『イルカ』
【世界最後の喫煙所】
チャリオットは二人乗り。そうすると建成とスタンウェイ、全長2mの猫を乗せることはできないのだ。
「任せるジャン」
猫はチャリオットに乗り、膝の上に乗るようスタンウェイに促した。
猫の上に乗る、というのは少し罪悪感のある行為ではあったが、
その座り心地は、まるで背もたれまである厚い毛皮の絨毯のようであった。
スタンウェイが猫の体に保たれると、
「ブロブロブロブロブロブロブロ……」という音が聞こえてくる。
若干、猫からは口臭がする。
しかしそこにさえ目を瞑って仕舞えば、非常に快適な座り心地と言えそうだった。
さて、建成たちの裏では、ベーゼンドルファーが先に「騎士の扉」の先に行き、
下手をしたら「鯨の模型」までとられている予想までスタンウェイは立てていた。
それに対しての代替案が、スタンウェイにはあると言う。
3人はとにかく、【国家を永遠と聞かされる部屋】の奥にある【ガラスの水族館】を目指すことになった。
いくら頑丈なチャリオットでも、大型の馬2匹で狭い地下までの階段を降りることはできない。
チャリオットは、地下の酒場に通づる半壊した扉の前で止まった。
建成が、スタンウェイを背負おうとすると、ここでまた猫が、
「任せるジャン」
と自分の背中に乗るようにスタンウェイに促した。
猫の背に乗る、と言うのも少し罪悪感のある行為ではあるが、
全長2mは伊達ではないらしく、意外にも安定感のある乗り心地だった。
まるで、空飛ぶ絨毯に揺られているかのような感覚であったという。
スタンウェイが猫の背中に耳を当てると、
「ブロロンブロロン……ブロロンブロロン……」と音がする。
若干、猫の毛でくしゃみが出そうになるが、
そこにさえ目を瞑って仕舞えば、非常に良い乗り心地だと言えそうだった。
「お前はよく働く猫だな! 王の試練の間に安置しておくには惜しい人物だ! よし! お前にも名前を授けよう!
『猫娘』だ! 」
「娘……なのですか? この猫は」
「多分オスだ! でも水木しげる先生のありがたいご利益つきだ! いいな! 猫娘!」
「いやジャン」
猫は、建成の目も見ずに地下に降りていった。
「あ、待て猫娘!」
【絵もない花もない洒落もない居酒屋】
「しゃーっす……」
「……お疲れっす……」
猫が、職場仲間に声をかけてると、いつもの舌足らずな発声から、
どこか機械の言葉のように唱えた。
「ルートAーA、移行テスト。社員NO、0004」
すると、マスターは、音楽を消した。
【会員制バー、『ウッドフルーツオブ・ナナ』】
マスターはそのまま、カウンターの下のボタンを押した。
ゴゴゴゴゴ……と、背後の隠し扉が現れる。
「さすが……関係者さんですね……今までで一番スムーズです」
「うむ。この猫できるな。言い換えると、『デキる猫』だ。顔は頭にくるが」
「関係者を味方につけると心強いですね。しかし油断もできません。
関係者を味方につけたのはどうやら我々だけではなさそうですから……」
「そうだな」
建成、猫、スタンウェイは、隠し扉の奥へと向かった。
【国歌を永遠と聞かされる部屋】
「……おお、我らの地、ドゥングリムックリ 豊かさ響くこの大地 膨らむ腹は栄光の証 食卓は我らの命の源
満ちよ、満ちよ、我が祖国よ デイヴの名の下、共に栄えん 豊かな未来を、その手につかめ ドゥングリムックリ、永遠に輝け!
四季巡る美しき山河 春の芽吹き、秋の実り 王デイヴよ、その御旗のもとに 民は一つ、心を合わせ
満ちよ、満ちよ、我が祖国よ デイヴの名の下、共に栄えん 豊かな未来を、その手につかめ ドゥングリムックリ、永遠に輝け!」
……部屋では、相変わらず、国歌が大音量でかかっていた。
「段々と、この歌の良さがわかってきた気がするから不思議だ」
「名曲ジャン。猫ちゃんが作曲したジャン」
「……え、そうなのか!? お前がややこしい『裏声』を使わせたのか……!!」
建成たちは、石畳の扉の先に向かった。
【ガラスの水族館】
「ここが、『ガラスの水族館』とやらですか……。なるほど。雰囲気は動物園と変わりませんね。
……ドゥングリ語で何かが書かれています。
『祭壇に 鯨の模型 をささげるべし』……建成の予想は当たっていたみたいですね」
「ああ。そして……その代替案を聞かせてもらえるか?」
「ええ。求められているのは『鯨』ですね?」
「ああ」
「では、このガラスケースの中から、『イルカ』を探してください」
「『イルカ』? 確かに……同じような哺乳類だが……なぜイルカが代替案になりうるんだ?」
「これはこちらの世界だけかもしれませんが……。
『イルカ』は『鯨』のことなのです」
「え?」
「大きさの問題です。いわゆる、鯨とイルカは出世魚みたいな関係です。出世魚と呼ばれないのは、哺乳類だからです」
「そうなのか?!」
「……どうなんですか? 猫さん」
「アー…… 知らないジャン。ここは担当外ジャン。
どこに通じてるかも猫ちゃんは知らないジャン
ただ……気をつけた方がいいジャン」
建成たちは早速、イルカの模型を探した。
それは確かに存在した。
「あったぞ! イルカの模型だ!」
「では早速、祭壇に捧げてみましょう……慎重に……」
「そうだな。 これで行き先がまた、納豆の雨の降る場所だったりしたらかなわん……」
建成は、祈る気持ちで……イルカの模型を祭壇に捧げた。
ゴゴゴゴゴ……と、祭壇の奥に扉が現れた。
「あたりか……?」
「まだわかりません。注意して進みましょう」
建成とスタンウェイと猫は、扉の奥に進んだ……
【夜の奥多摩の森】
あたりは、暗くて全く何も見えない森の中だった。
背の高い木々が生い茂り、虫の声と、野鳥の声が聞こえる。
川が流れているのか、水の音もする。
何より、標高が高いのか非常に寒い。
「ここは……森の中ですか……?」
「そのようだ…… なぜだろうまたもや既視感が……」
「『箱根』とやらの例もあります。ここもおそらく、建成の世界にまつわる場所なのでしょう。
……なんで城と繋がっているのかは謎ですが……」
ところで、後にはすでに、入ってきた扉は消滅しており、
この森には一方通行でしか入れないようだ。
建成たちは、森を探索する以外に選択肢は残されていなかった……。




