ドゥングリ・チャリオット
王の間。
転生した建成は、正直、モヤモヤしていた。
どんなに頑張ってもあの『国歌を上手く歌わないと出られない部屋』を突破できそうにない。
突破するには、『裏声』なる技術が必要なのだそうだ。しかし建成には、
『裏声』なるものがまるで理解できなかった。
……そんな建成の葛藤など他所に、兵たちは全力で自分の元にスタンウェイを連れてきて、
この部屋から追い出そうとしてくる。
「放てい!!!」
今日は国王の号令と共に、王の間の兵士が一斉に詰所の扉に弓を放った。
矢によって破壊された扉に、少数の兵士が突入する。
一方で、弓を放った兵士たちは、ガリガーリンの元に集まり、何やら工作をしている。
部屋中にトンタンカンコン!!! というにぎやかな音が響く。
兵士たちが、椅子ごとスタンウェイを運び出すと、
トンタンカンコンやっていた兵士たちは……なんと即席のリアカーを組み立て、
建成の前までやってきた。
「これは……」
「我が国の最新技術、『ドゥングリ・チャリオット』だ」
人差し指でメガネの位置を調節して、ガリガーリンが説明を開始した。
「二人までなら乗れる。本来なら『馬』に引かせることを前提としているが、そこの廊下までは、
この者たちに引かせよう」
そう言って後から現れたのは、小デイヴと、デビッドだった。
「勇者様、我々は王の側から離れることはできませぬ。
しかしそこの廊下まででしたらお供いたします!!」
「……この、台車。耐久値はどのくらいある?」
建成のからの質問に、ガリガーリンは『車』の車輪を撫でながら答える。
「このモデルは即席の試作型だ。あまり耐久値は期待するな。
ちなみにどうしてだ?」
「いや…… 階段を駆け上がれるか? この廊下の先がそうなんだ」
「……わかった。次までに善処しよう」
「すまん。助かる」
「では、建成どの、お付きの方、チャリオットに乗ってくだされ!!」
「うむ!!」
建成とスタンウェイは、小デイヴとデビッドが引く台車に乗った。
「「「いってらっしゃいませ!!」」」
【無限回廊】
小デイヴとデビッドが引く車は、確かに楽でだいぶ体力を温存できるが、これなら自分が走った方が早いな……
と、正直建成は思っていた。
そんな建成の隣で、スタンウェイが何やら考え事をしている。
「建成。 このチャリオットは、本来『馬』に引かせる物と、先ほどの方おっしゃってましたね……」
「うん」
「……『馬』なら……この先にいますね」
「……あ!! そうか!!」
「兵士さん」
スタンウェイが、車を轢いている小デイヴに声をかけた。
「馬は、呼べば来ますか?」
「??……はい。 王の一声でやってきますが……そのためには、馬小屋の馬を繋いでいる鎖を、
解除する必要があります」
王の間から数えて69番目の右の扉の前で車を止めさせた。
「ありがとうお前たち」
「とんでもございません。では、お気をつけて」
「待って」
スタンウェイが去ろうとする兵士たちを止めた。
「建成、王の間に転生した直後は、今何をしてます?」
「今?……そうだな。兵士たちが色々やってくれているから、俺は『待ち』の状態だ」
「なら、建成、流石にもうこの扉の前までは一人で来られますね?」
「そうだな。もう何度も来たからな」
「では次から、王の間に転生したら扉を開けて、全力で走って馬小屋の馬の鎖を解いてください。
兵士さん、戻ったら王に、『次から手が空いたら馬を呼ぶように』伝えてください」
「……そうか! スタンは台車を馬に引かせてここまでくるんだね!?」
「かなりの時短に……なりえます」
建成とスタンウェイは、兵士たちに見送られ、
王の間から数えて69番目の右の扉を開いた。
【『もう』と鳴く馬小屋】
建成は、一番手前で『もう』と鳴いている馬を撫でながら声をかけた。
「これが鎖か。……うん。簡単に解けそうだ。次から頼むぞ
そうだ。お前に名を与えよう。
……『いったん木綿』だ。良い名だろう」
「もう」
建成と、スタンウェイは、馬小屋の奥へ進んだ。
【くだらない螺旋階段】
建成とスタンウェイが、螺旋階段に着いた頃には、
ベーゼンドルファーは二人を待っていた。
「おせえぞ」
「すまん。次から、多分びっくりするほど早くくる」
建成が言うと、ベーゼンドルファーは険しい顔になった。
「俺の前で2度と『次』っていうんじゃねえ」
「……そうだな。すまん」
「さあ!!」
ベーゼンドルファーは階段に座った。
「裏声の特訓だ!!」




