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その手に掴め

【絵もない花もない洒落もない居酒屋】


 『騎士の鍵』を手にした、建成とベーゼンドルファーは、足早に地上に通ずる階段を駆け上がった。



【世界最後の喫煙所】


「……なあ、『ユーレイ』、俺たちは後何回ここに来るんだろうな」


「ああ? 弱気になんな。今回で終わらすって気概を持ってっての」


「わかってるが……『タダより辛い仕事はない』な……」


「……それは誰のセリフだ? 鼠男か?」


「お前もわかってきたじゃないか。『ユーレイ』」


 建成とベーゼンドルファーは、喫煙所の突き当たりの扉を開けた。



【カスタマーセンターにつながる電話ボックス】


「待たせた! スタン!!」


「建成! よかった! 鍵は?」


「この通りだぜお嬢ちゃん」


 ベーゼンドルファーは鍵を出したつもりが、間違えて一瞬、ずっとポケットで眠っていた国宝、『ドゥングリの泪』を出してしまった。


「あ」


 ベーゼンドルファーは慌てて引っ込め、鍵を取り出した。


「な」


 その一瞬の映像を、スタンウェイは見逃してはいなかった……

三人はここで一回、『タイムリセット』を行い、残り時間は20分となった。


 三人は、部屋を出ていった。



【世界最後の喫煙所】


「あの……あの、建成?」


「ん?……あ、ああ。すまんそうだった」


 建成はスタンウェイを背負った。三人はエレベーター方向に喫煙所を走っていった。




【気まずさのエレベーター】


「……上に行きますか? 下に行きますか?」


 気のせいだろうか?今まで無機質で無愛想だったエレベーターガールの声が、なんとなく人間味のある声に建成には聞こえた。


「螺旋階段までお願いします」


 明らかにベーゼンドルファーに向けて質問していたエレベーターガールだったが、スタンウェイという女性が割って入ったことで、

エレベーターガールは明らかに不機嫌になった。

エレベーターガールは、無言でエレベーターを操作した。




【くだらない螺旋階段】



「ここに『騎士の鍵』の扉があるんだな?」


「ああ……そしてその先に……なんでもない。行こう」


 建成とスタンウェイ、ベーゼンドルファーは螺旋階段を駆け降り、騎士の扉の前までやってきた。


「こんなとこにあったか……盲点だったぜ……」


「建成……」


 スタンウェイは心配そうに建成に声をかけた。

建成は、息を整え……


「大丈夫だ。『ユーレイ』、開けてくれ」


 ベーゼンドルファーは、『騎士の鍵』を使い、扉を開いた。




【『国歌』をファルセットで上手く歌えるまで出られない部屋】


「……よく分からんが、ここで国家を歌えば先にいけるんだな?」


「建成……頑張って……」


 建成は、今一度息を吸った。


「ああ。やってみる」


 建成は、スタンウェイを下し、部屋の中央に立った。

スタンウェイとベーゼンドルファーは、そこから先の推移を見守った。



「おお、我らの地、ドゥングリムックリ豊かさ響くこの大地膨らむ腹は栄光の証食卓は我らの命の源

満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、『その手に掴め!!』ドゥングリムックリ、永遠に輝け!」


 建成は1番を歌い切った。音程も悪くはない。しかし……

何かが『違う』ことを、スタンウェイとベーゼンドルファーは勘づいていた。

……案の定、扉が開かない。


 ……建成は、2番を歌ってみた。

「四季巡る美しき山河春の芽吹き、秋の実り王デイヴよ、その御旗のもとに民は一つ、心を合わせ

満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、『その手に掴め!!』ドゥングリムックリ、永遠に輝け!」


 建成は、2番まで歌い切った。

歌詞は正確である。歌も、上手いか下手かで言ったら上手い方だし、声も出ている。

……しかし、扉は開かなかった……


「……く! 歌詞を間違えたか!?」


 建成は頭を掻きむしって焦り出した。


「お、お、おち落ち着け。

 多分だけどな、歌詞はあってる。俺も1時間寝ながら聞いてたから間違いない」


「じゃあ、何が足りないんだ!? 俺の歌唱能力か!?」


「いやー……まあそれも、正直、思ってたよりかは、よかった……と思う。ただー……」


「なんだ! はっきり言え!!」


「なんだろう……俺にも音楽の素養なんてないから分からんが、何かが違うんだ!」


 ベーゼンドルファーの要領を得ない説明に建成は苛立ち出した。


「じゃあなんだというのだ!? 歌詞はあってるんだろう!? メロディーも間違えてないんだろう!?

 なんでダメなんだ!」


「建成」


 焦る建成を、スタンウェイが諌めた。


「建成……その、途中の、『その手に掴め』の部分ですが……」


 スタンウェイがそう言って、ベーゼンドルファーも反応した。


「そう!! そこだ!! そこが、なんか違う!!」


「違う?メロディーか?」


「いえ、メロディーもあってます。その……『裏声』を使ってみてはどうですか?」


「『裏声?』……なんだそれは」


「私も上手く説明できないんですが……建成は、今の部分の歌い方を、『張りすぎている』というか……」


「そう!! そうなんだよ嬢ちゃん!! 俺も同じことを思っていた!」


「?? どういう意味だ? 下手ならそう言ってくれスタン!」


「下手じゃないの! ただ、苦しそうというか……無理して声出してるというか……」


「下手って意味じゃないか!」


「違うんだよー! ああ! なんで伝わんねえかな! 『裏声』だって! 」


「だからなんだその『裏声』というのは!!」


 カオスである。制限時間も相まって、三人とも焦っていた。

一人冷静さを取り戻したスタンウェイが……


「建成聞いて。『裏声』です」


「それはわかった! なんなのだその『裏声』というのは!!」


「声を……ひっくり返してみてください」


「???!????」


 歌の最中に、声を、ひっくり返す。それは建成にとって概念すら存在しない作業だった。

だが分からないなりに……


「その手に……オェェ!!!」


「汚ねえな!!」


「分からん! なんなのだ! その声をひっくり返すというのは!」


「ごめんなさい! 私の説明が悪かった! 建成、声を、裏返すんです!」


「そう! それだ嬢ちゃん!! 声を裏がえせ!!」


「!!??!??!?」


 歌の最中に、声を、裏返す。それは建成にとって、未知以外の何でもなかった。


「…… …… ……オェェ!!」


「汚ねえな!」


 その後も制限時間ギリギリまで建成は、『裏声』に挑戦したが、

全く理解すらできずに、無情にも20分が経過してしまった……



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