さっきってのは、いつのだ。
【正直村と嘘つき村の分岐点】
怖いものを見て、半泣きのスタンウェイは、黙って建成の背中に乗った。
ベーゼンドルファーは首を何回か捻ったり回したりした。先ほどの平手打ちが中々の威力だったのだろう。
【気まずさのエレベーター】
エレベーターガールは、頬を押さえて痛そうにしているベーゼンドルファーを見て、困惑していた。そして……
「何も本気でぶつ事ねえだろ」
「自業自得です! バカ!!」
などと、目の前で痴話喧嘩をしているベーゼンドルファーとスタンウェイを見て、思わず唇を噛んだ。
「…… ……うえにいきますか…… ……したにいくんですか……」
エレベーターガールは、恨めしそうにスタンウェイを見ている……
スタンウェイもそれを感じ取ったようで、何にそんなに自分はこの女性に嫌われているのか納得できないでいた。
「螺旋階段にお願いします……」
スタンウェイが、なるべく敵意のない笑顔で応えると……
「……チ……」
エレベーターガールが舌打ちをして機械を操作した。
エレベーターが昇降中、スタンウェイは建成の背中で、かつてないほどの『気まずさ』を覚えた。
【石畳の螺旋階段】
「ぜえ…… ぜえ……」
建成の疲労はピークに達していたが、この螺旋階段でこそスタンウェイを運搬しないといけない。
建成の姿をみて、ベーゼンドルファーは嫌な予感を覚えた。
「おい…… この先だけど……大丈夫か?」
「何が……」
「お前、の、歌のターンだけど……」
建成は答えずに親指を突き出した。
少しだけ、ベーゼンドルファーは、建成が頼もしく見えた。
3人は螺旋階段を降り切り、すでに鍵は開いている騎士の扉を開けた。
【『国歌』をファルセットで上手く歌えるまで出られない部屋】
「じゃあ、頼むぜ……」
「ああ……すまん……ちょっと……息を整えていいか……」
「いいけど、あまり時間はねえからな。さっきタイムリセットしてないから……」
「わかった、わかったから……」
建成はスタンウェイを降ろし、手を膝について息を整えて、部屋の中央まできた。
そして、大きく息を吸い込み、歌い出した。
「おお、我らの地、ドゥングリムックリ 豊かさ響くこの大地 膨らむ腹は栄光の証 食卓は我らの命の源
満ちよ、満ちよ、我が祖国よ デイヴの名の下、共に栄えん 豊かな未来を、その『手に掴め』 ドゥングリムックリ、永遠に輝け!
四季巡る美しき山河 春の芽吹き、秋の実り 王デイヴよ、その御旗のもとに 民は一つ、心を合わせ
満ちよ、満ちよ、我が祖国よ デイヴの名の下、共に栄えん 豊かな未来を、その『手に掴め』 ドゥングリムックリ、永遠に輝け!」
…… ……扉は現れなかった。
「おい……なあ勇者よ……そのな……元に戻ってるな」
「……ぜえ ……ぜえ……はあ?」
「いや、だからその…… 悪い癖が戻ってるな」
「悪い癖? なんだそれは……」
建成は、目玉の親父の真似はできるが、ファルセットを理解したわけではなかったのだった!
それに気がついたスタンウェイが……
「建成! 目玉の何がしです! 『オイ鬼太郎!』てやつです! 『その手に掴め』の部分で、目玉の何がしの真似をすればいいんです!!」
「…… ……あー……うん」
建成は、今一度、手を膝に突き、息を整えた。
「おい、急げよ?」
「……わかってるって……」
そして、息を大きく吸い込み、もう一度国歌を歌った。
「おお、我らの地、ドゥングリムックリ 豊かさ響くこの大地 膨らむ腹は栄光の証 食卓は我らの命の源
満ちよ、満ちよ、我が祖国よ デイヴの名の下、共に栄えん 豊かな未来を、その『おい鬼太郎』!! ドゥングリムックリ、永遠に輝け!
四季巡る美しき山河 春の芽吹き、秋の実り 王デイヴよ、その御旗のもとに 民は一つ、心を合わせ
満ちよ、満ちよ、我が祖国よ デイヴの名の下、共に栄えん 豊かな未来を、その『おい鬼太郎』!! ドゥングリムックリ、永遠に輝け!」
……歌詞は『おい鬼太郎』に変わったが、ファルセットができてない!
建成は、この数分間でファルセットを完全に忘れてしまった!
「馬鹿野郎! さっきはできてたじゃねえか!! さっきのをやれさっきのを!!」
「……さっきの……ってのは……いつのだ……」
建成の頭は、いわゆる過呼吸に近い状態になっており、意識が朦朧とし始めていた。
そして、今度は地面に膝をついた。
「建成!!」
ベーゼンドルファーが駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
建成は、スタンウェイの言葉にも反応しなくなっていた。
「あーやばい、やばいぞこれは……!! 」
スタンウェイが必死に呼びかけるが、建成は反応しなかった。
そして……
……非情にも、最後のタイムリセットから20分が経過してしまったのであった……




