俺はどうすればいい?
前回は、沼にて納豆漬けにされた盗賊、ベーゼンドルファーも、半ば自暴自棄になり始めていた。
それでもループは続く。
しかし挫けてはいられない。ベーゼンドルファーは、自分の家族が人質に取られていることを思い出した。
後少しのはずだ。どんな大規模な魔術がかかっていようとも、自分は確かに玄関口までは到達できている。そのはずなのである。
そう信じて、ベーゼンドルファーは全身の関節を外し、自分の房を出、
螺旋階段まで蛇のように這っていった……。
【くだらない螺旋階段】
もう何度この階段を登ったかわからない。
今回も建成とスタンウェイを待たずに、一人で、ベーゼンドルファーは階段を駆け上がった。
【気まずさのエレベーター】
今回も、建成達より先にエレベーターまで来ることができた。
……本当に一人できてよかったのか、一人で大丈夫か、本来のベーゼンドルファーらしくはない迷いが生じていたが、
本来の自分を取り戻すことがこの城から脱出できる唯一の方法に思えて仕方がなかった。
「上に行きますか? 下に行きますか?」
エレベーターガールは無慈悲に無機質に問うてくる。
頭をかき乱して、ベーゼンドルファーは答えがでない問いをエレベーターガールにぶつけてみた。
「どうすればいい? なあ、俺はどうすればいいんだよ……」
もちろん、エレベーターガールは答えない。ベーゼンドルファーも期待などしていなかった。
しかし、エレベーターガールの方に変化があった。
本気で困っているように見えるのだ。
何かを言いたがっているように見える。しかし、彼女の中でその「何か」を言うことは何よりも許されない行為なのだと、
ベーゼンドルファーにはわかっていた。
「……悪い。おすすめで」
エレベーターガールは、頬を赤く染め、喉まで出掛かっている言葉を引っ込めて、エレベーターを操作した。
それは普段、弱みを見せない男が見せた、隙のようなものなのか、ギャップなのかに、
エレベーターガールの心は微かに、しかし確実に動いていた。
【世界最後の喫煙所】
とりあえずベーゼンドルファーは、『騎士の鍵』を建成達より早く手に入れる必要があった。
それは、この先にある『飲み屋』にあることだけはギリギリ覚えていた。
鍵さえ手に入れてしまえば、後に建成達に出会した時に交渉材料になる。
ベーゼンドルファーはそう思っていた。
彼は、地下から音楽の響く半壊した扉を開き、地下に降りていった。
【絵もない花もない洒落もない居酒屋】
「……らっしゃい」
マスターが声をかけてくる。
ベーゼンドルファーは、建成がそうしたように、壮年男性客の隣に座った。
そして、建成がどうしていたかを思い出す必要があった。
「もしも嫌いでなかったら、何か一杯飲んでくれ」
きた。例の質問だ。建成はこれに何を返してたか?……
…… ……確か…… ……、
「そうね……ダブル……の、バーボンを……遠慮しないで……いただくぜ……」
マスターが一瞬ピクっと動いたが、
このくらいの間違いは許容されたようだった。
マスターは音楽を止めた。
【会員制バー、『ウッドフルーツオブ・ナナ』】
マスターがベーゼンドルファーのグラスにバーボンを注ぐ。
……一人でここまでこれた。どうだ。やればできる男なんだ俺は。
ベーゼンドルファーは誇らしげに、バーボンを飲んだ。
……あれ、酒の飲むので正解だったっけ!?
マスターが、カウンターの下のボタンを押すと、
ゴゴゴゴゴゴ……とマスターの後の隠し扉が姿を現した。
ここまでは、自信がいまいちないがここまでは……正解のはずである。
この部屋の向こうに『騎士の鍵』はある!
マスターに促され、ベーゼンドルファーは隠し扉の向こうに進んだ。
【国歌を永遠と聞かされる部屋】
ドゥングリムックリ国歌
一番おお、我らの地、ドゥングリムックリ豊かさ響くこの大地膨らむ腹は栄光の証食卓は我らの命の源
(コーラス)満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、その手に掴めドゥングリムックリ、永遠に輝け!
二番四季巡る美しき山河春の芽吹き、秋の実り王デイヴよ、その御旗のもとに民は一つ、心を合わせ
(コーラス繰り返し)満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、その手に掴めドゥングリムックリ、永遠に輝け!
……と、の太い男性の声で歌っている。
違う!! 間違えたここじゃない!! ここはいつも建成が酔い潰れて使い物にならなくなる上に、
ここから進むことも戻ることもできないはずれの部屋だ!!
ベーゼンドルファーは、拳を床に叩きつけた。
「何をやっているんだ俺は!!」
数分の時間を費やし、やがてベーゼンドルファーの視界は歪んでいった……
異世界だろうが、そうじゃない世界だろうが、
自分一人でやっていけると思っている人間とは、えてして、周りの人間に生かされていることに気づいていないのである。
この城は、残酷なまでに人間を試す。




