訪問者と新しい情報
自分の房で、横になっているベーゼンドルファーに、呼びかける声が聞こえた。
視線を向けると、見覚えのない囚人服の男がいつの間にか自分の牢にいた。
……今まで散々自分がやってきたことだが、いざ他人にやられると、あまり気分のいいものではない。
ベーゼンドルファーは少し過去の行いを反省した。
「なあ、あんた、『ユーレイ・ドルファー』だろ?」
「……まあ、俺をそう呼ぶ奴はいるよ」
「あんたに頼みたいことがある。この城をなんとかしてくれ」
「……おい。悪党が他人の力を期待するようになったら終わりだぜ。自分でなんとかしなよ」
「それに関しては返す言葉もないが……このままでは私たちは一生この城から出られないのだ。
より強い悪党にすがりたくなりもするだろう」
相手は悪党、とはいえ、自分の牢獄を抜け出して違う牢に入ってきた多少は根性のある悪党だ。
そんな相手が他人を頼ろうとしている。
「そんなにひどいことになっているのかい。この城は……」
「……俺の名前はディア・パソンだ。話を聞いてくれるか」
ディア・パソン、という名前を聞いて、ベーゼンドルファは起き上がった。
その名前は、盗賊界の中でも一目置かれる存在だったのだ。
「ディア・パソン? あのシェイプ・パウダーのかい?」
「ああ、そのディア・パソンだ」
シャイプ・パウダーとはこの異世界でいうところの覚醒剤で、国から厳しい取り締まりを受けている。
その分、稼ぎも大きく、シェイプ・パウダーを取り仕切ることを大きな目標としている悪党もおり、
彼は、夢を叶えたうちの一人だ。
そんな人物が、自分に助けを求めている。
「話を聞いてくれるか。『ユーレイ』」
「……本物かい? なんでディア・パソンがこんなケチな場所にいる……?」
「つまらん領土争いさ。隣国のシュットシテットのカルテルが最近台頭してきている。
俺がここにいるのは命を狙われているからだ」
「……なるほど。兵士にタバコを渡して地下にシェルターを用意してもらったつもりってわけか。それで……」
「その通りだ。入ったのはいいものの、出られなくなってしまった。これでは、囚われたのと同じだ」
「マヌケな話だぜ……」
「なんとでも言ってくれ。それで、引き受けてくれるのか。くれないのか」
「見返りは?」
「お前もここから出られる」
「……帰んな」
「そうは言いつつも、お前も色々と探りを入れてるみたいじゃないか。
噂だと、『例の梯子』を登ったそうだな。見たんだろう? ここの恐ろしさの一片を」
図星を突かれてベーゼンドルファーは頭を抱えてしまった。
「道中の下水道で、巨大な扉を見たはずだ」
「……ああ。見たな」
「あそこの扉の向こうが、外に通づる扉なのだそうだ。それが、どういうわけか開かなくなってしまった」
「……え、あそこ開けたら出られたのか!?」
「そういう約束だったのだ。それが、約束が破られた。残されたのは不条理と混沌だ」
ベーゼンドルファーは大きなため息をついた。……開ければ良かったと後悔した。
「我々が再びここから出るには、あの扉を再び開ける必要がある。
引き受けてくれるか」
「……自分でどうにかしな」
「そうか、残念だ。
……ところで、お母さんと妹さんは元気かな?」
「ああ?」
「確か住処は……ウィンザー区、コドリの丘……おっとすまんな個人情報を」
「……家族は関係ねえだろ」
「関係ないさ。これは独り言だ。
私はあまりここに長居できない。しかし、遅かれ早かれいつかはここを出るつもりだ。
その暁に……君に約束を無碍にされたと部下にうっかり話してしまうかもしれんな……」
ベーゼンドルファーは大きく舌打ちをした。
「脅しかよ……」
「そうじゃない。協力しようと言っているのだ。
君が、扉を開けにいく。私が君に情報を与える。……それで二人とも外に出られるなら、
これは商談じゃないかね?」
「悪党が」
「褒め言葉として受け取っておこう。……じゃあ、まずは私が知っている情報を全て君に渡す。
君は『梯子』を登ったということは、『裏口』を知らんようだな」
「……『裏口』だ?」
「……『チクリ屋ベヒシュタイン』」
「そいつがどうした」
「この牢獄に閉じ込められているのは、お前も知っているな」
「ああ。最近静かになったけどな」
「なんで静かになったのか、彼の牢獄に行って調べてみたまえ」
「……」
「それと、『カスタマーセンター』だ」
「?? なんだ? それは」
「私もよくわからん。これは脱出を試みた他の『挑戦者』からの情報だ
どうやら、彼の情報によると『カスタマーセンターで、タイムリセットができる』らしい」
「おいおいおい。全く話が見えねえが今のはだいぶ核心に近い情報なんじゃねえのか?
そいつはどうした。城から出られたのか」
「さあなわからん。なにせ、彼は戻ってこないのだ。そして、依然として下水道の大扉は開かないままだ。
これが何を意味するか、わかるか?」
「逃げたか、死んだか……まあ、死んだんだろうな」
「生前、彼が私にくれた情報は、その『カスタマーセンター』についてだ」
「……なんなんだ? その『カスタマーセンター』ってのは」
「わからないよ。それは。とにかく『カスタマーセンターでタイムリセットができる』
そして……カスターマーセンターで『外に出たい』といえば、強制エンドができるんだそうだ」
「全くわからん」
「まあ、とにかく『カスタマーセンター』を探すことだ。
そして……『銀行の暗証番号もカスタマーセンターで聞ける』そうだ」
「覚えることがいっぱいあってだな……」
「覚えてもらうさ。君の家族のためでもあるのだからな」
「誰かが代わりに覚えてくれたら楽だな……」
「悪党は誰にも頼らないのではないのかね?」
ディア・パソンが言うと、ベーゼンドルファーはため息をついた。




