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足の速い奴は協調性がない。



【気まずさのエレベーター】


「……おい」


 ベーゼンドルファーが、建成に話しかけた。

その『おい』にはいつになく、申し訳なさのような感情がこもっていた。


「こいつ(エレベーターガール)の応対は、任せていいか……」


「そうはいかぬ。俺とスタンはこのエレベーターでどこに行けばいいかもわかっておらぬ」


「上に行きますか? 下に行きますか?」


 ベーゼンドルファーは、恨めしそうに建成を見た。


「お、おす……」


 本当は『オススメ』と言いたかったのだが、ここでベーゼンドルファーは言葉を一度飲み込んでしまった。

……『おす』とは。しばらく会わないうちにまたフランクに打ち解けた物だなあ。

と、建成はベーゼンドルファーとエレベーターガールを見て思った。


 一方でベーゼンドルファーは、意を決したかのごとく息を吸い込み、


「オスススメの階に頼むぜぃ」


 と言い放った。

短い沈黙の後、エレベーターガールは黙ってエレベーターを操作した。


 動き出すエレベーター。その中でベーゼンドルファーの顔は真っ赤になっていった。

そんな彼の顔を、建成とスタンウェイは不思議そうに眺めた。


 二人からの視線を感じ、ベーゼンドルファーは、

「笑ったら殺すぞ」


 などと真っ赤な顔で下を向きながら言った。




【世界最後の喫煙所】




「よりにもよってここなの!?」


 タバコの匂いが何より嫌いなスタンウェイは悪態をつきながら鼻を塞いだ。


「うるせえ。俺に文句言うな」


 ベーゼンドルファーは一人で早足で進んでいってしまうので、建成はスタンウェイを背負ったまま後をついていき、

(足の速い男というのはつくづく協調性がないなあ……)

などとさもありなんな哲学を自身にといた。


 喫煙所を進んでいき、お決まりの音楽が地下から響く建物に、

さも当然のように入っていこうとする建成を、


「バカ、そっちじゃねえよ」


 とベーゼンドルファーが止める。

建成は残念そうに半壊した扉を横目に通り過ぎていった。


 喫煙所の袋小路に辿り着き、ダイヤル式の扉が眼前に現れた。

ベーゼンドルファーは、ダイヤル、「6、4、5、3」を入力し、鍵を解除した。



「……お前ら、ここから先何が現れても驚くなよ」


 ベーゼンドルファーが意味深なことを言い、

建成、スタンウェイ、ベーゼンドルファーは、扉の奥へと入っていった。




【カスタマーセンターにつながる電話ボックス】




「これは……何!?」


 スタンウェイは、生まれて初めて見る電話ボックスに動揺した。


「だから、ビビるなっつったんだよ……ったく……これは……」


「公衆電話だな」


 建成が、ベーゼンドルファーの言葉を遮った。


「……知ってんのかよ」


「ああ。なんだか、俺の住む世界にあるものばかりだな。

 ……これではなんで俺はわざわざ異世界転生してきたのかいよいよわからん」


「建成! きっとそれは私たちを出口に導くためですわ! 建成は救世主としてこの世界に転生されたんです!」


「うーむ……俺が望んでた形と若干違うが……」


「おい!」


 二人の戯れ合いをベーゼンドルファーがきつめに制した。


「じゃあ勇者よ。お前、『アレ』の使い方を知ってるのか?」


「まあ……知らなくもないな。スタン、一度下ろすよ」


「は、はい」


 建成は、スタンウェイを地面に下ろし、ガラス張りの電話ボックスに設置されている受話器をとった。

受話器からは機械音声でこう、聞こえた。


「こちらは、ドゥングリ・カスタマーセンターでございます。ご用件をどうぞ」


 そこで建成は試しに、


「……タイムリセットをお願いしたい」


 ……と言ってみた。


「かしこまりました。……残り時間、20分でございます。プツン。ツー、ツー、ツー」


 一方的に電話は切られはしたが、どうやら、20分の延長には成功したようだ。


「……建成?」


 スタンウェイは心配そうにガラス貼りの中にいる建成に呼びかけた。


「どうやら、タイムリセットに成功したようだ」


「本当ですか!? これは大きな躍進です!!」


 電話ボックスから出てきた建成と、スタンウェイがハイタッチをすると、

ベーゼンドルファーは面白くなさそうに……


「おい」


「なんだ」


「俺からの情報は教えたぜ」


「だからなんだ」


「な!! ……おいおい……『だからなんだ』はあんまりじゃねえか?

 お礼を言えとは言わねえよ。でも俺たちは仲よしこよし集団じゃねえっつったろ」


「もちろんだ。お前からは友人への配慮など感じないからな。さぞ、これまで寂しい思いをしてきたろう」


「……まあ今のは聞かなかったことにしといてやるよ。

 おら! そっちも情報をだせ! 利用しあうんじゃなかったのか!?」


 ベーゼンドルファーにそう言われ、建成とスタンウェイは顔を合わせた。

そしてベーゼンドルファーに背を向けて、二人で会議を始めた。


「どうします……?」


「うむ……この男を、石畳の鍵のある扉まで連れて行くというのはどうだろう?」


「……『国歌を流しっぱなしにしている方の部屋』でございますね?」


「したたかなこやつのことだ。もしかしたら鍵のありかについて何か心当たりがあるやもしれない

もし次裏切ろうとしても、今の我々ならこいつに追いつけることがわかった。王の間の兵士の練度によっては、今後先回りも可能だろう。

……連れて行く価値はあるかもしれない」


 ベーゼンドルファーは二人に背中を見せられて流石にイライラしていた。


「おい! 仲よしども! 話はまとまったのかよ!」


「…… ……ついてこい」


 建成はそう言うと、電話ボックスの部屋を後にした。




【世界最後の喫煙所】



 

建成、スタンウェイ、ベーゼンドルファーは、喫煙所の路地の途中にある、音楽が漏れてくる地下に通づる、

半壊した扉を開け、降りていった。




【絵もない花もない洒落もない酒場】


「……らっしゃい」


 三度目ともなると、建成は落ち着いて壮年男性客の隣に自然に座り、

木の実ナナになりきってそっけない仕草を演じて見せた。


「もしも嫌いでなかったら、何か一杯飲んでくれ」


「そうね、ダブルのバーボンを、遠慮しないでいただくわ」




【会員制バー、『ウッドフルーツオブ・ナナ』】


 マスターが、バーボンを建成に差し出す。

建成は、それを一息に飲み干した。


 マスターは、カウンターの下のボタンを押し、

ゴゴゴゴゴ……と背中に隠し扉が現れる。


「ん?……おい、ここの先に進めるようになったのか?」


 ベーゼンドルファーが何か言ってるが、半ば無視して、建成とスタンウェイは扉の奥に進み、ベーゼンドルファーも後に続いた。





【国歌を永遠と聞かされる部屋】


 部屋には音楽が流れる。




ドゥングリムックリ国歌


一番おお、我らの地、ドゥングリムックリ豊かさ響くこの大地膨らむ腹は栄光の証食卓は我らの命の源

(コーラス)満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、その手に掴めドゥングリムックリ、永遠に輝け!

二番四季巡る美しき山河春の芽吹き、秋の実り王デイヴよ、その御旗のもとに民は一つ、心を合わせ

(コーラス繰り返し)満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、その手に掴めドゥングリムックリ、永遠に輝け!



 ……この国の国歌である。

石畳の部屋の奥には、相変わらず鍵のかかった扉の姿がある。


「連れてきてやったぞ、『ユーレイ』」


 ……強い酒を一気飲みして、酩酊した建成。こうなっては使い物にならない。


「……それで?」


「『それで?』って何よ。あなたはここから先に行く方法を知らないの? 扉開けるの好きでしょう?」


 悪意のこもったスタンウェイの殺し文句を聞き遂げて、ベーゼンドルファーはため息をついた……


「……俺はなあ、ここに来たのは二回目で、一回目はお前らと来たんだよ。そっから先のことは知らねえよ」


 ……あ、と、スタンウェイは建成をみた。建成はすでにグロッキーになっていて座り込んでいる。


「建成。そうでした。最初にこの三人で来たのでした」


「仕方ないよ……『ユーレイ』ってのは往々にして存在感のない物だもんなあ」


「くだらねえ! おい! 引き返すぞ!! ったく時間がもったいねえ!」


 ベーゼンドルファーは背中の扉があった方を見るが、扉はすっかりなくなっていた。


「……おい。(扉が)ないぞ」


「え…… 建成、これは……もしかしたら、この奥の扉を開けないとここから出られない仕掛けなのかもしれません」


「そかあ……まあ、しょうがないよね……」


「おーいポンコツども!! ふざけんなポンコツ!! どうしてくれる! タイムリセットしちゃったから

 20分間ここでこの歌聞いて暇を潰せってのかよ!?」


「『ユーレイ』が大きい声出すな……頭に響くだろうが……はは。変な歌」


 こうして、せっかく20分の延長に成功した勇者と魔術師だったが、それを無駄にしてしまった。

むしろそれが仇になる結果になってしまった。

虚な瞼の景色は、言い争っているベーゼンドルファとスタンウェイが見える。


 にしても、変な歌だ。



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