目を閉じて、耳を塞ぎ、鼻を摘んで、耐えろ。
納豆の雨で溺れ死んだ後、王の間にて蘇った建成。
正直、今回に限っては王からのお小言が欲しいところだったが、チームの柱として心が折れるわけにはいかない。
建成は、小刀を王に投げつけた。
王は見かけのよらず身軽なので、建成のコントロールがバラつき気味でもス……!と飛びついて捕球し、
正確に王の間の脇にある兵士詰所に向けてほおり投げた。
その動き、まるで全盛期のロッテ小坂だ。
そこから実にわずかな時間で拘束のとかれたスタンウェイが、二人の男に抱えられて建成の元にやってくる。
……すると……前回までの仕事を王に譲ったいぶし銀の兵士が、見た目は粗雑ではあるがこの短時間で木製の松葉杖をこさえたのだ!
「ありがとう……きみ、名前を聞いていいか」
「……デビッド」
建成がいぶし銀の兵士に名前を聞くと、彼はそう答えた。
建成は、デビッドと握手をし、スタンウェイと松葉杖を背負って王の間を後にした。
「「行ってらっしゃいませ!!」」
建成の背中を、国王と兵士達が後押しする。
そうだ。俺はこのチーム全員の運命を背負っているのだ。
泣き言を言っている場合ではないのだ。
建成は、涙を隠して、廊下を進んだ。
【無限回廊】
「建成……前回、何があったのです? なんだか時間がかかっていたようですが……」
「聞かないでくれ……『目先のことにうろたえたり、ヤケになったりしちょってはどうにもならん……』
水木先生が油すましに言わせたセリフだ……」
「はあ……それで、何か、進展は……」
「なかった……いやあった!! 俺には責任感がなかった! だから『rest room』なんて開けたんだ!」
「rest room……?」
建成とスタンウェイは、王の間から数えて、69番目の右の扉を開けた。
【『もう』と鳴く馬小屋】
「今回はだいぶ早いはずだ! あの盗賊を螺旋階段で待つくらいでないと、
この先思いやられる!」
建成とスタンウェイは、馬小屋の奥へと突っ切った。
【くだらない螺旋階段】
「遅かったな」
建成とスタンウェイが、螺旋階段にやってきた時には、盗賊ベーゼンドルファーはすでに、
階段の壁面にもたれていた。
……建成もそうだが、この男も少しでも時短のために工夫してきているのだろう。
ここで盗賊に、先を越される。それはいつでも出し抜かれるということを意味する。
建成は悔しさのあまり奥歯を食いしばった。
「一発殴らせろ……と言いたいところだが、まあ俺にも過失はあった。
だから前回のは許してやる。次は素直にいうことを聞けよ!?」
「……悪かった……」
「なんです? 何があったのです?」
「いや……なんでもないんだスタン……さあ、先に進もう」
建成、スタンウェイ、ベーゼンドルファーは、螺旋階段を登った。
【気まずさのエレベーター】
「上に行きますか? 下に行きますか?」
「……おい。今日はお前がここの担当ってことでいいんだよな?」
……すると建成もスタンウェイも、そっぽをむく。
「お前ら……!!」
そこにエレベーターガールが、無言で圧をかけてきたので、
たまらずベーゼンドルファーが、
「オズスメでず……」
と無理のある噛み方をした。
エレベーターガールは、一瞬ためらったが、やがてくみ取り、
エレベーターを操作した。
ベーゼンドルファーは顔を真っ赤にして下を向いた。
【世界最後の喫煙所】
「スタン、今日も同じてで行こうと思う……」
「待てよ! 俺は反対だ。前回みたいなのはもうごめんだ!」
未だ真っ赤な顔のベーゼンドルファーの、顔がますます赤くなった。
スタンウェイも、正直乗り気ではなかった。
「……次は必ず迎えに行く!」
建成は足を早めた。自分でも、こんな作戦しか立てられないのが悔しかった。
スタンウェイとは、酒場の半壊した扉の前で別れた。
彼女の背中が遠ざかるほど、建成の不安は大きくなっていった。
「次は真面目にやれよ。勇者よ」
建成と、ベーゼンドルファーは、半壊した扉を開けて、地下に降りていった。
【絵もない花もない洒落もない居酒屋】
「……らっしゃい」
建成は、黙って壮年男性の隣に座った。
「もしも嫌いでなかったら、なにか一杯飲んでくれ」
「そうねダブルのバーボンを、遠慮しないでいただくわ」
居酒屋の大将は音楽を消して、あたりは雨の音に包まれた。
【会員制バー『ウッドフルーツオブ・ナナ』】
大将が、建成のグラスにバーボンを注いだ。
しばらく沈黙が続く。
ベーゼンドルファーはイライラしていたが、辛抱強くじっとしていた。
やがて、壮年男性が、建成に話しかけた。
「それじゃ朝まで付き合うか。悪い女と知り合った」
女ぁ? ベーゼンドルファーは男しかいないこの空間の中で女性の姿を探したが、見つかりっこなかった。
すると、建成は、
「別に気にすることはない。あなたさっさと帰ってよ」
大将が、カウンターの下のボタンを押した。
ゴゴゴゴゴ……と、大将の背中に隠し扉が現れた。
「……おい。なんか、あまり景色が変わらねえけど……本当にこれでいいんだな!?」
「いいんだ! これで!」
大将が、二人を隠し扉に促し、建成とベーゼンドルファーは隠し扉の向こうに出ていった。
【王家の儀式の間】
石畳の狭く低い部屋に、腹のたつ顔の猫が1匹、二人を待っていた。
「こいつは!? 魔物か!?」
「動くなよ。5分だ。目を閉じて耳塞いで、鼻摘んで耐えればそのうち終わる」
「何が!?」
「いいから! 動くな!」
建成とベーゼンドルファーは、目を閉じて直立し、硬直した。
『猫』は、ゆっくり立ち上がった。
まず、建成とベーゼンドルファーの顔を舐めるように交互に見て、
グシュングシュングシュングシュン……と、音を立てて二人の顔の匂いを嗅いだ。
……そして、今日の猫の矛先はベーゼンドルファーに向いたようだった。
猫は、ベーゼンドルファーの肛門に思い切り前足を突っ込んだ。
「うおう!!」
突然ひどいことされて、ベーゼンドルファーは軽く飛び跳ねた。
「……おい、動いちゃったぞ? ……大丈夫なのか!?」
ベーゼンドルファーが建成に訴えると、腹のたつ顔の猫は、顔の前で、
チョッチョッチョッチョ……っと指を降って、口に前足を持ってきて「シー」と言った。
ベーゼンドルファーが元の姿勢に戻ると、
猫は突然一人芝居をはじめた。
「……先生! 忘れ物をしました!!」
「なんだ! 何を忘れた!!」
「『性欲』です!!」
「はあ!?」
ベーゼンドルファーが思わず声を上げるのを、建成が制した。
建成はなぜか少しツボに入っている。
その後も、ベーゼンドルファーは、丹田を猫パンチされた。
後ろ足でドロップキックをされた。
面白くもない下ネタを連呼された。
その全てにベーゼンドルファーは奥歯を噛み締めて耐えた。
……5分が経った。
パアン!! ……と猫が光に包まれ、天井から『騎士の鍵』が降ってきた。
「……この城は、ロクなもんじゃねえな……」
悪態をつきながらも、ベーゼンドルファーは、『騎士の鍵』の手に入れ方を覚えた。
すると……ゴゴゴゴゴ……と後ろの隠し扉が開いた。
建成とベーゼンドルファーは儀式の間を後にした。
【絵もない花もない洒落もない居酒屋】
ピクリとも動かないマスターとカウンターの壮年客を横目に、
建成とベーゼンドルファーは階段を上がって、半壊した扉を開いた。
【世界最後の喫煙所】
「ここから先は、未知だ。俺も知らん」
もう疲れている建成が口を開いた。
「そうかい。ま、お互いうまくやろうや」
すました顔をしているが、疲れているのはベーゼンドルファーも同じだった。『モアーリセット』まで、この先何工程残っているのだろう。
喫煙所の袋小路に辿り着き、【カスタマーセンターに通づる電話ボックス】にて、スタンウェイを約束通り向かいにいけた。




