20分経ったら『タイムリセット』もしくは『強制終了』してほしい
酔い明けの気分というものは慣れたもんじゃない。
それでも、建成にとって目が覚めるということは、その時点である種の『闘い』の開始なのである。
建成は、もはや惰性で小刀を投げてしまい、それは、いぶし銀の兵士の頭上高くを超えてしまった。
大暴投だ。
しまった……!! 建成が焦ると、その小刀を、見事に受け取った人物がいた。
……ドゥングリムックリ国、国王、デイヴ・ドゥングリムックリである。
今は見る影もないが、国王は国王。昔とった杵柄で相応の身体能力を有していたのだ。
特に、飛んできた小刀をキャッチする技術は、冒険者だった頃に習得していたのだ。
建成の大暴投を王は見事に片手でキャッチすると、正確にいぶし銀の兵士に投げた。
それを、いぶし銀の兵士は前回と同じくボレーシュートで王の間の詰所、その内部に蹴り込んだ。
「お見事!! 王!!」
王の間に、満雷の拍手が鳴り響いた。
王は、少し照れくさそうに頭を掻いた。
そして、二人の兵士に抱えられて、スタンウェイが建成の元にやってくる。今回は、なんと
捻挫箇所を氷で冷やしていた。
建成は感動した。
「今日この瞬間を以て! 俺たちは一つのチームになったのだ! 俺は帰っても今日のこの景色を忘れないだろう!!
我々が晒されていることが、どんな悪夢であれ! どんな不条理であれ! 力を合わせればそれは悪夢ではなくなるのだ!
しかし! この成功にあぐらをかいてはならない! 各々、新メンバーである国王を含めポジションを再度確認し、
さらなる時短を期待するものである! 以上! 行って参る!!」
「「行ってらっしゃいませ!! 」」
国王は、不思議な気持ちになった。初めて王国から出て冒険に出た時の、あの高揚感。
それに近いワクワクを感じていた。
自分が、『チーム』として輪に加わっている。その事実が王に、何かの活力を与えていた。
建成とスタンウェイは、王の間を後にした。
【無限回廊】
「スタン! 背中に!!」
「は、はい!」
建成は、スタンをおぶさり、走った。
「今日は王の間で前回より少し時間をかけてしまった。
その遅れをこの廊下で取り戻す!!」
「は……はい!」
建成とスタンウェイは、王の間から数えて69番目の右の扉を開いた。
【『もう』と鳴く馬小屋】
「建成、そこまでして、あの盗賊より先に螺旋階段にいることが重要でしょうか……?」
「……そうではないのだ」
「え?」
「盗賊との競争のために時短を心がけているのではない。
俺たち一人一人が心を合わせて進歩しないと、この城は脱出できないんだ。
俺は俺を信じる。王の間にいる全員を信じる。あの盗賊だって信じる。そしてスタン……君も」
「建成……」
「『成功や勝ち負けを目的にことを行ってはならない』……水木しげる先生が、油すましに言わせたセリフだ」
建成とスタンウェイは、馬小屋の奥に進んだ。
【くだらない螺旋階段】
建成とスタンウェイが、螺旋階段に到達した時、彼らとは別の足音は聞こえなかった。
「……く! 今回は出遅れたか……!!」
「おせえよ。『勇者』」
階段の上の方から、息を切らせたベーゼンドルファーが降りてきた。
「お前……俺たちを待って……」
「ちげえよ! (ゼイ……ゼイ……) いいか? 盗賊舐めんな? (ゼイ……ゼイ……)
お前らは前回俺を出し抜いたつもりだろうが……俺だって本気を出せばなあ……
お前らなんていくらでも撒けるんだ。忘れんなよ」
「わかっている! お前がそのくらいの気概じゃないと、我々も張り合いがないというものだ! 」
建成は馬鹿正直に答えた。
「建成、それより今日はどうする予定なのです?」
「うん…… おい『ユーレイ』正直に応えろ。『騎士の鍵』で思いつく扉はあるか?」
「ああ? ……『騎士の鍵』?」
ベーゼンドルファーは記憶を辿ったが、それに関する情報は少なくとも囚人たちからは得られてはいなかった。
「悪いが、記憶にないね。ただ……鍵を見たら、何か思い出すかもな」
建成はベーゼンドルファーの表情を見逃すまいと目の動きから口、耳、鼻の動きまで鋭く観察した。
鍵のありかを知って建成たちを出し抜こうとしているのは事実のようだが、同時に鍵の使い道を知らないのも事実のようである。
これは駆け引きだ。
そして建成は熟考して……
「わかった。じゃあ今回は『騎士の扉』の場所を探そう」
と言った。
建成、スタンウェイ、ベーゼンドルファーは、螺旋階段を登った。
【気まずさのエレベーター】
「……で?」
ベーゼンドルファーは、建成からの指示を待った。
「……『で?』ではない。ここはお前の担当だ。『ユーレイ』」
「はあ!?」
建成は、前回でここのエレベーターガールに対して、ベーゼンドルファーが尋常じゃないほどの苦手意識を持っていることを見抜いていた。
これは、『主導権はそちらばかりが握っているのではないぞ』という、建成の牽制である。
「上に行きますか? 下に行きますか?」
心なしか、エレベーターガールの声が、煽っているように聞こえる。
ベーゼンドルファーは息を飲み込んで……
「おすめ!」
……と答えた。
耳が痛い沈黙の後、エレベーターガールは、エレベーターを操作し、四人を乗せたそれは昇降を開始した。
ベーゼンドルファーは、悔しさのあまり、顔を真っ赤にして、三人から背を向けた。
【世界最後の喫煙所】
喫煙所にたどり着くと、スタンウェイが建成に耳打ちをした。
「建成……ここでよかったのです? 私の知る限り、ここは、『酒場』と、『試練の間』と、『国歌を聞かされる間』しかないように思えるのですが……」
「ひとつ忘れてるよ。『タイムリセット』だ」
「あ…… ……しかし、我々の目的は、『騎士の扉』のありかでは?」
「そう……そのために『ある作戦』を考えたんだ。今回はその実地試験を兼ねたい」
「はあ……」
音楽が聞こえてきた。酒場が目の前だ。
少し先を歩くベーゼンドルファーが、建成を見てきた。それに対し建成は……
「タイムリセットのダイヤルナンバーを教えろ」
と言った……。
ベーゼンドルファーは舌打ちをし、半壊した扉をスルーした。
三人は、喫煙所のどん詰まりまでやってきた。
「じゃあ自分で入力しな。『6、4、5、3』だ」
建成は、スタンウェイをここで降ろした。
「ここから先はお願いしていいかい? スタン、君に頼がある」
「え?」
「ここの担当を、君にしたい。
つまりは、20分経って、何も起きなかった場合……タイムリセットをしてほしい。
俺は手がかりを見つけて必ずここに戻って、君を迎えに来る」
「そんな……! そんなに私の足が邪魔ですか!!」
「そうじゃない。君にしか頼めない重要な事なんだ! いいかい?……
前回を思い出してほしい。どうやら進行の仕方によっては、いわゆる『詰み』の状態に陥ることもこの城では起きうるようだ。
前回の、あのしょうもない失敗を思い出してほしい。あれはダメだ。孫にも語れない」
「はあ……」
「だから、この重要な仕事を君に頼みたい。
20分経って何も起きなかった場合、強制終了を頼みたい……あの部屋でできるんだよな?『ユーレイ』」
「ああ……『外に出たい』って言いな。そうすれば強制終了だ」
「じゃあ、そういうことだから……」
「待って!! 待ってください建成!! つまり、20分経って何も起きなかったら、私はどうすればいいんですか!?
すごい正反対の事を一息で言われましたよ!?」
「そうなんだ……君には苦労をかける。だから、君の『心』は、俺たちと同行してほしい。
20分経って、俺が迎えに来なかったら、タイムリセット、もしくは強制終了をしてほしい」
「無茶です!!」
「できる!! 君ならできる!! 君にしかできない!! 俺たちは……一つのチームだ! そうだろう!?」
相当な無茶苦茶を言われている。が、建成の圧に負けて絆されてしまった。
「約束する。『今回は、必ず迎えに行く』!! 信じてくれ!」
このようにして、スタンウェイを【カスタマーセンターに通ずる電話ボックス】に残し、建成とベーゼンドルファーはその場を立ち去った。
「おい『勇者』」
「なんだ」
「これは商談だ。そう言ったな?……教えてもらうぜ。『騎士の鍵』のありかを」
「……わかった」
建成とベーゼンドルファーは、喫煙所の途中にある半壊した扉をくぐり、地下の酒場まで移動した。
【絵もない、花もない、洒落もない居酒屋】
「いらっしゃい……」
建成は、あたりを見渡した。そう言えば気になっていたのだ。
ここの「rest room」を探索していないことを。
「もしも嫌いでなかったら、何か一杯飲んでくれ」
「そうねダブルのバーボンを、遠慮しないでいただくわ」
【会員制バー『ウッドフルーツオブ・ナナ』】
マスターが、バーボンを建成のグラスに注いだ。
隣でだるそうにしているベーゼンドルファーが、
「で? ここからどうするんだ? 言っとくがそれを飲むなよ? もう前回みたいなのはごめんだ」
「ああ」
「どうすれば、『騎士の鍵』が手に入る? お前、それを知ってるんだろ?」
「ああ」
建成は、背中の「rest room」を指差した。
「実はな、『騎士の鍵』は、あの『rest room』の先にあるんだ」
「ねえよ」
食い気味に、ベーゼンドルファーが言った。
「……なんでないと言い切れる?」
「…… ……うるせえ」
ベーゼンドルファーの顔色が変わったのを確認して、建成は笑みがこぼれた。
おそらく、建成に知られたくない事実があの扉の向こうにあるのだろう。
「いや、本当だって。あの扉の向こうなんだ」
建成は、そう言い終わる前には立ち上がって、『rest room』に向かおうとしていた。
ベーゼンドルファーは思わず、建成の腕を掴んだ。
「おい……悪いことは言わねえ……あの扉だけはやめとけ」
「なんでだ? ……何かあるんだな? あの扉の向こうに」
「なんもねえよ! 頼む! あれは嫌なんだ!!」
「……『ユーレイ』、たかがトイレだぞ? やっぱりお前何か隠してるんだな」
「ああ隠してるよ! その上でやめろっつってんだ! 頼む今だけ信じてくれ!」
建成は、腕力にものを言わせてベーゼンドルファーの腕を振り切り、rest roomに向かった。
「やめろ!!」
建成は、rest roomの扉を開け、建成とベーゼンドルファーは扉の奥に吸い込まれていった。
【納豆の雨が降り、くさやが泳ぐシュールストレミングの沼】
「ぐおおお!! ここは!!」
建成は、あまりにもの悪臭と、空からふる大量の納豆に、部屋に入った瞬間打ちのめされた。
「なんで俺まで!! 畜生!!」
「おい!『ユーレイ』!! なんだここは!!」
「馬鹿野郎!! だから俺は何度もやめろっつったんだ!! ハズレもハズレだよこの部屋は!!」
「も……もうすぐ20分のはずだ!! スタンが……スタンが必ず強制終了を……」
そう言って、建成は、数分前の自分の発言を思い出した。
つまり……「今回は必ず迎えに行く。信じてくれ」
「この……ダメ勇者! ポンコツ! 何が作戦だ!! サイテーな野郎だお前は!!」
「大丈夫だ! 俺たちは一つのチームだ!! きっと、きっとスタンなら強制終了をしてくれる!!」
……スタンウェイが強制終了をするまでに、実に1時間を要した。
いや、実際にはそれよりも早くことは終わった。
建成が、納豆の雨に溺れ死んだのだった……。




