優しそうなおばあちゃん
建成一行が【奥多摩の森】に立ち入る少し前のこと……。
【ガラスの動物園】
ベーゼンドルファーは、17番、「カワウソ」の模型を祭壇に捧げた。
ガシャン……と、奥の扉が開いた。
【正直村と嘘つき村の分岐点】
ベーゼンドルファーは、一つの仮説を立てていた。
嘘つき村と正直村は、ループが終わるまでは入れ替わらないのではないか? という仮説である。
先ほど嘘つき村は「右」にあった。
仮説が当たっているのだとするならば、今回ベーゼンドルファーが目指している「正直村」は「左」にある。
Y字路に辿り着き、ベーゼンドルファーは左の道を歩いていった。
【正直村】
村には、賢者「フェルトマンタイ」が立っていた。仮説は当たっていたのかもしれない。
こうやって人間は不条理な事象に少しづつ対応していくようになるのだ。
「おい」
ベーゼンドルファーは、フェルトマンタイに声をかけ、
異界の日替わりランチを出す定食屋の景品、『賢者の指輪』を見せた。
「…… ……ついてきなさい。 『モアーリセット』 まで案内しようじゃないか……
ベーゼンドルファーは賢者について歩いていった。
【なんの変哲もない、箱根】
異世界にも、温泉はある。それに近い匂いが、この【箱根】からはする。
ベーゼンドルファーはそう感じていた。
……川沿いを流れる川からも湯気が立ち込めているように感じた。それは、
単に標高の高い場所にいて、自分が雲の中にいるからだろうか。
ベーゼンドルファーも、仕事で温泉街に忍び込んだことはある。
そこは、戦死や冒険者だけでなく、家族連れや観光客といった人間たちも多く訪れる場所だ。
……ふと、温泉街を歩く自分と、隣のエリーを想像してしまった。
ベーゼンドルファーは邪念を振り払った。
今は、城から出ることだ……。忘れてはいけない。家族を人質に取られているのだ。
前回はバスを待って何もできなかったが、今回は「ゴールド・バスチケット」を持っている。
効果はわからない。行き先が違うのか、バスの速さが違うのか……ベーゼンドルファーは後者を期待した。
そして、ゴールドバスを衣類の中から探すうちに、
『おばあちゃんの肩たたき券』、『鯨の模型』が出てきた。
二つとも、用途は不明だ。
この二つの存在の意味不明さが、ベーゼンドルファーを不安にさせていた……。
……『そのバス』は、音もなく現れた。
前回のバスはうるさかった。どういう原理で動いているのか全くわからないが、エレベーターとは比較にならないほどのうるささだった。
それに比べ、この『金色のバス』は、音もなく、それこそ魔力が働いて稼働しているのではないかと感ずるほど、スムーズに山道を登ってきたのだ。
これが『ゴールドバス』か!! ベーゼンドルファーは期待感を高めた。
バスが開き、「ゴールドバスチケットをお持ちの方はご乗車ください」
というアナウンスが聞こえてきた。
おそる、おそる、ベーゼンドルファーはバスに乗る……。
扉が閉まり、バスが走り出すと、
あたりは光に包まれていた。間違いない。魔術の類だ!
ベーゼンドルファーの期待は的中した! 前回のバスとは比べ物にならない速さだ!!
光に包まれているので景色の一才が見えないが、ほとんどワープ走行しているのは目に見えて明らかだった。
これなら! これなら前回いけなかった場所にたどり着くことができる!! そしてその先に待っているのは……
……その先に待っているのは……
……その先に待っているのは、冒険の終わりだ。
光の中で、ベーゼンドルファーは立ち尽くした。
……しかし、ここでベーゼンドルファーが予想していなかったことが発生してしまう!!
というのも、バスがワープ走行しているのにも関わらず、どこかに停車するという気配を一向に見せないのだ!!
これはおかしい! どれくらい遠くまで連れていく気だ!
ベーゼンドルファーは光の中で心拍を高めた。呼吸が浅くなる。
早く止まれ、早く止まれ、早く止まれ、
もしくは、建成たちが『タイムリセット』をかけていてくれ!! 頼む!!!
ベーゼンドルファーの願いは、『半分だけ』叶えられ、バスは、どこかの民家の前で止まった。
優しそうなおばあちゃんが、ベーゼンドルファーに手を振っている。
……しかし、ここで時間切れとなってしまった。ベーゼンドルファーの意識は遠くへと流れていった……。




