1秒1秒の重み
王の間。
「はい開始ー!!」
建成の号令で、兵士たちは一斉に動き始め、王の間の脇の扉をあけた。
「小デイヴ!!」
建成は、兵士小デイヴ・ドゥングリムックリに小刀を投げた。
が、小デイヴの反射神経が追いつかず、小刀を受け取れず床に落としてしまう。
「バカもん! 何をやっておるのだ!」
「す、すいません!! 」
兵士小デイヴは小刀を拾い上げ、部屋の中に駆け出した。
「…… ……小デヴ!! 遅いぞ!」
「申し訳ありません!!」
「我々は1秒1秒の重みがあるのだ! 責任感を持て小デヴ!!」
「は、はい!!」
ややあって、拘束されたスタンウェイが解放され、る。
「いきますよ! 魔術師どの!!」
「は、はい」
建成とスタンウェイは王の間を出た。
王は……一言も喋れなかった。
【無限回廊】
「勇者どの、今回も……あの『キツエンジョ』とやらに行くのですか……
「前回は思わぬタイムロスが多かった。探索する価値はあります!
大丈夫! 螺旋階段はこれから、私が魔術師どのを担ぎあげます!!」
「しかしそれではあまりにも勇者様の負担が……」
「なんの!……『やりがいや充実感は、結局は自分好きなことの中にしか見つからない』……水木しげる先生のキャラクター、
『ぬりかべ』の言葉です」
「……好きなこと? それって……」
「行きますよ! 魔術師どの!」
建成とスタンウェイは、王の間から69個目の右の扉を開いた。
【『モウ』と鳴く馬小屋】
「勇者どの、もうここで鍵を探す必要はないのでは……?」
「? なぜです?」
「あの囚人は、自分で『抜け道』からこの先の螺旋階段にきますから……」
「……あ! 確かにその通りでございます!! これはいい! 非常に時短です!
魔術師どのはさしずめ、『ジタニスト』にございますな!!」
「ジ……タニスト……?」
【くだらない螺旋階段】
スタンウェイの提案通り、この【くだらない螺旋階段】で待ち合わせれば、相当な時短になる。はずだった……
ここで予定外な出来事が起きる。
待てど暮せど、ベーゼンドルファーが来ないのだ。
「あやつ……律儀に地下で待ってるのか!?」
「いえ……勇者どの……これは……おそらく、裏切りにあったのでは……」
「裏切り!?」
「あやつは、私たちにはない情報を持ってます。
さっきの『喫煙所』に行けることがわかったら、私たちを出し抜いてさっさと脱出を試みようとしているのかも……」
「なんと?!」
……スタンウェイの予感は、悲しいことに的中していた。
ベーゼンドルファーは、一人で自分の房から『チクリ屋』ベヒシュタインの房に忍び込み、
抜け道を凄まじい速度で這い出て、
牽制とスタンウェイが【くだらない螺旋階段】に到達する前に一人で階段を登り切ったのだ。
【気まずさのエレベーター】
「上に行きますか?下に行きますか?」
エレベーターガールにそっけなく聞かれ、ベーゼンドルファーは、
「おすすめの階で止めろ」
と言い放った。
ガコン! とエレベーターが動き出し、慣れない部屋の動きにベーゼンドルファーは「うおう!」
と、少し情けない声を上げた。
……エレベーターは、喫煙所の階で止まった。
【世界最後の喫煙所】
ベーゼンドルファーの眼前に、灰色のコンクリートジャングルが広がる。
当然、ここまで最速タイムでやってきた。
しかし、自分が裏切ったことを察した勇者一行が後ろから追いかけてくることを予感していたベーゼンドルファーに、
心の安らぎなど遠かった。
見慣れぬ景色を進む。タバコは好きで、喫煙所の雰囲気も好きで、特にこの空間は一種の安らぎのようなものを感じるベーゼンドルファーだったが、
やはり、他人のヤニ臭さは苦手だと感じた。
……あるいは、この空間の人種とは吸っているタバコの種類が全く異なるのかもしれない。
ベーゼンドルファーが灰色の街を進と、道中、ドアが半壊している建物を見た。……中から音楽が聞こえてくる。それはそれまで聞いたこともないような音楽だった。
それとは別に、まだ道は先に続いている。
ベーゼンドルファーは、立ち止まって考えた。
この後、勇者と魔術師が追ってくるとする。
……奴らはこの喫煙所までの行き方は知っている。
あの賢いとは言えない勇者のことである。空いてる扉を見たら、真っ先に入るのではないだろうか……?
ベーゼンドルファーは、半壊した扉をあけ、あたかも自分がここに入っていったかのように偽装をし、
別の道に向かって歩き出した。
……するとやがて袋小路に辿り着き、別の扉を見つけた。
その扉には……四桁の数字によるダイヤル式の鍵がかかっていた。
ベーゼンドルファーは舌打ちをした。
どうやら力技でこの鍵を壊すことは出来ないようだ。
引き返すか……と、先ほど歩いてきた道を振り返ってきた時に思い出した。
確か……『どこかに通じるダイヤルナンバー』のヒントを2つほど地下牢で得たはずだ。
ベーエンドルファーは目を閉じで意識を集中し、ここ数時間前の記憶を遡った……
『ダイヤルナンバー』に関して、教えてもらったことは二つ。同じ扉なのか、違う扉のナンバーなのかは不明である。
そのうちの一つは……
「そうだ。『カスタマーセンターで聞け』だったな」
カスタマーセンターについてはまだ未知の領域なので、これは一旦置いておくことにした。
ベーゼンドルファーは、牢獄の中の空気を思い出すことに集中した。
そして……ある『絵』が浮かんだ。
自分が忍び込んだ囚人の房にて、タバコを与えたら……
『ハエが飛んでやがる』と言って、壁に止まった蝿を拳で殴り潰し、
「『これ』だ」
と言ったのを思い出した。それが確か、どこかのダイヤルナンバーのヒントのはずである。
足元に転がる、蠅の死骸。
そこから四桁のナンバーを導き出すことが求められた。
「ふむ……」
ベーゼンドルファーは、顎に手を当てた。
ハエ……死骸……
落ち着け。相手は同じ囚人だ。似たような感覚で生きているような奴らだ。
ハエ……死骸……虫……『むし』?
む、し。
6、4。
虫の死骸。
6、4、4……だめだ。これじゃない。
……ゴミならどうだ?
む、し、ご、み。
6、4、5、3。
ベーゼンドルファーは、試しに、ダイヤルナンバーを、6、4、5、3に合わせた。
すると、『ガシャ……』 と扉が開いた。
「へへ。一発ビンゴだぜ」
ベーゼンドルファーは扉の奥に進んだ。




