ビジネス・パートナー
王の間。
強制転移させられた建成は、もはやここから王の周りの兵士達を上手く指揮し、
1秒でも早くデフォルトでは拘束されている魔術師スタンウェイを、脇の兵士詰所から、
拘束の解かれた状態で自分の前まで連れてこさせるという競技に熱中していた。
まるで部活の顧問教師にでもなった気分だ。
この時の建成は号令もかけずに、両手をパァン!! と叩いて王の周りの兵士たちに『開始』の指示を出した。
そして、今度は声もかけずに、兵士、小デイヴに小刀を放り投げた。
……この日は、建成のコントロールが定まらず、小刀がてからすっぽ抜けて、小デイヴの身長に比べて高い位置に小刀が飛んでしまった。
小デイヴは飛びつくが、暴投気味の小刀は小デイヴの頭を超えた。
……すると、冷静な判断で小刀の落下地点で落ち着いて待っていた兵士がいた。この間ファインプレーを見せた、寡黙ないぶし銀の兵士だ。
いぶし銀は、小刀を捕球(?)すると、落ち着いてサイドスローで小デイヴに小刀を投げ届けた。
一連の兵士達の連携を見て、建成は痛く感激し、
建成はいぶし銀の兵士に向けて拍手を送り、親指を立てた。
いぶし銀の兵士はそれに敬礼で答えた。
「1! 2! 3! 4! ……」
それから建成がすることは、大声でカウントをすることだ。
部員の生徒を煽っているのである。昭和のやり方だがこれが割と効く。
……拘束が解かれたスタンウェイが目の前までやってくると、
「過去最高ラップだ! しかし改善の余地はある! 1秒を削り出すんだ!
……じゃあ行って参る!!」
「「行ってらっしゃいませー!!」」
兵士達に見送られながら、勇者建成と魔術師スタンウェイは、王の間から伸びる長い長い廊下を進み出した。
……国王、デイヴ・ドゥングリムックリは、その場に居ながらにして、今回もやはり一言も喋れなかった。
大きい猫ちゃんのぬいぐるみを持って一人で遊んでみたが、誰一人として自分に構ってくれるものはいなかった。
この国に王子として生まれ、王となった今の今まで、これほどまでの疎外感を感じたことはない。
これが……死か。
国王、ドゥングリムックリは一つの悟りの境地に達した。
【無限回廊】
「魔術師どの、今回はいかがいたしましょう」
「……そうですね。……どこを調査できてないのでしたっけ?」
「忘れました!!」
「……無理もないですね。道道思い出しましょう」
建成とスタンウェイは、王の間から数えて69番目の右の扉を開いた。
【地下牢】
……一方、地下牢。
ベーゼンドルファーは、何が起きたのかわからず、しばらく唖然としていた。
どうやら強制エンドを食らったようだが、
直前までいた部屋が意味不明すぎて恐怖を覚えていた。
あの部屋にかかっていた曲がトラウマになりそうだったし、
あの部屋の情景を思い出すたびに頭痛がした。
この城は……本当に自分が思っているより3倍はややこしいことになっている。
『一人では攻略できない』というのは、悔しいが本当のようだ。
……とりあえず、この先あの部屋に一人で入るのは勘弁こうむりたかった。
すると、ベーゼンドルファーに残された道は……
ベーゼンドルファーは、大きなため息をついた。
【『もう』と鳴く馬小屋】
「建成様」
「なんですか?」
「今一度、エレベーターで地下に降りてみる、というのはいかがでしょう?」
「……正気でございますか?」
「悔しいですが、私たちよりも、あの盗賊の方が真相に近づいているのは確かなようです。
だとしたら……『モアーリセット』がなされた可能性に賭けてみるというのはいかがでしょう?」
「なるほど! では……意を決してエレベーターを降りてみましょう!」
【くだらない螺旋階段】
「さあ、お乗りください。魔術師どの」
「……はい。なんだかいつもごめんなさい」
「いいんです! 事態が事態です! 助け合わねば!」
「……はい」
スタンウェイが建成の背中に乗っかったその時である。
「……おい。まちな」
螺旋階段の上からゆっくり、『ユーレイ』ことベーゼンドルファーが降りてきた。
「……貴様!! そこに居直れ!! 叩っ斬ってやる!」
「待てって! 熱くなんなよ勇者」
「黙れ裏切り者が!」
建成に『裏切り者』と呼ばれベーゼンドルファーは、小さくため息を漏らした。
「俺は裏切ったんじゃねえ。『別行動』を取ったんだよ」
「ものは言いようですね」
スタンウェイからの言葉も冷たい。当然だが。
「多少は賢いお嬢ちゃんなら気づいたかもしれねえが……俺はだいぶ、この城の深いとこまで行ってきた。
はっきり言って心臓部と言ってもいい。
その俺がまたお前らに会いにきたんだ。それがどういう意味か考えろって」
「もう貴様の多弁に耳など貸さぬぞ詐欺師め!!」
「じゃあ俺から情報も聞き出せねえな可哀想に! ……俺がお前の立場だったらこの状況は、
この上ないチャンスなんだけどなあ!」
「建成様……」
スタンウェイは建成の背中から静かに語りかけた。
「悔しいですが、この男の言うことも一理あります。心臓部まで行ったと言うのは、あながち嘘ではないかもしれません」
「魔術師どの!?」
「嬢ちゃんのいうとおりだぜ。俺に利用されてる状況ってのがどれだけオイシイか、落ち着いて考えてみな」
建成はスタンウェイを背中に乗せたまま、数秒間考えた。
「『人間はお互いに助け合い、利用し合話なければならない』……水木しげる先生が鼠男に言わせたセリフだ」
「……よくわかんねえが、手ェ組む気になったのかよ」
「手は組まん! だが利用し合う! 俺の世界で言うところのビジネスパートナーって奴だ!!」
建成がそういうと、ベーゼンドルファーは鼻で笑った。
「じゃあ、商談成立ってことでいいんだな。ついてきな。心臓部まで案内するぜ」




