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シュレーディンガーの空き缶


「は!!」


建成が王の間に転生すると同時に、国王デイヴ・ドゥングリムックリは脇にさした宝剣を、

兵士詰所に投げつけた。そこに王の間の兵士たちが突入する。

兵士たちに担がれて、椅子に座ったスタンウェイが詰所から現れ、

そこにデビッドとガリガーリンが駆けつけ、椅子に細工を施す。

建成はスタンウェイを椅子ごと背負う。


 人差し指でメガネの位置を正したガリガーリンが建成に話しかける。


「椅子の出っ張り部分に切り込みをれた。どうだ。背負い心地は」


「……悪くない。もう少し軽くなると助かる」


「わかった。善処しよう」


「「いってらっしゃいませ!!!」」


 建成とスタンウェイは王の間から駆け出していった。

その背中を、ガリガーリンはメガネ越しに観察していた。




【無限回廊】


「建成、歌は……」


「うん。バッチリだ覚えてきた!!」




 建成とスタンウェイは、王の間から数えて69番目の右の扉を開いた。



【『モウ』と鳴く馬小屋】


 建成とスタンウェイは馬小屋の奥まで走り抜けた。




【くだらない螺旋階段】


 建成とスタンウェイ、そしてベーゼンドルファーは、ほぼ同時に螺旋階段に到着した。


「おい勇者! 歌は大丈夫なんだろうな!」


「お前に心配されるまでもない!!」


「いーや心配だね! お前抜けてるから」


「『過ぎたことを抜かすんじゃねえ』……水木先生が鼠男に言わせたセリフだ」


「……そいつだけのセリフじゃないと思うけどな」


 建成、スタンウェイ、ベーゼンドルファーは螺旋階段を登り切った。



【気まずさのエレベーター】


「オススメ……」


 とベーゼンドルファーが言い終わる前には、エレベーターガールは操作を済ませていた。


「「「え……」」」


「お前……まさか俺たちが最初に行くところをわかってて、融通を効かせてくれたのか……?」


 ベーゼンドルファーがエレベーターガールに聞くと、

エレベーターガールは恥ずかしそうにそっぽを向いた。




【世界最後の喫煙所】



「念の為おさらいしましょう。今回は、鍵を取りに行ってください」


「五木ひろし先生のお言葉に答えればいいんだな」


「そしてあの鬱陶しい猫からの拷問に耐えればいい。そこまでは任せな。俺が責任持ってこいつに鍵を取ってこさせるからよ」



 スタンウェイを、酒場に通じる半壊した扉の前で下ろし、建成とベーゼンドルファーは扉を開いて階段を降りていった。

……いつの間にか、全員がチームらしくなっている……スタンウェイはなんとなくそう感じながら、

コールセンターにつながる電話ボックスを目指した。



【絵もない花もない洒落もない居酒屋】


「……らっしゃい」


 建成とベーゼンドルファーは、壮年男性客の隣に座った。


「もしも嫌いでなかったら、何か一杯飲んでくれ」


「そうねダブルのバーボンを、遠慮しないでいただくわ」


 マスターは音楽を消した。雨の音が響く




【会員制バー、ウッドフルーツオブ・ナナ】


 マスターが、建成のグラスにバーボンを注ぐ。

建成は震えた手でグラスを取ろうとするが、

その手をベーゼンドルファーが引っ叩いた。


「違うだろ」


「す……すまん」


「……ったく、先が思いやられるぜ……」


 ややあって、


「それじゃ朝まで付き合うか。悪い女と知り合った」


「別に気にすることはない。あなたさっさと帰ってよ」


 マスターは、カウンターの下のボタンを押した。

ゴゴゴゴゴ……と、隠し扉が現れる。


 建成とベーゼンドルファーは、隠し扉の先に進んだ……。




【王家の儀式の間】




 覚悟を決めて直立する建成とベーゼンドルファーの前に、

やたら腹の立つ顔の全長2mの猫が座っている。

猫がゆっくり立ち上がると、建成もベーゼンドルファーも、目を閉じた。


「……猫ちゃんのショートコント。『シュレーディンガーの空き缶』




      A:「これを見ろよ、この空き缶、中身が入ってるかどうか、俺たちには分からないだろう?」


      B:「(腕を組んで)分かるさ。振ってみれば音で分かるだろ?

      A:  いやいや、そんな浅はかな話じゃない。これはシュレーディンガーの猫みたいなもんだ。俺たちがこの缶を開けない限り、中身は「入っている」と「入っていない」が重なり合って存在しているんだ。

      B:  お前、猫の話と缶を同じにするなよ。猫は生き物だろ?缶の中身はただのゴミか、空気かだ。

      A: 違うんだよ、問題は観測なんだ。お前が「空き缶を振る」という行為そのものが、この世界に介入する行為なんだよ。観測した瞬間、中身は「在る」か「無い」に確定してしまう。

        それまでは、俺たちの知らない状態で、無限の可能性を持って存在しているんだ。

      B: (頭を掻きながら)分かったような、分からないような。でもお前、この缶が空っぽだったらどうするつもりなんだ?

      A: それが分かる時点で、もう問題は終わってる。

        缶の中身を考える楽しさ、可能性、期待感。全部、観測した瞬間に消え失せる。そうだろ?

      B:  つまり、お前の楽しみは、缶を開けないで悶々と考えることってわけだな。

      A: (空を見上げて)そうだ。それに、もし缶を開けて何もなかったら、俺たちのこの会話も無意味になるだろう?

      B:  無意味なのは今の時点で分かってるよ

      A:  無意味なことに意味を見出すのが、人間の証明なんだよ。

      B:  で、その缶、どこで拾ったんだ?

      A:  ゴミ箱の横。

      B:  それ、ただの空き缶だろ。

      A:  それを証明するには、開けるしかない。だが、俺は開けない。

      B:  俺は開けるぞ。……ほら、空だろ。やっぱり、お前の話は戯言だ。

      A:  空だと分かった瞬間、この缶はただのゴミになった。お前はこの缶の可能性を殺したんだよ。

      B: ……で? それが何?

      A: つまり、猫は可愛い。


               ……どうも、ありがとうごじゃしゃシャした」


「…… ……はあああ!?」

 建成が大声を出した瞬間、ベーゼンドルファーは肘で建成をこずいた。


 その後も、猫はベーゼンドルファーに対し、バンソーコーの匂いを嗅がせた。

ベーゼンドルファーの鼻の頭にダンゴムシを乗せた。

みぞおちに猫パンチをした。


 ……どういうわけか、猫の攻撃は執拗にベーゼンドルファーに向いていた。

ベーゼンドルファーは必死に耐えた。やがて5分が経過し、

パァン……と猫は光に消え、天井から『騎士の鍵』が降ってきた。


 二人はそれぞれ、すでに一仕事終えたような疲労感を感じていた。

鍵を拾いながらベーゼンドルファーは独り言のようにつぶやいた。


「……本番はこっからだぜ……」



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