インディアンの言葉
【くだらない螺旋階段】
エリーが、建成一向に人質に取られている。
「おめえも……落ちるところまで落ちたな。勇者」
歯軋りを抑えながら、ベーゼンドルファーは建成を睨みつける。
それに対して建成は表情ひとつ変えずに。
「そうだな。開き直るわけではないが、ここに断言しておこう。
俺は勇者をやめる! そもそもこの世界で勇者になんかなりたくないのだ!
こんな…… 壱から千までおかしい異世界で成り上がる価値などない! 主人公にもなれないし……恋人も作れないし……そのくせ周りはリア充ばっかだ!
だいたい俺が! リア充なんて言葉を異世界で使うこと自体が本来おかしいだろう!!」
「呆れたぜ……そんな感情通り越して諦めたよ。
エリーは解放しろ! 彼女はお前の恨み節には無関係のはずだ!」
「そうではない!! 俺は彼女にどうこうしようなどとは決して思わん! これはディレクションだ!!」
「ああ?」
「俺は勇者になることを諦めたが……この城を出ることを諦めるわけにはいかん。
ここにいる全員を城から脱出させてやる責任もな! そこにはお前も含まれている! 『ユーレイ』!!」
「……だから?」
「そのためには、お前の悪い癖を治さないと達成できんのだ。
嫌いな奴ともうまくやっていかねばならない。
いいか『ユーレイ』。この状況は不条理でも、異世界転生でもない!! これが現実だ! 不愉快な現実だ!
俺たちが生きているのはそんな現実なんだ!」
「急に正義ツラか!?」
「俺は最初から正義など求めてない! 具体的にはこの城に来た時からな!!
ただこの城から切実に出たい一人の人間だ! お前と一緒だよ! 『ユーレイ』!!」
「……ルード」
猫に吊るされたエリーが、ベーゼンドルファーのファーストネームを呼んだ。
「……私を……連れてって……」
「え……」
「この城から……でて……私もルードと一緒に……行きたい……」
なれてない言葉を吐いたカラカ、エリーは途切れ途切れの言葉を口にした。
ベーゼンドルファーは目を閉じた。
「勇者をやめるって……?」
ベーゼンドルファーは拳を硬く握りしめて、言った。
「俺も……『ユーレイ』やめた。今、やめた。
お前と同じ、城から出たいただの人間だ」
「ビジネスパートナーに戻ってくれるか。『ユーレイ』」
「…… ……お前等が今知ってることを、全部俺に話しな。まずは情報共有からだ」
建成は頷いて、剣を鞘に納め、猫にエリーを下ろすよう促した。
地面に降りたエリーはベーゼンドルファーに駆け寄る。
建成は、抱き合う二人に向けて言葉を紡いだ。
「我々は個々の人間だ。人間は、往々にして一人でいる時が一番強いと俺はこの城に来て学ばされた。
だが、一人ではこの城は出られないのだ。
『急いで行きたければ一人で行け。遠くに行きたければみんなで行け』……古いインディアンの言葉だ。
そして、お前にぴったりの言葉だ『ユーレイ』」




