分業でいこうぜ。ここは任せろ。
【世界最後の喫煙所】
「スタン……今日もタイムリセットを頼む……」
「安心しろ嬢ちゃん。今回は首に縄つけてでもこのポンコツを目的の場所まで送り届けるからよ」
二人に頼まれたが、スタンウェイには心配事があった。
「それはいいのですが建成、建成は『バーボン』とやらを飲むと具合が悪くなってしまうのでは……」
建成は痛いところをつかれて、ため息をついた。
「それもまかせろ。嬢ちゃん」
ベーゼンドルファーが『ここぞ』とばかりに声を上げた。
「それは俺が飲む。こいつはシラフで歌を覚える」
「え……そんなことして大丈夫なんですか? その……下手なことして『変な場所』に連れてかれやしませんか?」
スタンウェイも彼女なりに、いつぞやの納豆ルームがトラウマになっていたようだ。
「そこは、賭けだな」
歯を食いしばって、建成は答えた。
「賭け……」
「そう、賭けだ嬢ちゃん。あと、コイツに歌の才能があんのかも俺には疑問だが……それも考えたって仕方ねえや。賭けだ」
ベーゼンドルファーにそう言われると、建成は目を閉じて言った。
「『一本百万円のワインだって、本当の価値をわかっている人間などいない。どのみち、排泄物の原料だ』
……鼠男のセリフだ」
「……あ、そ」
建成は、酒場に通ずる半壊した扉の前でスタンウェイを下ろした。
「スタン、1時間くれ。あの部屋は一度入ったら出られないんだ
だから今回でクリアは無理だが……俺は1時間で絶対に国家を覚えてくる」
「わかりました。1時間で……タイムリセットですね」
「嬢ちゃん、『外に出たい』ってカスタマーセンターに言え。そうすればタイムリセットだ」
「はい……」
スタンウェイは、心配そうに、足を引きずって去っていった。
「……行くぞ『ユーレイ』」
「……気安く呼ぶんじゃねえよ」
建成とベーゼンドルファーは、半壊した扉を降りていった。
【絵もない花もない洒落もない居酒屋】
「……らっしゃい」
建成とベーゼンドルファーは、壮年男性客の隣に座った。
「もしも嫌いでなかったら、なにか一杯飲んでくれ」
「そうねダブルのバーボンを、遠慮しないでいただくわ」
マスターは音楽を止めた。
【会員制バー、ウッドフルーツオブ・ナナ】
バーボンが、建成のグラスに注がれる。
震える手で建成がそれを手に取ると、咄嗟に横からベーゼンドルファーの手が伸びてきた。
「おっと。違うだろ」
「あ、ああ。すまん……」
「気負ってんじゃねえよ。分業で行こうぜ。ここはまかせろ」
「ああ。頼む『ユーレイ』」
ベーゼンドルファーが建成の代わりにバーボンを飲むことが『ルール違反』になり、
納豆の雨が降る部屋に連れて行かれたら……1時間は出られない。
想像するだけで恐ろしいが、ここで建成が酩酊するわけにはいかないというジレンマがある。
今度はベーゼンドルファーの手が震え出した。彼も怖いのだ。
決意を固めて、ベーゼンドルファーはバーボンを一気飲みした……。
……マスターがカウンターの下のボタンを押す。
建成とベーゼンドルファーは息を止めて、事態の推移を見守った。
ゴゴゴゴゴ……とマスターの後の隠し扉が現れる。
「……あたりか?」
「いや、わからんぞ。あそこの先は、ひどい場所に繋がってるかもしれんぞ……」
「覚悟の上さ……!」
マスターに促され、二人は、隠し扉の先に進んだ。
【国歌を永遠と聞かされる部屋】
ドゥングリムックリ国歌
一番おお、我らの地、ドゥングリムックリ豊かさ響くこの大地膨らむ腹は栄光の証食卓は我らの命の源
(コーラス)満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、その手に掴めドゥングリムックリ、永遠に輝け!
二番四季巡る美しき山河春の芽吹き、秋の実り王デイヴよ、その御旗のもとに民は一つ、心を合わせ
(コーラス繰り返し)満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、その手に掴めドゥングリムックリ、永遠に輝け!
……と、の太い男性の声で歌っている。
「オーケー……あたりだぜ」
「うん……しかし、聞けば聞くほど変な歌だな」
特に『その手に掴め』の部分のファルセット、つまり裏声の部分がややこしいと、建成は感じた。
「後は任せたからな『勇者』俺は……ちょっと寝かせてもらう」
実に1時間、音楽とベーゼンドルファーのいびきを聴き続け、
勇者は国歌をインプットした頃に、
建成の視界が歪んでいった。
これで、次は『騎士の扉』の先にある部屋を突破できるだろうか……
突破できたとして、その先には何があるのか……
もはや誰にもわからなかった。




