今何本?
「しまった! 何をしているのだ俺は!!」
建成が後悔したのは、悲しいかな王の間に転生してからだった。
それでも、王の間の兵士たちは、全力で作業にかかっていた。
今回から建成がやることは、この『スタンウェイ』が運ばれてくる『待ち』の時間に、先行して馬小屋に行き、馬を1匹鎖を解くと言う事だった。
「放て!!」
王の号令とともに、兵士たちの矢が、兵士詰所に放たれる。
建成は、王たちを信頼し、一人、王の間を後にした。
【無限回廊】
スタンウェイが背中にいないだけで、これほどまでに体が軽いものなのか。
建成は、猫の子、犬の子よりも速く、廊下を進んで王の間から数えて69番目の右の扉を開けた。
【『もう』と鳴く馬小屋】
「もう」
「よしよし。頼むぞ『いったん木綿』」
建成は、一番手前の馬の鎖を解いた。
しばらくして、遠く王の間の辺りから ピィィ……と言う音が響いたと思うと、
いったん木綿は王の元まで駆け出していった。
ややあって、『いったん木綿』は、チャリオットを引いて戻ってきた。スタンウェイが乗っている。
「お待たせしました!建成!」
「早い! 早いぞスタン!! 」
「チャリオットの設計者、ガリガーリンさんから言伝があります。
『耐久値は向上したと思うが、その分重くなってしまった。螺旋階段を登り切る頃には戦車は壊れてしまっているだろう。
次のフィードバックを待ってほしいそして……吉報を期待している……』とのことです」
「……わかった……」
建成は、チャリオットに乗り、馬を進ませた。
【くだらない螺旋階段】
いったん木綿が引くチャリオットは、ガコンガコンと階段を駆け上がる。
そして、階段を駆け上がっていくベーゼンドルファーに追いついた!!
彼は後から追ってきた戦車に白目を剥いた。
「な!! ……なんだそりゃあ!!」
「見たかユーレイ!! これが団結の力だ!! もう我々を出し抜けると思うな!!」
「チ……そういう言葉を吐く前に、是非前回の自分のポンコツ具合を振り返ってもらいたいところだが……
まあ正直俺にも悪い部分はあった! そもそも、騎士の扉の向こうはお前じゃないと進めないのだ。
仕方ねえ。俺も乗せてく……」
チャリオットは、ベーゼンドルファーを置いて階段を駆け上がっていった。
「すまんなユーレイ!! 『これは二人乗りなんだよ!!』 ……これは藤子不二雄先生がスネ夫に言わせた言葉だ」
「馬鹿野郎!!!」
【気まずさのエレベーター】
建成とスタンウェイは、チャリオットから降りた。
確かに車輪が一つ、崩壊しかけている。
このまま階段を昇り降りしていたら脱輪しかねない。
「仕方ない。今回はここまでの別れだ。世話になった。いったん木綿」
「もう」
一方、エレベーターガールは、やってきた建成とスタンウェイに戸惑っているように見えた。
それを見て、建成は、
「もしばらく待っていただきたい。エレベーターガールどの。もうしばらくしたら奴がきまする」
そう言われて、エレベーターガールは、思わず息をついた。
「盗賊が来たら、『おすすめ』の階でお願いします」
スタンウェイが言うと、エレベーターガールはスタンウェイを睨んだ。
急に向けられた敵意の意味もわからず、スタンウェイは戸惑うばかりだった。
やや遅れて、ベーゼンドルファーが走ってやってきた。
「遅いぞユーレイ」
「……馬鹿野郎……」
三人は、エレベーターに乗り込んだ。
「上に参りますか? 下に参りますか?」
「??……さっき『おすすめ』と……」
スタンウェイが不思議そうに言い返すと、またもやエレベーターガールに睨まれた。
「……すまねえ。『おすすめ』に頼むぜ」
「かしこまりました」
ベーゼンドルファーが依頼すると、エレベーターガールは笑顔を見せた。今まで見たことない表情だ。
スタンウェイは、わけがわからなかった。
【世界最後の喫煙所】
「今度こそ! 今度こそ騎士の鍵を取ってくるからよ。待っててくれ嬢ちゃん
今度酒飲もうとしたら、手を出してやめさせる」
ベーゼンドルファーは、指をポキポキと鳴らした。
「……大丈夫ですか? 建成」
スタンウェイが気遣うと……
「大丈夫。さっきのミスが逆にガス抜きになった。
電話ボックスで会おう」
「はい……」
建成と、スタンウェイは、地下の酒場に通ずる、半壊した扉の前で別れた。
【絵もない、花もない、洒落もない居酒屋】
「らっしゃい……」
建成は、壮年男性客の隣に座った。
「もしも嫌いでなかったら、何か一杯飲んでくれ」
「そうねダブルのバーボンを、遠慮しないでいただくわ」
マスターが音楽を止めた。
【会員制バー『ウッドフルーツオブ・ナナ』】
マスターが、建成のグラスにバーボンを注ぐ。
建成は、辛抱強くまった。
「それじゃ朝まで付き合うか。悪い女と知り合った」
「別に気にすることじゃない。あなたさっさと帰ってよ」
マスターは、カウンターの下のボタンを押すと、
ゴゴゴゴゴ……と、隠し扉が現れた。
「おし。いくぞ」
「ああ」
建成と、ベーゼンドルファーは、隠し通路の奥に進んだ
【王家の儀式の間】
儀式の間には、相変わらず、腹のたつ顔の猫が太々しく座って、二人を待ち侘びていた。
「忘れてた……コイツがいたぜ……」
「動くな! ユーレイ」
建成と、スタンウェイは直立し、目を固く閉じると、
腹のたつ顔の猫はゆっくり立ち上がり、
「シュゴシュゴシュゴッシュゴ……」と息を立てながら、早速ベーゼンドルファーの前に立った。そして、歌を歌った。
「グーとパーで♪ グーとパーで♪ 何作ろー♪ 何作ろー♪
右手がパーで、左手もパーで♪
……5本足の人ー♪ 5本足の人ー♪」
いったいどんな形の人間なんだ!? 普段はこんなくだらないことに相手にするベーゼンドルファーではないのだ!
しかし『気にしてはいけない』と思ってしまうほどそれは恐ろしく思えてきてしまう。
ベーゼンドルファーは、目を閉じたことを後悔した。
猫の歌は容赦無く続く。
「グーとパーで♪ グーとパーで♪ 何作ろー♪ 何作ろー♪
右手に4本足して、左手に補充、さらに右手に3本足したら、左手に8本移して、右手を補充、左手に3本追加で……
今何本♪ 今何本♪」
ベーゼンドルファーは、奥歯を噛み締めて耐えた!!
グシュングシュングシュン……と、猫の息の音が響く。
「……ま、猫に指なんてないんだけどサ……」
その後、ベーゼンドルファーは、耳に屁をひっかけられた。
ガムのゴミを耳に詰められた。みぞおちを猫パンチされた。
そのほか、地獄のような責め苦を受けたがついに5分と言う時間を耐えきり……
ぱあん!!……と言う音を立てて猫が消滅し、天井から『騎士の鍵』が降ってきた。
ベーゼンドルファーは息を深くついて、騎士の鍵を拾う。
「オイ……俺のこの苦労を無駄にしたら、今度こそ殴るからな……」




