なんだここは……
カスタマーセンターにて『強制終了』を選択し、
地下牢まで戻ってきたベーゼンドルファーは、またもや、
『抜け道』をナマズの如く滑り行く。
【くだらない螺旋階段】
勇者建成と魔術師スタンウェイを待たずして階段を駆け上り、
またもやエレベーターに単独先行した。
今回の彼の目的は、『カスタマーセンター』から近い所の探索である。
ナンバーはすっかり頭に入っているので、時間切れが近づいなたら、行って『タイムリセット』をし、
建成一行が追いかけてきたなら、カスタマーセンターまでは全力で逃げて『強制終了』をすればいい。
とにかく、建成たちを出し抜くには、彼らよりも多く情報を持っていることである。
【気まずさのエレベーター】
……この部屋に、慣れる時は来るのだろうか。
ベーゼンドルファーは、狭い空間に女人と二人きりというシチュエーションは苦手だった。
「上に行きますか? 下に行きますか?」
とはいえ、男だ。粋を気取っていたい。
頭の中で一瞬の内に数十回練習をして、気取ったいなせなセリフを一つ吐いてみようと思ったが、
「一つオススメにお願いしますぜい!」
などと可笑しな言葉と声が出てしまい、気まずさの濃度が濃くなった。
エレベーターガールはいつもの表情を崩さずに、エレベーターを動かした。
【世界最後の喫煙所】
これで三回目の喫煙所になるが、まだここでタバコを吸える余裕がないことが、
ベーゼンドルファーはもどかしかった。
他人の臭いタバコの匂いは、娼婦の香水の匂いがした。……娼婦など買ったことないが。
今回は、道中にある、半壊した扉に用がある。
それは地下に通ずる扉で、階下から聞いたこともない音楽が聞こえてくる建物だった。
どこかの国の酒場に雰囲気が近いのだろうか?
それにしては、人間の声が聞こえない。音楽のみ鳴り響くばかりだ。
ベーゼンドルファーは、半壊した扉を開け、地下に降りていった……。
【絵もない花もない洒落もない居酒屋】
「なんだ……ここは……」
階段を降りた先には、酒場よろしく二人の壮年男性がカウンターを挟んで向き合っていた。
そのうちの一人はおそらく客で、どこを見るでもなくただ、飲み物を黙って飲み、
もう一人は酒場の店主なのか、やはり寡黙にグラスを磨いている。
部屋中に、外まで漏れていた音楽が響いている。
「……らっしゃい」
店主がベーゼンドルファーに話しかけた。
どうやら、ベーゼンドルファーの想像通り、ここは飲み屋で間違いはないらしい。
酒場だとしても雰囲気以外何もない酒場だ。
ベーゼンドルファーの知ってる酒場は、もっと人がいて、もっと賑やかで、もっと華やかだった。
ここは監獄と変わらない。
看守が囚人に酒を飲ませる場所なのだろうか?
とりあえずこの先に何があるわけでもなさそうだが、ここにもきっと、なんらかの意味はあるのだと思う。
ベーゼンドルファーは警戒しながら、スーツ姿の壮年男性の隣に座ってみた。
しばらく、なんの時間なのかわからない沈黙が流れ……やがて、ベーゼンドルファーの隣の壮年の客が、
笑顔で話しかけてきた。
「もしも嫌いでなかったら、何か一杯飲んでくれ」
男の喋りくちは、どこかセリフ的で、それが様になっていた。……が、
……?? どういう意味だろう?
奢ってくれるという意味だろうか? それとも罠か? その逆で、何か飲めばヒントがもらえるのだろうか?
思い出せ。地下牢でこの場所について何か言われてないか。
…… ……だめだ。何も出てこない。
予期せぬ事態の連続に、ベーゼンドルファーは内心混乱を極めていた。
しかし、相手がせっかく誘ってくれているのだ。
これはこの男から情報を聞き出せと、そういうことなのだろう。
ベーゼンドルファーは勇気を振り絞って答えてみた。
「じゃあ、ご馳になるぜ……」
……すると、先ほどまでベーゼンドルファーを見ていた隣の客は視線をベーゼンドルファーからカウンターに戻し、
また黙り込んでしまった。
気まずい沈黙が流れたが、やがて……
隣の席の男が、どこからか取り出したのか、1m四方はある大きめのパネルを見せてきた。
こう、書いてあった。
『強制終了。残念でした』
……え?と、ベーゼンドルファーが思う間も無く、
彼の視界は歪んでいき、意識は遠ざかっていった……。




