念だ。
正直村にて建成は馬を暴走させようとしたその時である。
村の貧しい(と思しき)少女が、不安そうに建成の前に立ちはだかり、『石畳の鍵』を差し出している……
それを見て牽制は、『異世界転生して、なろう の主人公みたいなことがしたい』と思っていたこと自体が邪念であることを悟った。
そうか、自分は、入り口から間違えていたのだ。これは、日頃ヨコシマな事を考えながら生きてきた自分への罰。
そして、神が与えし現実と試練なのだ。
スタンウェイにしたってそう。もう帰ろうとしている自分と結ばれるより、異国の人間同士で結ばれた方が幸せに決まっているではないか。
ユーレイにしたってそう。悪人だとしても、幸せにできる人間が居るなら祝福してあげるのが人情ではないか。
建成は馬から降り、少女から鍵を受け取った。
少女は怖かったのか、走ってその場を去っていった。
「……感謝いたす」
建成は馬に乗り、正直村を後にした。
【正直村、嘘つき村の分岐点】
建成と、『嘘こそ真の鍵』を手に入れたベーゼンドルファーが戻ってきたタイミングはほぼ一緒だった。
二人は、特に言葉も交わさずにエレベーター方面に馬を走らせた。
【気まずさのエレベーター】
3人と2匹。
エリーとベーゼンドルファーは言わずもがな、
馬の方はというと、『いったんもめん』と『ウサインボルト』はいわゆる『つがい』だったようで、
すでに夫婦だったという。
するとなんだ。2組のカップルに挟まれ、ボッチは俺だけか。
建成はかつてない気まずさに襲われていた。
…… ……のだが様子が変だ。
エリーが震えて泣いている。
「……どうした?」
不安そうにベーゼンドルファーがエリーに話しかける。
小刻みに震えるエリーは、ベーゼンドルファーを睨みつけている。
「……何か隠してること、ありますか?」
エリーはベーゼンドルファーにそう聞いた。
「隠し事? ねえよ! 」
ベーゼンドルファーが少し大きな声を出すと、エリーは手から、『ドゥングリの泪』を取り出した。
先ほどベーゼンドルファーが持たせたものだ。
「これ……国宝……あなたが盗んだの?」
エリーの目と顔が怒りで真っ赤になるのを見ながら、ベーゼンドルファーは『しまったー!!』と思っていた。
自分がやったことを冷静に振り返れば、
彼女の勤めている会社の金庫の金を盗んで、彼女に『これ預かっててくれ』と言っているようなものだ!
その場の雰囲気でなんとなく美談っぽい流れに持っていったが、これは最悪中の最悪の行為である!! 完全に仇になった!!
「え、エリー、あのな、あのーこれは……」
「正直に答えて!!」
修羅場! 修羅場である。
その場にいる全員が気まずさを覚えた。
馬たちは不安そうに身を寄せあっているし、
建成に至ってはどうしたらいいのかわからずに事の推移を見守り、二人の顔を素早く交互にみることしかできなかった!
『気まずい!!』
建成は心の中で叫んだ。
……その頃にはエレベーターは、【なんの変哲もない石畳の通路】にたどり着いた。
「じゃ、じゃあ、先に行くぞ、『ユーレイ』そのー…… 自業自得だ」
建成は捨て台詞をはいてエレベーターを降りた。
【なんの変哲もない石畳の通路】
建成はここで、通路に入ってすぐ右の『嘘こそ真の部屋』に入らないといけないが、それには鍵が要る。
預かっておけばよかった……と建成は激しく後悔した。
二人の修羅場は後何時間続くのか……
「なろう」のようなハーレム展開を望んでいた建成だったが、
モテるやつはモテるやつで大変なんだな……と建成は学んだ。
建成の予想に反して、ベーゼンドルファーはすぐにやってきた。
……頬に、綺麗な手形がついている。
「…… …… …… …… ……悪い」
恐ろしく小さい声でベーゼンドルファーが話しかけてきた。
建成は流石に、いたたまれなくなった。
「……何が、どうした?」
ベーゼンドルファーは、親にでも怒られたかのように声を詰まらせて、
「…… エレベーター……使えなくなっちまった……」
「……な!! お前……それは……まずいぞ!?
どうにかならんのか!?」
「だから……『悪い』って言ったろ…… ……」
その瞬間、建成は、神が自分に与えた唯一の『なろう展開』を受信した。すなわち、
これまで散々自分をポンコツ呼ばわりしてきた口の悪い盗賊の、しょうもない失態に対しての『ざまあ展開』だ!
しかし笑えない。この『ざまあ』の範囲はもはや自分の頭上にまで及んでいるのだ!!
それでも、建成はこれを言わずにはいられなかった。すなわち、今まで散々ベーゼンドルファーに言われてきた言葉だ。
「この、『ダメユーレイ!!』」




