正直村は右でやんす。
【カスタマーセンターに通ずる電話ボックス】
「待たせた! スタン」
建成は電話ボックスのガラス扉を軽くノックした。
念の為、ここでもう一度タイムリセットをしてから、三人はこの部屋を後にした。
【世界最後の喫煙所】
「それで、どうするのでしたっけ?」
デビッドがこさえてくれた松葉杖をつきながら、スタンウェイは建成に話しかけた。
「『騎士の鍵』をどこで使うのかを思い出すのが目下の目標だが……
これが頑固なまでに思い出せんのだ」
「確かに、どこかで見た記憶があるのですが……」
「『ユーレイ』も知らないんだな?」
突然話をふられ、ベーゼンドルファーは一瞬たじろいだ。
「……知ってても教えねえ」
「建成、この先のエレベーターを、最上階に行ったら、【ガラスの動物園】ですね?」
「そうだ。それは覚えてる。最近行った」
「その先に私たち、一度行きませんでしたっけ……?」
「……あ、そうでした! なんだっけ?! 何があったっけ?」
「覚えてませんが、思い出せないということは、ここで『騎士の鍵』を使う可能性があったのではないでしょうか?」
「そうだね! よしじゃあ次はエレベーターで最上階だ! ユーレイ!」
「……なんで俺なんだよ?」
「あそこはお前の担当だからだユーレイ。窓口が決まっていれば、エレベーターガールだって仕事がしやすいだろう」
ベーゼンドルファーは中指を立てた。
【気まずさのエレベーター】
「上に行きますか? 下に行きますか?」
ベーゼンドルファーは、もう最近、このエレベーターガールと顔を合わせるのも恥ずかしくなっていた。
そこで、目を合わせず指を上に突き立てる。
……が、エレベーターガールは反応してくれない。
苛ついた眼力でもって、ベーゼンドルファーを睨み続けている。
「上です!」
耐えきれなくなったベーゼンドルファーがそういい、エレベーターガールは操作パネルに触った。
【ガラスの動物園】
スタンウェイは、17番目の動物、『カワウソ』を祭壇に捧げてた。
ギギィ……と音を立てて、奥の扉が開いた。
【正直村と嘘つき村の分岐点】
「外に出た……?」
ベーゼンドルファーがここに来るのは初めてのことである。
「これは外ではない。そのくだりはだいぶ前に俺がやっておいた」
「そういえばありましたね……こんな場所も……」
「しかし……どうだろうな? ここに『騎士の鍵』を使うような場所なんてあったっけ?」
「覚えてませんね。進んでみましょう」
あたりは、整備された道が続いており、草木がまばらに生えた丘のような小道だった。
三人が進むと、石碑と、その先で道がYの字に二つに分かれ、
分かれ道の真ん中に男が立っている。
「また意味ありげな男がいるな」
「建成、石碑に何か書かれてます。読んでみましょう。
……『一方は正直村へ、一方は嘘つき村へと続く。分かれ道に立っている男は、正直村か嘘つき村か、どちらかからきた男である』」
「なるほど全然わからん」
建成は早速考えることを放棄したが、
ベーゼンドルファーは、一連の言葉に反応した。『正直村と嘘つき村』に関して、確か囚人からヒントを与えられたはずだ……
「厄介ですね。あの男に道を尋ねても、あの男が正直村の男か、嘘つき村の男かわからない。ということですか」
「なあスタン……そもそもなんだが、どっちに行けばいいんだ? 俺たちはどっちを目指している?」
「……確かに。少なくとも『騎士の扉』はここでは使わないということですね。
どうします? 引き返しますか?」
「待て」
ベーゼンドルファーが二人を止めた。
『正直村と嘘つき村に関する情報』それは確か……
・「正直村と嘘つき村の分岐点には、どちらかの出身の男が立っている」
・「立っている人間が『正直村』の男なら、そいつにはおばあちゃんがいる」
・「正直村の賢者に会ったら『夜の遊び』を聞け」
大まかにこの3つだった。
「『正直村』だ。『正直村』に行け」
「……何か知ってるのか?『ユーレイ』」
「後で教えてやる。正直村にいけ」
建成は、ベーゼンドルファーの顔をじっと眺め、分岐点に立っている男に話しかけてみた。
「すまん。正直村はどっちだ?」
すると男は、人懐こい顔で、
「右でやんすよ!!」
と答えた。
「……右だそうだ」
「待って建成! そのものが嘘つき村の人間だったら、右に行ったら嘘つき村に行ってしまいますよ!?」
「いや、このものは嘘をついてない」
「なんでそう言い切れるんです?」
「わかるよ。目を見れば」
建成は、真顔でそう言った。
そしてスタスタと一人で右の道に歩き出してしまった。
「待て! おい待てって! よくわからんが、安直な行動は危険じゃねえのか!?」
「そうです建成! この城は危険ですよ!?」
建成は振り向いて、
「お前は正直だな?」
と、男に問うた。
「へえ! あっしは正直でやんすよ!」
「ほら」
「『ほら』じゃねえ! そいつが嘘つき村の出身だったらそれも嘘だぞ! お前今までどうやって生きてこれたんだ!」
「え、だって……お前は嘘つき村の人間か?」
「違うでやんす。そんなこと言われると、切ねえでやんすよ」
「ほら」
「『ほら』じゃないんです建成! もっと慎重に考えないと…… ……別に嘘つき村に行くだけですね。じゃあ、いっか」
スタンウェイも建成の後に続いた。
ベーゼンドルファーは、呆然としてしまった。
ここの解き方は本当にこれで当たっているのか!? モヤモヤを抱えながら三人は結局、右の道を進んだ。
【正直村】
それは、村然とした村だった。
村を初めて見る人間も、「村だ!」とわかる村だろう。
数十名名の人間が、身を寄せ合って、日々の仕事を機械的にこなす、村だ。
「なんだか冒険が始まった気がするなあ」
建成は少し元気になった。
「それも罠かもしれませんよ建成。ここは未だ、巨像の腹の中なのです」
「うん……で? ここで何をするんだ?『ユーレイ』」
「……賢者を探せ。賢者がいるはずだ」
小さい村とは言え、数十人の中から人を探すとなるとそれなりに時間がかかるものだ。
三人は手分けをして、村の『賢者』と呼ばれている人間を探し出した頃には、
少し時間が経ってしまっていた。
「あなたが『賢者』か?」
「いかにも、ワシが賢者、フェルトマンタイじゃぁ」
実に賢者然とした老人が、村の井戸の前に立っていた。
「おい見つけたぞ『ユーレイ』。それなりに時間を使ったが、有益な情報を得られるんだろうな」
「……まあ見てろよ」
ベーゼンドルファーは、賢者フェルトマンタイの前に立った。
「賢者よ……『夜の遊び』を教えちゃくれないか?」
「おいユーレイ! 賢者に向けてそれは失礼じゃないか!?」
「うるせえ黙ってろ!」
すると賢者は、ニッコリと笑った。
「お前さんがたも、好きかえ?」
ベーゼンドルファーは、若干気味が悪くなったが、
「ああ、大好きなんだ」
と答えた。
スタンウェイはもちろん反論しようとしたが、ベーゼンドルファーに口を塞がれた。
賢者は、ゆっくり答えた。
「喫煙所の地下にあるバーでな……タブルのバーボンを注文してみなさい。さすれば、会員制バーに行けるじゃろうて……
そこから先は自由じゃ。バーボンを飲み干すもよし。隣の客に『帰れ』と促すもよし。それぞれ『正解』にたどり着けるじゃろうて……」
なんとすでに知っている情報だった。
建成にしてみれば二度目の、『情報被り事故』である。
聞き終えると、ちょうど『時間切れ』がやってきて、三人の視界は歪んでいった。
「……な? 重要な情報だったろ?」
「…… ……とっくに知っていたけれどな。 あー!! だるい!! だるいなこの城は!! 全然先に進めないな!!」




