O-jan
血路は開けた!
後は歌の試練に挑むだけである!
そして歌の鍛錬の時間を費やしてしまったために、三人にはタイムアウトが迫っていた。
せっかく作ってもらった台車も、螺旋階段は登れない。
建成はスタンウェイを台車から下ろし、自らの背中に背負うと、螺旋階段を駆け上がっていった。
【気まずさのエレベーター】
エレベーターガールは、心なしか落ち着きがなかった。
それは、いつも決まった時刻にくるはずの意中の人物が、今日はなぜかなかなか来ない時の、心の『ざわめき』だった。
エレベーターガールは、階下から走ってきたベーゼンドルファーを見ると、
「ふぅ……」と、胸を撫で下ろした。そして、
指を、『世界最後の喫煙所』の階に用意しながらも、
「上に行きますか? 下に行きますか?」 と聞いてきた。
おそらく、声が聞きたいのと、この些細なやりとりが、彼女にとっての精神安定剤になっているのだ。
しかし……
「おすすめで!!」
と答えたのは、またもや『知らない女』であるスタンウェイだったために、
明らかにエレベーターガールは、気分を害したようだった。
彼女は無言で、若干震える指でエレベーターを操作した。
【世界最後の喫煙所】
「……おい勇者、わかってると思うがな、今のままじゃダメだからな」
「なんの話だ」
「歌だよ! 『裏声』使えるようになっても歌詞が『オイ鬼太郎』のままじゃいつもみたいに台無しだからな! と、わざわざ忠告してやってんだ!」
「……『ユーレイ』よ……その忠告はありがたいのだがな、お前、なんだか言葉強いな」
「は?」
「俺はプレッシャーに打ち勝たねばならんから、ナーバスになってる。
そんな俺に、言い方がキツすぎやしないかと言っているんだ」
「……めんどくせえなあ!」
酒場に通ずる半壊した扉の前で、建成はスタンウェイを降ろし別れた。
「……念の為に言っとくがな、くれぐれもヘマすんなよ!? 」
「わかっておる!」
建成とベーゼンドルファーは、階段を降りた。
【絵もない花もない洒落もない酒場】
「いらっしゃい」
建成は壮年男性客の隣に座った。
「間違えるなよ!!」
ベーゼンドルファーは、逐一建成を見張り、指摘してくる。
「もしも嫌いでなかったら、何か一杯飲んでくれ」
「間違えるなよ!」
「……そうね、ダブルのバーボンを、遠慮しないで……いただくわ」
マスターは、音楽を止めた。
【会員制バー 『ウッドフルーツオブ・ナナ』】
「よーし慎重にいけよ勇者。鍵だぞ、鍵を取りに行くんだ、くれぐれも間違えるなよ!!」
怒鳴るベーゼンドルファーの前で、マスターが建成のグラスにバーボンを注いだ。
「いいか! 間違えたら全て『おじゃん』だぞ!」
ベーゼンドルファーは、自分ではどうすることもできない状況に苛立っている様子だった。
わからなくもないが、強い言葉を浴びせられ続け、建成はまいってしまっていた。
「わかっておるというのに!!」
建成が大きくため息を吐くと、さすがのベーゼンドルファーも申し訳なくなったのか、黙り込んで下を見てしまった。
「……家族の、命がかかってるんだ。お前に頼るしかないんだ……頼む」
ベーゼンドルファーは、初めて建成の前で弱音を吐いた。
「そうだったのか……」
「俺にだって、家族くらいいるんだ。……頼む、建成」
「……わかった」
建成は、ふう、と息を吐き出すと、
覚悟を決めてバーボンを飲み干した。
……バーボンを、飲み干した。
「いくぞユーレイ」
「……ああ」
二人は、ゴゴゴゴゴ……とマスターの後に現れた、扉に進んだ。
【国歌を永遠と聞かされる部屋】
ドゥングリムックリ国歌
一番おお、我らの地、ドゥングリムックリ豊かさ響くこの大地膨らむ腹は栄光の証食卓は我らの命の源
(コーラス)満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、その手に掴めドゥングリムックリ、永遠に輝け!
二番四季巡る美しき山河春の芽吹き、秋の実り王デイヴよ、その御旗のもとに民は一つ、心を合わせ
(コーラス繰り返し)満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、その手に掴めドゥングリムックリ、永遠に輝け!
……と、の太い男性の声で歌っている。
「おい……ここは……」
「……ん?」
「『騎士の鍵』は、ここじゃないんじゃないか!? おい建成!!」
「……すまん」
「何やってんの!? 何やってんの!? ねえ!!」
「あんまり怒鳴らんでくれんか……頭に響いて……」
「これだからポンコツは嫌いなんだ!! あーもうやだ!!!!」




