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人生を賭けたRTA

 



もう何度目ともわからぬ、王の間に強制転生された勇者、建成。

転生後には酩酊した体も頭もすっかり元に戻り、

王の間の兵士に向けて、パアン!!と手を叩いた。

そして、兵士たちは、すっかり決められた手順によって動き出す。


 建成は、兵士小デイブに小刀を投げつけたが、そこにはすでに小デイヴはおらず、

いつもの寡黙ないぶし銀兵士が小刀を待ち構え、捕球すると共にすでに兵士詰所奥でスタンバっている小デイヴに向けジャンピングスローをした。

まるで、全盛期ドラゴンズ、鉄壁の二遊間ゲッツーだ。

建成は痛く感動した。二人に対し惜しみない拍手を贈ると共に、両手の親指を立てた。

いぶし銀の兵士は敬礼で返す。

そして建成は城の兵士たち全員に檄を飛ばした!


「おい! お前たち! この結果に満足するな! 俺が魔術師どのとこの部屋を出るまで、まだ削れる! まだ、あと3秒は削れるんだ!! 

 これは、俺とお前たち全員の人生を賭けたRTAだ! 各々、自分達の動きにまだ無駄がなかったか、この20分で考えるんだ!!」


 魔術師スタンウェイが、兵士詰所から出てきて、建成と合流した。


「「いってらっしゃいませ!! 」」


 兵士たちに見送られながら、建成とスタンウェイは王の間を後にした。


 ……国王、デイヴ・ドゥングリムックリは、また、一言も喋れず、自分の存在意義を見いだせなくなっていた。

今日はなんと、服を脱いでスッポンポンになってみた。

しかし、誰も相手にしてくれない。勇者も、兵士たちも。

王は、建成とスタンウェイの背中を見送りながら、涙を浮かべた。



【無限回廊】




「建成様、RTAとはなんですか……?」


「こちらの話しです。魔術師どのはお気になさらず」


「そんな。建成様、人生がかかってるとかなんとかおっしゃったじゃありませんか。隠し事はいやです」


「隠し事などありませぬ。ただ……『多忙だと心が鈍くなる』と言うことです。

 ……水木しげる先生が、袖ひき小僧に言わせたセリフです」


「はあ」



建成とスタンェイは、王の間から69番目の右の扉を開いた。






【『モウ』と鳴く馬小屋】



「建成様、もはやこの部屋が鬱陶しいですね。ショートカットの仕様もありませんし」


「なんの。決められた道を、時短で進むのがRTAでございます」


「でた。だから、なんなんですか? そのRTAというのは」


「急ぎましょう。魔術師どの! ……少し嫌な予感がするのです」



 建成と、スタンウェイは、馬小屋の突き当たりの扉を開けた。





【くだらない螺旋階段】




 建成とスタンウェイは、石畳の螺旋階段に出た。

……しかし、ベーゼンドルファーの姿は無かった。



「建成様! またやられました!」


「……大丈夫です。行きましょう。乗ってください」


 建成は、スタンウェイを背中に乗せ、螺旋階段を駆け上がった。


「建成様?」


「奴からしてみれば、我々をうまく出し抜いているつもりなのでしょうが……

 こんなこともあろうかと、私はあやつを罠にかけたのです」


「どういうことですか?」


「前回の、『酒場』。私はバーボンを飲みましたが……」


「バーボン?」


「ええお酒です。飲みましたが……、おそらくあれが正解ではないはずなのです。私の読みが当たっているならば……」


「建成様、それはつまり」


「そう! 私たちが奴を出し抜いたのです! 行きますよ魔術師どの!」


「……スタンです」


「はい?」


「スタンと、そう呼んでください。ここではジョブは関係ないとおっしゃったのは建成様ではありませんか」


「……わかりました! 行きますよ魔術師どの!」


「…… ……」


 建成とスタンウェイは、螺旋階段を登りきった。






【気まずさのエレベーター】



 


 建成たちが、エレベーターホールに着いた時には、まだエレベーターが着いていなかった。



「やっぱり。あやつが先に行ったんです」


「なんの。行きたいとこに行かせてやりましょう。最後に笑うのは我々ですからな!」


 エレベーターが到着し、

無愛想なエレベーターガールが建成とスタンウェイに話しかけた。


「上に行きますか? 下に行きますか?」


「えっと……」


「『おすすめの階で止めてください』」


「そうでした……ありがとう。スタン」



 するとスタンウェイは背中で微笑んで見せた。





【世界最後の喫煙所】





「建成様、甘え倒すようで申し訳ないのですが、今しばらくおぶっていってもらえますか……

 私、ここで真っ直ぐ歩く自信がなくて……目が回ってしまいまして……」


「なるほど。タバコのみ以外がタバコを吸うと目が回るとは聞き及びます。仕方ありませぬ、捕まってください魔……スタン」


「はい」


 建成はスタンウェイを背負って歩き、喫煙所を進み、

音楽が漏れてくる地下に通ずる、半壊した扉までやってきた。


 すると、一瞬、「ぎゃあ!!」

と、男の悲鳴のような音が聞こえた気がして、建成とスタンウェイは顔を合わせる。

建成はスタンウェイを、地面に下ろし、半壊した扉を開けて地下に降りていった。




【絵もない、花もない、洒落もない居酒屋】


「らっしゃいませ……」


 店内は、相変わらず五木ひろしと木の実ナナの名曲、「居酒屋」が大音量で流れている。

建成が、壮年男性の隣に座ると、

男性は建成に話しかけた。


「もしも嫌いで無かったら、何か一杯飲んでくれ」


「そうねダブルのバーボンを、遠慮しないでいただくわ」


 この二人のやりとりが、いまだにスタンウェイには意味不明だが、これが建成の住む世界の通例行事のようなものなのだろうと飲み込んだ。

男が、「会員制バー『ウッドフルーツオブ・ナナ』」というパネルを出して、

マスターが、建成にバーボンをついで、音楽を消した。雨の音が聞こえる。


「……建成様、これでいいのですか?」


「いいのです。しばらく待ちましょう。彼が話しかけてくるはずです」


 ……待つこと、体感で3分ほどか。

本当に、建成の隣に座っている壮年男性が建成に話しかけてきた。


「それじゃ朝まで付き合うか。悪い女と知り合った」


 スタンウェイは、『悪い女』とは自分のことかと思い、反論しようと口を開けたところで建成に制された。

そして建成は……


「別に気にすることはない。あなたさっさと帰ってよ」


 すると、マスターは、カウンターの下のボタンを押した。

マスターの背中の隠し扉がゴゴゴゴゴ……と現れる。

ここまでは、前回と全く一緒の景色である。


「……建成様? 何も変わってないような気がするのですが?」


「いいのです! これでいいはずです!」


 マスターが隠し扉を開いて、二人に行くように促す。


「行きましょう。スタン」


「は、はい」



 建成とスタンウェイは、扉の向こうに進んだ。








【王家の儀式の間】






 あたりは、八方を石畳の壁や床や天井が囲む、6畳ほどの部屋だ。ただし……

前回と違うのは、なんというか、ものすごく頭にくる、腹のたつ顔の、全長2mほどの猫が椅子に足を組んで座っている。


「ここは……」


「建成様! あそこに何か書いてあります! ……『王家の儀式の間。5分間、動く事を禁ずる』……

 動いちゃダメです!! 建成!!」


 条件反射的に、建成とスタンウェイは立ち止まった。

…… ……しばらく時間のみが流れる。


 すると、ゆっっくりと、座ってた腹のたつ顔の巨大猫が二本足で立ち上がり、テクテクと、建成の顔の真前までやってきた。

ジーー……っと建成を見つめ、腹のたつ顔が、「フヘ!」 ……っと笑った。これは相当、腹が立つ。

建成は奥歯を噛み締めて耐えた。

すると猫は、今度はスタンウェイの前までやってきて、「フヘ!」 ……っと笑った。スタンウェイは落ち着いているのか、微動だにしなかった。

猫は、前足でポリポリと頭をかきながら、再び、建成の前までやってきた。

そして、1mほどの大きい猫じゃらしを取り出して建成のまつ毛を触ってきた。建成は思わず目を閉じる!

…… ……くすぐったいし、目を閉じたことは動いたことにカウントされなかったのか、何も起きなかった。


 ……続いて、猫はそのまま建成の耳元に口を近づけた。

猫の口臭が建成の鼻までやってきて、「グシュングシュン」という呼吸音が耳をくすぐる。

建成は、奥歯を噛み締めてひたすら耐えた!!

……すると、猫は、建成の耳元で……


「…… ……キンタマ」


 と呟いた。


 別に面白いことではないが、このシュールすぎる状況に耐えられず建成は思わず、


「ぷ!!!」


 ……と吹いてしまった。

 ……しかし何も起きない。この部屋は他の部屋と比べて審査が甘いのかもしれない。

さらに輪をかけて腹だたしい。


 その後も建成は、猫の後あしで足を踏まれ、尻尾でビンタされ、面白くない下ネタを連呼され、

『みぞおち』に猫パンチを喰らい、屁をかけられ、ありとあらゆる拷問を受けたが、なんとか耐え抜いた。

その5分は、建成が経験してきたどんな5分よりも長く、不快だった。


 ……すると、

パアン!! ……と猫は光と共に消え、一つの鍵が天井から落ちてきた。


「終わった? 終わりました!! やりましたよ建成!!」


「やった!! 耐えたんだ!! やった!」


 二人は、半泣きのハイタッチを交わした。


「さあ、鍵を調べましょう。前回の最後の部屋の鍵ですかね?」


「どうだろう……」


 建成とスタンウェイは、落ちてきた鍵を調べた。


 ……そこには、騎士の絵が書いてある鍵が落ちていた。


「「『騎士の鍵』?」」


 ……騎士の鍵で開きそうな扉を、二人は確かに『どこかで』見た!

しかし、これまでのことで果たしてその鍵をどこで使うのかを忘れてしまった!


「どこで使うんだっけ……」


 建成はそのまましゃがみ込むと、視界が歪んだ。


「ここで時間切れか!」


「建成、やはり20分では最初から攻略できない迷宮の作りのようです。何か、探さないと……!!」


 二人の意識が遠のく。


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