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ダブルのバーボンを……


【気まずさのエレベーター】



「上に行きますか? 下に行きますか?」


「……おすすめでお願いしまー……す」


 気まずそうにベーゼンドルファーは答えた。

建成と、その背中に乗っている魔術師スタンウェイは顔を合わせた。

一体この短い間に、盗賊とエレベーターガールの間に何があったのだろう?

気になるあまり、建成は、スタンウェイを地面に下ろすことを忘れていた。




【世界最後の喫煙所】




「そういえばこんな場所もありましたなあ」


 建成とスタンウェイが、【世界最後の喫煙所】にくるのは久しぶりの事だった。

建成の背中でスタンウェイがタバコの不潔な匂いに鼻をつまんで耐えている。


 3人が喫煙所を進むと、音楽が聞こえてきた。

地下の酒場のような場所でかかっていた音楽だ。この音楽が早くも、ベーゼンドルファーは苦手になっていた。

……がしかし、


「やや?」


「どうなさいました?建成様」


「これは……懐かしい……」


 ベーゼンドルファーは思わず建成を見た。


「お前さん、知ってるのか!? この音楽を!?」


「逆にお前は知らないのか。阿久悠先生作詞のこの名曲を!」


「名曲だ!? 馬鹿言うんじゃねえ! ……お前の世界だとそうなのか」


 3人は、音楽が響いてくる地下に通ずる、半壊した扉を開き、階段を降りていった。




【絵もない花もない洒落もない居酒屋】




 その場所は、以前ベーゼンドルファーが訪れた時のまま、何もかもが1ミリも動かず同じ位置にあった。

ベーゼンドルファーは早速悪い夢の中に居るような感覚に陥った。


「おお……ここは『居酒屋』だ! それもあの名曲を再現したかのような居酒屋だ!

 五木ひろし先生もいる!!」 


 建成は一人でおおはしゃぎだ。


「建成様は……この場所を知っているのです?」


 スタンウェイは不思議そうに聞くと、


「ええ。大好きです」


 と、建成は目を輝かせて答えた。


「……らっしゃい」


 カウンターの向こうの壮年男性が口を開くと……


「おお! 大将の雰囲気もイメージ通りだ!! 」


 と、嬉しそうだ。


 建成が、スタンウェイを背中から下ろすと、感慨深そうに、カウンター席の壮年男性の隣に座った。


「もしも嫌いでなかったら、何か一杯飲んでくれ」


 壮年男性が建成に話しかける。


「おい! 気をつけろよ! そいつに変なこと言うと強制終了だぞ」


 ……とベーゼンドルファーが忠告する間も無く、目を輝かせた建成は、


「『そうねダブルのバーボンを、遠慮しないでいただくわ』」

 

 ……などと呪文のような言葉を吐いた。

スタンウェイと、ベーゼンドルファーは、何がなんだかわからぬ。

すると……、壮年男性は視線を建成からカウンターに戻した。

そして1m四方のパネルを建成に向けて突き出した。

ここまでがベーゼンドルファーにとって悪夢の1セットだった。


 しかし、様子がおかしい。と言うのもパネルに書かれている文字が違いそうだ。

一度目の時は確かに『強制終了。ざんねんでした』と書いてあったはずだ。

まずはパネルの地の色が金色になっており、そこに蛍光色で、

「会員制バー、『ウッドフルーツオブ・ナナ』」と書かれていた。


そして、マスターがバーボンを建成についだ。






【会員制バー、『ウッドフルーツオブ・ナナ』】






 バーのマスターがそっと、店内の音楽を消すと、いつの間に降っていたのか雨の音がする。


「ああ、いいっすねえ。歌の世界だ」


 建成はすっかりご機嫌になり、一口でバーボンを飲んだ。

まるで、一仕事おえた夜のように。

店の景観こそ何一つ変わらないものの、雰囲気だけが違っていることは、蚊帳の外にいるベーゼンドルファーとスタンウェイにもわかった。


 ……そして、建成が、すっかり空になったグラスをカウンターに置くと……

マスターがカウンターの下に設置されているボタンを押す。

すると、マスターの背中の壁からゴゴゴゴゴ……と隠し扉が現れた。


 ベーゼンドルファーとスタンウェイには、一連のプロセスなのかストーリーとでも言えばいいのか、

この数秒で起きたことが何一つわからなかったが、とにかく建成は満足そうだった。


 マスターが、隠し扉を開け、「行けよ」と客人3人に促した。

なんだかよくわからなかったが、ベーゼンドルファーと、スタンウェイと、何歳なのかわからない勇者建成は、隠し扉の奥へと進んだ。






【国歌を永遠と聞かされる部屋】





 その部屋は、八方の石のレンガで塞がれた6畳ほどの部屋だった。

部屋にはまた音楽が流れているが、

今度は、スタンウェイとベーゼンドルファーにとっては聞き馴染みのある音楽だった。

弦楽器を多用した勇壮な音楽だ。





ドゥングリムックリ国歌


一番おお、我らの地、ドゥングリムックリ豊かさ響くこの大地膨らむ腹は栄光の証食卓は我らの命の源

(コーラス)満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、その手に掴めドゥングリムックリ、永遠に輝け!

二番四季巡る美しき山河春の芽吹き、秋の実り王デイヴよ、その御旗のもとに民は一つ、心を合わせ

(コーラス繰り返し)満ちよ、満ちよ、我が祖国よデイヴの名の下、共に栄えん豊かな未来を、その手に掴めドゥングリムックリ、永遠に輝け!



 ……と、の太い男性の声で歌っている。

コーラスの部分の、『その手に掴め』の部分でファルセットになるのが特徴的だ。

この歌を永遠に繰り返す他には、奥に通ずる扉があるだけの特徴のない部屋と言える。


 ベーゼンドルファーは、音楽が鳴り響く中、先に進もうとその扉を開けようとするが、

鍵がかかっているので開かなかった。


「……おい。勇者。ここの鍵はどこだ」


「……俺のことかあ?」


 バーボンを一気飲みしたからなのか、建成の顔はすでに赤ら顔になっていた。


 ベーゼンドルファーは諦めてスタンウェイの方を見たが、彼女は首を振った。


「……くそ!! また行き止まりか……!!」


「おい。この不景気な音楽はなんだい」


 すでに真っ直ぐ立てない建成は、目とともに姿勢も座り込んでしまった。


「……ドゥングリ国の国歌にございます。建成様」


「……すんません」


 すると、建成たちの視界が歪んだ。

……建成はすでに酩酊しているので正確に言うと、ベーゼンドルファーとスタンウェイの視界が著しく歪んだ。



「しまった……! くそ! 次こそはと思ったのに!!」


 建成は、薄れていく意識の中で、ベーゼンドルファーの悔しそうな声を聞いた。


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