あなたに託すでやんす
【ガラスの動物園】
エリーを目の前で失った悲しみに浸ることも許されないベーゼンドルファー。
……仲間を失うのとは違う悲しみだ。自分の心の聖域を踏み荒らされたような……
薄い氷の膜の張られた心の湖面を、土足で踏み荒らされた気分だった。
それでも立ち止まるわけにはいかなかった。
ベーゼンドルファーは17番、カワウソの像を祭壇に捧げ、開いた奥の扉の先に進んだ。
【正直村と嘘つき村の分岐点】
気持ちを切り替えなければ。と、念じている時点で切り替えられてはいないのである。
目の前でエリーが消滅した情景を何度も拭い去っても、脳内で再生されてしまう。
もうエリーに会えない……?いや、『ループ』が終わればまた復活するのだとは思う。……つまり、
今回で城を脱出するのであれば、このまま会えないかもしれない。
ちゃんと、別れを済ませてない……。
いや、問題はそれだけじゃない気がする。だがこの時のベーゼンドルファーには、そのことを考える余裕すらなかった。
Y字路まで辿り着き、
もう何度も顔を合わせた門番と相対する。
さて、関門だ。ベーゼンドルファーは、建成ほどの人相見の力はない。
つまり、自力でこの、『正直村、嘘つき村』問題を解かないといけない。
……が、もうその問題に向き合うことにも困難なほど、ベーゼンドルファーの心はささくれていた。
もう、何を聞いても同じな気がする。
「……どうせ……(ため息)
例えばよ。俺が『右は嘘つき村』か?と聞いたらよ、
お前は『はい』っていうんだろ……?」
「……
……
……はい」
? なんだ今の間は。城のレギュレーションに従うための思考時間か?
ベーゼンドルファーは直感で、こいつは正直村の出身だと感じた。
疑心半疑ながらも、ベーゼンドルファーは右の道を進んだ。
【嘘つき村】
『定位置』にいたのは、『愚者』オーバーマッチョだった!!
『二重質問』、これが『正直村、嘘つき村』を正解へと導く正しい解だが、ベーゼンドルファーは自然とこれをやってのけたのだった。
そして、息をするかのようにオーバーマッチョのパンツから『嘘こそ真の鍵』をスることに成功した。
そして……今会ったのが『正直村の門番』であることがわかった。
確か相当昔にヒントをもらって、なんなら一度挑戦した時にえらい目にあったことがある。すなわち……
『正直村の門番のおばあちゃんを気遣え』というやつだ。
【正直村と嘘つき村の分岐点】
「なあ」
ベーゼンドルファーはY字路で立っている門番に話しかけた。
「……お前のおばあちゃんは、元気か?」
すると、門番は悲しそうな顔をした。
「会えてないでやんす。心配でやんすよ……」
「おう……だろうな。……俺に手伝えることはあるかい?」
「ばあちゃんに会ってくれるでやんすか!?」
確か、この前失敗した時は、このまま納豆の雨が降る悲惨な場所に連れて行かれた。遥か過去の話のようだ。
ベーゼンドルファーは覚悟を固めた。
「ああ。任せろや」
「なら……」
門番は、自分の衣服を漁った。
『失敗』した時には見られたかったモーションだ
門番は、小さい紙切れを取り出し、ベーゼンドルファーに渡した。
「これを貴方に託すでやんす。ばあちゃん、一人暮らしで心配なんでやんす。
もう肩が上がらないんでやんす。可愛そうでやんすよー。
貴方がいって、ばあちゃんの体ほぐしてやってほしいでやんす」
渡された紙には、『肩たたき券』と書いてあった。
……なんだかわからぬが、どうやら今回は『正解』で、このアイテムは今後重要そうな気がする。
……ただ、『ばあちゃん』って誰のことだろう? 今後会う人物だろうか?
ベーゼンドルファーは『肩たたき券』を懐にしまった。
【気まずさのエレベーター】
もう、エリーは自分を待ってくれない。
……しかし、喪失感だけにはとどまらない非情な現実がベーゼンドルファーを待ち受けていた!!
「ラーシャーセー」
エレベーターガールの代わりにエレベーターの操作板に陣取っていたのは、
【王家の試練の間】で散々ベーゼンドルファーを苦しめてきた、腹の立つ顔で全長2mの巨大猫だ!!
「な……んでお前がここに……」
「ウシシシシシ……」
猫は、ベーゼンドルファーを待ち受けていたかのように、悪い、そして気に触る顔を浮かべて笑い出した……。




