人生は苦戦
建成は、白装束の魔道士の拘束を解き、
勇者の権限で持って彼女を雇うことをドゥングリムックリ王に直訴した。
王は熟考の末、「良きにはからえ」と返事を返した。
【無限回廊】
「勇者様ありがとございます……ですが、私は足でまといだと思いますが……」
白魔道士が言う。
「そんなことはありません。最初の、この禍々しい廊下を出ることができれば、私はそれでいいのです!」
「しかし、廊下を出ても、『モアーリセット』 の間に行けるかどうか……」
「やらなければ、何も起きません!! 異世界転生してから苦戦は承知の上にございます!
水木しげる先生も『ゲゲゲの鬼太郎』でおっしゃっていたじゃありませんか!」
「はい?」
「『人生は苦戦だよ』……?とね」
「はあ……私にはよくわかりませんが、とにかくやれるだけやってみましょう。私はスタンウェイ。魔術師スタンウェイです」
「勇者建成です。……まあ、このような状況ではジョブなんて、もはや意味をなしません。私と、あなたです」
「そうですね。とにかく……この廊下を出ましょう。先ほどの王の間。そこから69枚扉を数えて、右側の扉のみが唯一外に通ずる扉です」
「69枚目ですね!! わかりました!! 私はもう何枚目を通り過ぎたか数える気もおきませんでしたので、その辺りはお任せします!」
「は……はい!!」
建成と、スタンウェイは、王の間から69枚目の右側にある扉を開けた。
【『もう』と鳴く馬小屋】
建成からしてみれば非常に懐かしい景色だ。
そして、初めて『馬小屋は、臭い』と言うことを実感するに至った。
臭いなどと言ったら、動物に失礼なので、『馴染みがない匂い』だ。
「勇者様、ここから先は……私もよくわかってないのです」
「大丈夫です! 私は一回来てますので! ここから先はお任せください!!」
二人は、匂いに耐えながら馬小屋の奥に進んだ。
【くだらない螺旋階段】
石畳でできた、実に城の螺旋階段然とした螺旋階段だ。懐かしい……。
「魔術師どの。私は確かここで上に行きました」
「階段ですか……」
「何か問題が? そういえば先ほどから随分と足元を気にしてらっしゃるようだが……」
「そうなんです。先ほどこの城のものとの取っ組み合いで足を捻ってしまいまして……」
「なるほど。じゃああまり、無駄な移動はできませんな。 とにかく私はこの階段をひたすら登った記憶があります。
つまり同じことをやっていたのでは、目的地にたどり着けないと言うことですな」
「そうですね……」
「では、『降りて』みましょう」
「わかりました。時間がかかってしまいますが、すいません」
建成とスタンウェイは、螺旋階段を『降りた』。
……建成はすっかり忘れていたのだ。急いでいる人間がなぜ、螺旋階段を『登る』なんて選択肢を取るだろう。
建成は最初、螺旋階段を降りていたのだ。
その事実に、頑丈に施錠された扉を見た時思い出したのだった。
「「あ……」」
「…… ……魔術師どの、かたじけない……。私この扉に既視感が……。
早速やらかしました。申し訳ない」
「いいえ。待ってください勇者様。これはなんでしょう?」
スタンウェイが指で指し示した先には、『騎士』のレリーフが装飾されていた。
「騎士……何やら意味がありげです。これは覚えておきましょう」
しかし、実際ここで大きなタイムロスをしてしまった。二人は数十段はある階段を登った。スタンウェイからすればものすごい足の負担である。
「魔術師どの、この先に確か、『エレベーターガール』がいます」
「『エレベーターガール?』何者ですかそれは」
「『エレベーター』を操作する人間です。今度こそ覚えてます! 私は最初、この螺旋階段を降りて、先ほどの扉が道を塞いでいたから、
仕方なく登った。
そしてその先のエレベーターで下に降りたのでございます!だから、これを降りなければ、きっと目的地です」
「はぁ……『エレベーター』なるものも今ひとつわかりませんが。足を使わなくて済むのなら助かります」
足を引き摺るスタンウェイのペースに合わせたのでだいぶ時間は食ってしまったが、
建成とスタンウェイは階段を登り切り、先にある扉を開けた。
【気まずさのエレベーター】
「なんですか……この狭い部屋は……」
「これがエレベーターです。そして彼女が……」
「上に行きますか? 下に行きますか?」
「は……初めまして。魔術師スタンウェイと申します」
「あ、魔術師どの。この者に世間話は不要です。愛想が悪いのはそういう社風なのでしょう」
「はあ……」
「で、私は、一回目は下に行った。ですので……『上にお願いします』」
「かしこまりました」
スタンウェイは、エレベーターを初めて体験した。
エレベーターは建成の希望通り、最上階に二人を運んだ……
「さあ、これで目的地のはずです!」
「そんなに簡単なことなら良いのですが……」
【ガラスの動物園】
建成の願いは届かず、行き着いた場所は新しい場所であった。
そこは「しん」とした清潔感のある部屋で、無機質な風景は美術館を思わせた。
ガラスのケースの中にはワニや、カワウソや、カバなど、のガラス細工の動物が陳列されていた。
皆、手のひらほどの大きさである。
「ここは……」
「勇者様、見てください。何か書いてあります」
「本当だ?……これは……英語?」
「ドゥングリ語のはずですが、勇者様お読みになれるのですか?」
「読めますね……まあ、単語はわかるけど読めないと言うやつです……
学がないものでして」
「では私が代わりに読みます。
……『17番の動物を祭壇に備えよ』
祭壇……あれのことでしょうか?」
スタンウェイが指し示した先には、青い腰高の祭壇らしきもの。その奥に扉があった。
「なんでわざわざそんな面倒くさいことをさせるんだ……」
「勇者様、ここでイラついてはいけません。20分という制限時間を設けて、こういったアトラクションで少しでも時間をかけさせようという、
心理トラップかもしれません」
「むう、姑息な」
「とにかく、17番の動物を探しましょう。親切なことに各動物の前に番号が振ってあります」
「本当だ……面倒だなあ」
二人は、部屋中のガラスケースの中にいる、ガラスの動物たちを見て回った。
「勇者様! ありました!」
スタンウェイが取り出したのは、『17番、カワウソ』のガラス細工だった。
「もう時間がありません。早速備えましょう」
スタンウェイが『カワウソ』を祭壇に備えると、ギギイ……と音を立てて扉が開いた。
【正直村と嘘つき村の分岐点】
「外だ!! やりましたな魔術師どの!!」
「……いや、これは……」
「外でございます!! 我々はついにやりました!!」
「勇者どの……これは罠です……」
「罠?」
「私がかけてしまった魔法は、絶対に『モアーの間』からでしか脱出できないのです。したがってこれは……」
……と、スタンウェイが言い切るか、言い切らないかのところで、視界が霞んでいった。
そして……
「死んでしまうとは何事だ」
建成は意識を取り戻すと王座の間に戻されていた。
どうやら時間切れのようであった。
建成は、王の小言を聞きながら、心の中で汚い言葉を吐いた。




