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おい●●


「二人には本当に申し訳ないが、俺には皆目わからん!」


 建成は、『裏声』という言葉を聞くだけて喉の辺りに違和感を感じてしまうようになった。


「諦めてどうすんだ! お前がやらんと話が先に進まんぞ!」


「だったら……」


 建成は、螺旋階段に座っているベーゼンドルファーを睨みつけた。


「お前がやったらどうだ。『ユーレイ』

 ずっと疑問だったんだ。なんで、転生者に異世界の国家なんて歌わせるんだ」


「悪いが俺は、宗教上の都合で歌を2度と歌わないと神に誓ったんだ」


 建成はスタンウェイを見た。


「そんな宗教あるのか」


「ありません。見えすいた嘘です」


 スタンウェイに見抜かれて、ベーゼンドルファーは真っ赤な舌を出した。


「とにかく俺はパスだ」


「私も、建成が裏声をマスターする方が早いと思います」


「うーむ……」


 建成は合点がいかなかったが、揉めている時間が惜しい。

状況を飲み込み、モヤモヤを腹に収めて、とにかくやってみることにした。


「で、どうすればいいんだ。『裏声』とは」


「取り敢えず歌ってみ」


 ベーゼンドルファーが偉そうなのが気に入らないが、

建成は、問題の部分、すなわち

『その手につかめ』の、ファルセットになる部分を歌ってみた。


「その手につぅかぁメェ!!」


 高音が確かに出づらいが、無理すれば出せないこともない。


「はいはいはいはい。そこです。『掴め』の部分を裏声にしたいんです」


「それはわかってるんだが、……いや、わからんのだよ。裏声が」


「『掴め』の部分で、喉を切り換えるんです」


「!???!??!」


 歌の途中で、喉を切り換える。それは建成にとって、今までない概念だった。


「……それは、転生者にもできることなのか」


「関係ありません。『わかってしまえば』できるはずです」


「うーむ」


 喉を切り換える、の意味がさっぱりわからないが、取り敢えず建成は歌ってみることにした。


「その手に……」


 そこで建成は、喉を叩いてみた。


「ツゥカァメェ」


「……何やってんだ?」


「『喉を切り換える』がわからんのだ!」


「そういうことじゃねえんだよなんでわかんねえかな!!」


 ベーゼンドルファーは苛立っていた。


「そんなことを言われてもだな……」


「建成、わかりました。『掴め』の部分で、力を抜くんです」


「……ん?」


「建成は、今まで『掴め』の部分で力を入れてました。真逆のことをするのです」


「力を……抜く」


 呼吸を整えて、建成は歌ってみた。


「その手に、(脱力)るぅらぁれぇ……」


「歌えてねえ!!」


「俺は言われた通りに力を抜いてみたんだ!」


「『違う』ってことぐらい自分で気がつかんか!?」


 建成は、もう嫌になっていた。


「頑張って! 建成」


 疲弊しているのは、スタンウェイも一緒だった。

『裏声』を知らない人に、『裏声』を教えるという行為が、これほど難しいとは思わなかったのだ!


「俺はどうすれば……」


「だぁかぁらぁ!! 声を裏返すんだって! なんでわかんねえかなあ!!」


「じゃあお前やって見せてくれ!!」


「嫌だ!!」


 偉そうなわりに、ベーゼンドルファーは自分で手本を見せるということは意地でもしないつもりだった。


「とにかく! やれ!! 声を裏がえせ!!」


「…… ……その手にうォェェェェ!!」


「汚ねえな!! 俺は『声』を裏がえせつったんだ! 喉を裏がそうとすんな!!」


「どう違うんだ!!」


「わかんねえかなぁ……なんでわかんねえかなぁ……このポンコツ!!」


「頑張って! 建成!」

「バカ!」

「建成!」

「ポンコツ!」

「建成!!」

「ダメ勇者!」


 ここで、建成の心は完全に折れた。


「できん!! 俺には出来ん!!」


「建成!!」


「言わせておけばお前たちは! やれ声を裏がえせだの力を抜けだの! 喉を切り替えろだの!!

 好き勝手言いよってからに!!」


「お前が飲み込みが悪いのが悪いだろ!!」


「あー悪かったな!! とにかく俺はもうやらん!! 今神に誓った! 歌は歌わん!」


「勝手を抜かすな!!」


「勝手はそっちだ!!」


 見ていられない喧嘩である。

スタンウェイも、もう万策尽きて、どうしたらいいものかわからなくなってしまった。

それは、最初から出口のないトンネルをひたすら歩いているような感覚だった。


「俺ばっか責めないでくれ!! 」


 チームの柱としての重圧に、建成はついに負けた。


「お前ら知らないのか! 水木先生が

 『家族はこの世を渡る唯一のチームなんだ!!』と目玉の親父に言わせた名言を!!」


「「!?!?ちょっと待ったあ!!」」


 ベーゼンドルファーとスタンウェイの声がハモって、建成は思わずびっくりしてしまった。


「……いま、なんて?」


「だから、目玉の親父の名言だ!!」


「それじゃねえ!! そいつが、なんて言ったんだ!?」


「……なんだっけ!? ……忘れた!!」


「建成! その、目玉の何がしは他に何か言ってませんでした!?」


「??…… …… ……『オイ、鬼太郎』」


「「それだーー!!!!!!!!!」」


「わ、なんだなんだ!?」


「今のです建成! 今のが、『裏声』です!!」


「……?? ……『オイ、鬼太郎』」


「それです!! 建成は、裏声が実は得意だったんです!!」


「?? ??すまん、いまいち、なんのことかわからん!」


「なんで! なんでわかんねえんだ! 今のだよ!」


「?? ??『オイ、鬼太郎』」


「それだよ!!」


「これが、なんなんだ? 俺は特別何かをした感覚はないのだ」


「それが、『裏声』なんだよ!! あー畜生! あと一歩なのに!!」


 ベーゼンドルファーはもどかしさのあまり、頭を掻きむしった。


「建成! 試しに……『その手に掴め』の部分を、目玉の何がしに歌わせてみてください」


「嬢ちゃん……そんな無茶な……」


「いいから!!」


 建成は、息を一度大きく吸い込み……


「『そのおい鬼太郎ーー』」


 …… ……歌詞は違う。しかし、それは見事なファルセットだった。


「出来た……!! やりましたよ建成!! 『裏声』をマスターしたんです!」


「うん。お前にしちゃ上出来だよ『勇者』 まあ、歌詞を修正する必要はあるがな」


 なんだかわからないが、血路は開けたという。

迷った時に、道を示してくれる。建成は、やはり水木しげる先生は偉大だ。と、そう感じた。


 


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