もう、帰りたい
【気まずさのエレベーター】
「上に行きますか? 下に行きますか?」
「おすすめの階で!」
建成はエレベーターガールに元気に答えた。
……心なしか、エレベーターガールの様子がおかしいことに建成は気付いた。
仕事だけはバカ真面目にこなすエレベーターガールだと思ったが、少し上の空で、頬を赤らめている。
……風邪だろうか?
建成と、スタンェイと、エレベーターガールを乗せたエレベーターが起動した。
【世界最後の喫煙所】
建成は、スタンウェイを背負ったまま、喫煙所を突っ切り、突き当たりのダイヤル式の扉の前まできた。
スタンウェイが、建成の背中からダイヤル『6・4・5・3』を入力し、扉を開いた。
【カスタマーセンターにつながる電話ボックス】
「じゃあスタン、ここで別れよう。後で必ず迎えに行く」
「……『騎士の鍵』入手の仕方は覚えてますね?」
「覚えてる。『さっさと帰れ』をいえばいいんだ」
「間違えないでくださいね。間違えて、お酒飲んじゃったら、私永遠とここでタイムリセットを繰り返しちゃうので」
「間違えないとも! じゃあ、また後で!」
建成は、スタンウェイをおいて、部屋をでた。
【世界最後の喫煙所】
建成は、地下から音楽の聞こえてくる建物の半壊した扉を開き、地下へと進んだ。
【絵もない、花もない、洒落もない居酒屋】
「……らっしゃい」
建成は、壮年男性の隣に黙って座る。
「もしも嫌いでなかったら、何か一杯飲んでくれ」
「そうねダブルのバーボンを、遠慮しないでいただくわ」
マスターが、音楽を止めた。
【会員制バー『ウッドフルーツオブ・ナナ』】
マスターが、建成のグラスにバーボンを注ぐ。
「それじゃ朝まで付き合うか。悪い女と知り合った」
「別に気にすることはない。あなたさっさと帰ってよ」
マスターがカウンターの下のボタンを押し、
ゴゴゴゴゴ……と、マスターの後の隠し通路が姿を現した。
マスターに促され、建成は扉の向こうに進んでいった。
【王家の儀式の間】
石畳の狭い部屋に、
腹のたつ巨大猫が建成を待ち構えていた。
建成は部屋入ると、目を閉じて動かないように我慢した。
「プルギャーーー」
猫が立ち上がり、目を閉じている建成の耳元に『何か』を押し当てた。
おそらくゴム製の何かだ。
建成は奥歯を噛み締めて必死に耐えた。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーーーーーーーーー!!!!!!」
何かの正体は、現実世界のビレバンやドンキで売っている、やかましいチキン人形だ!!
そして、それが鳴り止むと、腹のたつ顔の猫が腹のたつ鳴き方で「ワシャワシャワシャ」と笑い出した。
その後も、建成は、みぞおちに頭突きを食らった。耳元で面白くない下ネタを連呼された。
全く似てないエレファント・カシマシの歌マネを聞かされてぶん殴りたくなる衝動を抑えた。
…… ……
【納豆の雨が降り注ぎ『くさや』が泳ぐシュールストレミングの沼』
一方、前回二択を間違えて悲劇に遭っている盗賊、ベーゼンドルファーは、納豆の雨の中を張って進んでいた。
もう、ここだけは! ここだけは来たくなかった! 素直に建成と行動を共にしていればよかったとこの時ばかりは後悔していた。
しかもとっくに20分は過ぎている。
なのにタイムリセットしない。どうやら向こうは向こうで順調に行動しているらしい。
ベーゼンドルファーは納豆に埋もれながら惨めな気持ちになった。
…… ……
【王家の儀式の間】
5分に及ぶ責め苦を受けたのち、パアン!! と猫が発光して消滅し、天井から『騎士の鍵』が降ってきた。
大きく息をついて、建成は鍵を拾うと、
ゴゴゴゴゴ……と、後の隠し通路が再び姿を現した。
建成は隠し通路を抜ける。
【絵もない花もない洒落もない居酒屋】
建成は、階段を駆け上がった。
【世界最後の喫煙所】
建成は走って喫煙所を突っ切り、袋小路の扉の前までやってきた。
【カスタマーセンターに繋がる電話ボックス】
「スタン! 待たせた!!」
「建成! うまく行ったんですね!」
「ああ! この通りだ!」
建成は騎士の鍵を見せた。
建成とスタンウェイは、タイムリセットをしてから、部屋を後にした。
【世界最後の喫煙所】
「騎士の扉の向こうには何があるのでしょう……」
「きっと、今度こそ『モアーリセット』さ! そうに決まってる! 正直もう、お腹いっぱいなんだ俺は!」
スタンウェイを背負った建成は、喫煙所をエレベーター方向に走っていった。
【気まずさのエレベーター】
「上に行きますか? 下に行きますか?」
「えっと……」
エレベーターガールは、いつも通りの落ち着きを取り戻しているように見えた。
建成が戸惑っていると、すかさず後ろからスタンウェイが、
「螺旋階段の階にお願いします!」
と答えた。
三人を乗せたエレベーターが動き出した。
【くだらない螺旋階段】
「さ、いくぞスタン!」
「はい! お願いします!」
スタンウェイを背負ったまま、建成は螺旋階段を降りた。
降りて、降りて、
『騎士』の扉まで辿り着いた。
「よし……あ……開けるぞ」
建成は、騎士の鍵を使って、扉の鍵を解除した。
扉は……ゆっくりと開いた……。
【『国歌』を、ファルセットで上手に歌えるまで出られない部屋】
扉の先は、また試練の間のような狭い部屋だった。
入り口の石碑に、ドゥングリ語で何か書いてある。
「くそ……まだモアーリセットは先か……!!」
「建成、とりあえず石碑を読んで見ましょう」
スタンウェイは、建成から降りて、石碑に書いてある言葉を読んだ。
「要するに……『国歌』を、上手に歌えばいいとのことです。この部屋で」
「国歌?」
「どこかの部屋で、大音量で流れてた音楽です」
ああ、そういえば記憶にある変な歌だ。……どこで聞いたんだっけ?
「……任せられるかい? スタンウェイ」
「建成それが……国歌はこの国では男性が歌う決まりになっているのです」
「なんで!?」
「それと私は歌は少し…… 建成、国歌は覚えてませんか?」
「……だめだ。練習が必要だ。引き返そう」
と、背中を振り向いたら、見事に今通った扉は無くなって壁になっていた。
「くそ……!! ここまでか!!」
「仕方ありません建成。次で、どこの部屋で国歌が流れていたか思い出しましょう」
「もう……帰りたい。帰りたいよ……」
「建成……」
建成の切実な思いも、無機質な部屋が飲み込んでいった。
そうしてしばらく時がたち、
建成とスタンウェイ。沼で這っているベーゼンドルファーの視界が歪み、意識が遠のいていった。




