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魔術師スタンウェイとの出会い

これで、何度目のループだろう?

磯端建成は「死んでしまうとは何事か」という王からの何度目かの文句を聞きながら考えた。

何度も何度も、景色の変わらず、面白くもない廊下を何キロも何キロも歩かされては、死んだことにされ、見飽きた王の前に連れて来られる。


 建成が思っていた異世界の様子と全く異なるこの事態に建成はノイローゼになり始めていた。

RPGとは「廊下をパンチしてゲットアウト!」の略なのではないかというつまらぬ概念を抱きつつあった。


 これは良くない。何かを変えねばならない。


 どうやらあの廊下に出たら、左右の扉から次の部屋に出ないといけないのだろう。しかし、

最初の一度目をビギナーズラックで開けてしまった建成に二度目は遠かった。

そして、いつ終わるともわからぬ無限のループの回廊、死して王の前まで戻され、また廊下を歩かされるという様は、

もはや異世界転生とは言えず、悪い夢の中のように思えてきてしまった。


 ああ、今頃俺は冒険に出ているはずなのだ。このようなところで停滞している場合ではないのだ。

気持ちとは裏腹に、目の前の景色は頑固なまでに変わらない。

なんでこうなったのか……


 ……ふと、王の間に連れてこられる間に、白装束の女性が自分に向けて「逃げて!!」と言って、

そのまま兵士に連れていかれる風景を思い出した。

あれはなんだったのだろう? あの女性に再び会うことが叶えば、この現状を変えることができるかもしれない。


 王の小言を聞いている間、建成は王の間の「わき」にある扉を見張っていた。

その部屋には数人の兵士が出入りしている……


「では、今度こそ20分以内に城を出よ。行け! 勇者建成!!」


 建成の後の大扉が開いて、もはや親の顔より見たのではないかと思わせる廊下の風景を眼前に建成は、


「……ちょっと、失礼」


 と、王の間の脇の小部屋を目指した。


「そっちではない! どこに行く建成!」


 律儀に説教をしてくる。こんな所ばかりがリアリズムだ。

建成は一旦、聞こえないふりをして、兵士が出入りする脇の小部屋を開けた。


 建成の期待した通り、そこには先ほどの白装束の女性がいた。

高速されて、足に怪我をしている。


「勇者殿! この部屋はいけませぬ!」

 

 兵士に止められた建成だが……


「ちょっと、そこの人に用がある!」


 と無理やり兵士を退かし、女性の前まできた。

女性は、憔悴しきっていた。


「もしもし……」

 

 なんと声をかけていいかわからず、建成はとりあえず思いついた言葉を口にした。

女性は建成の方を振り向く。


「あなたは、勇者様?」


「ええ。勇者建成です。あなた、ここの入り口で騒いでた方ですね?」


「……逃げ損ったのですね……」


「そのようです。それで、この城で何が起きているのです?」


 女性が、拘束具を痛がっているので建成は小刀で拘束具を断ち切った。

すると女性は静かに語り始めた。


「……ドゥングリの呪いです」


「呪い……」


「まず、私は王の命令でこの城に派遣された魔術師です。 

 王からの命令は、戦争状態にある隣国、シュットシテットとの講和が思うように いかないために、

 隣国が短期決戦を挑んでくると予想して私に、城の結界を張るようご命じになら れました。」


「その辺りの事情はわからないし、私には関係のないことなので端折っていただいて結構です。

 どうすれば、この城から出られるのです?」


 正直すぎる建成は、結論を急いだ。


「……まあ、じゃあ背景は端折りましょう……。

 この城は今、迷宮のようになっております。サーガビーアンの巣のような迷宮です」


「サーガ……なんです?」


「ようは、入り組んだ迷路ということです。それも恐ろしく広大な迷路です」


「それはなんとなく察しました。出口は、どこですか」


 建成の圧が強い詰め方に戸惑いながら、女性魔道士は記憶をたどりながら、

辿々しく答えた。


「ドゥングリの守護獣、【『モアー』の間】に行き、守護獣を討伐する必要があります。

 討伐後、『何を望む?』と聞かれることでしょう。それに対し、

 『我は騎士の誓いを立てることを望む』とお答えください。さすれば、この城から出られるでしょう」


 と、言われた建成は、どこか魔術師の言葉の端々に既知感があった。


「あ、あれのことですな!?」


「え?」


 なんてことはない。最初で、あと一歩のところまで来ていたのである。

それなら恐るるに足らずなのである。最初の廊下。それだけなんとか抜けられれば、あとはそこまで複雑な道では無かった。

守護獣とやらも建成にかかれば容易い相手である。


「あの緑色の巨人ですな!? あれなら大丈夫! 倒せます!」


「【モアーの間】まで行ったのですか!?」


「ええ! 最初の廊下さえ抜けられれば、あとはお任せください! 迷宮、恐るるに足らずです!!」


 建成がそういうと、女性魔道士の顔が変化していった。それは明らかに絶望の顔であった。


「なんてこと……」


「なんです?」


「モアーの間に通じる扉は……『一度しか開かない』のでございます……」


「……はい?」


「この迷宮は、20分たてば全てが20分前にリセットされます。ただモアーの間の扉だけは!

 それだけはリセットされない一度きりのチャンスだったのであります! 

 勇者様は、守護獣からの質問になんと答えたのでありますか!?」


 ……確か……


「…… ……『とりあえず城から出たい』……」


 女性魔術師は肩を落とした。

建成も同じだった。

冒険は始まらないどころか、悪い夢から覚めることすらできないことがわかった瞬間である。


「これは……どうにもならぬのですか……」


「一つだけ、方法があるとすれば、この迷宮の『どこか』にて『モアーリセット』を行う必要があります。

 しかし、その方法も、場所も、私にはわかりません……」


「く……!!」


 建成は、数時間前の自分を激しく呪った!

しかしいくら呪えども恨めども、時間は返らないのである!


「諦めるわけにはいかない……魔術師どの! 最初の廊下は出られますか!?」


「は!? はい……まあそこまでなら……」


「行きましょう!! 私は帰るんです! 現実世界に帰るんです!! 千歳船橋に!!」


 磯端建成。異世界の冒険物語史上、最もスケールの小さく、最も絶望感のある、

『最初の城からの脱出』の始まりであった。



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