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喫煙者が禁煙者に理を唱えることのできる唯一の場所

再び王の間に強制転生された建成は、

王が「死んでしまうとは何事か」をいう前に城内の兵に檄を飛ばした。


「おうい!! そこの脇の扉開けとけっつったろ!! やる気あるのか!」


 兵士達は建成が何を言っているのか一瞬わからず顔を見合わせたが、

ドゥングリ王が建成の剣幕にやられて声を発せられないのを見て、慌ててスタンウェイのいる小脇の扉を開けた。


「もう次はないぞ! 俺がここに転生されたら、ス!! っとやっとけ!

 お前達に水木しげる先生のありがたい言葉を授ける!!

 砂かけばばあという素晴らしきキャラクターの言葉だ!!

 『好きなことだけをやりなさい。好きなことは一生懸命やりなさい』

 いいか! 俺は頑張ってるんだ! 一生懸命やれ!!」


 もはや、王は自分の立場をなくしてしまし、頭を掻いた。

そして、建成は、小脇の扉の一番近くに立っていた兵士に話しかけた


「君、名前は」


「は、はい!! 小デイヴ、ドゥングリムックリにございます勇者どの!」


「王と同じ名前……? 君は王子なのか?」


「違うのであります。この辺りではありふれた名前ですので、『小デイヴ』なのでございます」


「ややこしいな。まあいい。君に頼む。

 君の役割は、次から私がここに転生し、そこの扉が空いたら……私がこの小刀を君に投げ渡す。それを受け取れ。できるな。

 小デヴ」


「は……はい!!」


「その先はどうすればいいか、わかるな。小デヴ」


「はい!!勇者どの!!」


「答えてみろ! 小デヴ!!」


「奥で拘束している不審者……もとい、えー、女性の拘束をときます! サー!!」


「それでいい小デヴ!! よし。友情の証にこれをあげよう……。私が肌身離さず持っている、

 鬼太郎のリモコン下駄1分の1スケールだ!! 水木先生のサイン付きだぞ! 」


「あ、ありがとう存じます!!」


 建成は、スタンウェイの元に行き、拘束をといた。

……王は、結局、一言も喋らなかった。






【無限回廊】


「兵士たちに檄を飛ばしましたので、次からはこのステップを時短できると思います。

 行きますよ! 魔術師どの!!」


「は……はい……勇者どの、本当にあの男を信じるのですか?」


「外に出られなければ、あの悪党の更正もままなりません!」


「それはそうですが……」


 建成とスタンウェイは、王の間から数えて69番目の右側の扉を開いた。





【『モー』と鳴く馬小屋】




「さ! 急ぎますよ!」


「お待ちください勇者どの! あの男を信じるのであればここでやることがあるのでは!?」


「……その通りでした。申し訳ない。私時短のことで頭がいっぱいになっておりました……

 ご指摘感謝いたします」


「いいえ……それより、鍵はどこにあったのです?」


「ええ……猫ちゃんを探しましょう」


「猫ちゃん?」


「この馬どもふざけているのか、『モウ』『モウ』などとやかましいのですが、

 集中して耳をすませば『モー』となくふざけた猫ちゃんがおるのです!」


「え! ……本物の猫が紛れていたということですか!」


「…… ……まあ、探しましょう!」


 建成とスタンウェイは、集中して耳をすまし、猫を見つけ出して『地下牢の鍵』を手に入れた。

しかし、ここで思わぬ時間を食ってしまった。ここの時短をどうするか……建成の頭はそれで一杯になった。





【くだらない螺旋階段】



 建成とスタンウェイは、螺旋階段を登り、エレベーターを目指した。




【気まずさのエレベーター】





「上へ行きますか?……」

「下へ!!」


 食い気味に建成が答えると、エレベーターガールは明らかに気分を害したようだった。そして、

あえてゆっくり、


「上へ行きますかぁ? 下に行きますかぁ?」と嫌味ったらしく聞いてきた。


「むう……絶対に最後まで言うと言う社風なのか……!! そこは融通を利かせてくれてもよくはないのか!?」


「勇者どの! こんなところで張り合っているのではそれこそ時間の無駄にございますよ!」


「……そうでした。ではエレベーターガールどの。下にお願いします」


 建成とスタンウェイ、エレベーターガールを乗せたエレベーターは地下水路に降りていった。




【世界一きったねえ水路】






「勇者どの、あの男は……本当に待っているでしょうか?」


「待ってないのでしたらわざわざ商談なんて持ち出さなないでしょう。

 魔術師どの、一旦、善悪は忘れませんか」


「わかってはいるのですがどうしても倫理観が押しとどめるのです……」


「魔術師どのは王から雇われた身。その気持ちもわかります。でも私はあくまでニュートラルな立場ですから」


 スタンウェイは呆気に取られた。


「勇者どのは……正直な方ですね」


 

 建成とスタンウェイは、『地下牢の鍵』を使って扉を開けた。




【地下牢】



 建成とスタンウェイが地下牢に到達した時には、

『ユーレイ』こと、ベーゼンドルファーは鉄格子の外で腕を組んで二人を待っていた。


「おせえぞ」


「すまん。次から時短を心がける」


「『次』だあ? 今回で城を出るっていう気概はないのか」


「……それもそうだな。すまん。私としたことがすっかり弱気になっていた。

 だとするならこの問答も無駄だ。『ユーレイ』。早速昨日の話の続き……ここの情報を教えてくれ」


「おう……」


 ベーゼンドルファーは、以前潜入した、『チクリ屋ベヒシュタイン』の房の前まできた。

……ベイシュタインはすでに、房の中にいなかった。脱出したのか、それとも……


「確かこの牢に……おい。地下牢の鍵でここの房開けられるかい」


「やってみよう」


 建成は、鉄格子の鍵穴に鍵を差し込んだ。


「いけそうだぞ。この房が何なんだ?」


「……」


 建成が、ベヒシュタインの房の扉を開けると、ベーゼンドルファーは入って行き、

房の暗闇の中を探索し始めた。


「……見つけたぜこれが『抜け道』ってことだな」


 ……それは、房の暗闇の奥、ベヒシュタインのねぐらの辛子色の毛布、その下にあった。

人一人が這って通れるほどの抜け道がある。


「ここはどこに通じるのだ?」


「知らねえよ」


 そっけなくベヒシュタインは真っ暗な『抜け道』を這っていった。慣れているので、すごいスピードだ。まるでモグラやスカンクである。

一方、体格の大きい建成はこの作業に難儀し、足を負傷している上に建成がつっかえていて、スタンウェイも遅れていた。


「おいバカ! 急げ!」


「言われなくても急いでおる! こちらには怪我人もいるのだぞ!?」


「足引っ張るようなら俺は置いてくからな!」


 そして、脱出まで10分近くを費やし、ベーゼンドルファー、建成、スタンウェイは細い穴を抜け出た。






【くだらない螺旋階段】





「ここは……螺旋階段か!」


「そのようです……私の嫌いな。もうここには来なくて済むと信じてました」


 スタンウェイは疲弊しきっていた。


「……知ってるのかい」


「さっき通ってきたところだ」


「……じゃあ、『次』からここに集合な。その方が圧倒的に効率的だ」


「『次』はないのではなかったのか?」


「るせえよ……」


「それより『ユーレイ』。ここを登れば例の『エレベーター』だ。

 お前確か『エレベーターガール』に関する情報を持ってたな」


「『エレベーター?』この先にあるのか」


「急ごう。魔術師どの、私の背中にお乗りください」


「え? ……きゃ!!」


 建成はスタンウェイを担ぎ上げた。


「乱暴な真似を失礼致す」


「いいえ……なんか……ごめんなさい勇者どの。

 ……もしよろしければ『次』からこの階段、この方式でお願いしても構いませんか?」


「そうですね! そうしましょう!」


「おい、急ぐぞ」


 スタンウェイを担いだ建成、ベーゼンドルファーは、階段を登りきり、エレベーターにたどり着いた。




【気まずさのエレベーター】


「ついたぞ。これが『エレベーター』だ。ユーレイ」


「この……部屋のことかい……?」


「そして彼女がエレベーターガールだ。愛想は期待するな」


「上へ参りますか? 下へ参りますか?」


「……ユーレイ? どうするのだ? 彼女に何を問えばいい?」


 ベーゼンドルファーは少しだけ記憶を掘り起こした。そして……


「……『おすすめ』だ。『おすすめ』の階に連れてってくれ」


「……」


 するとエレベーターガールは、無言でエレベーターを操作した。


「なんと!? 二択では無かったのか!」


「こ、この部屋は、どんな魔力で起動しているんだ!?」


「慣れれば気にならなくなるわよ。それより勇者どの、重たい思いをさせて申し訳ありませんでした。

 おろしていただいて結構です」


「あ、はい」


 エレベーターの扉は、静かに開いた。






【世界最後の喫煙所】





 そこは、曇り空の広がり、異世界とは思えないビルの谷間を思わせる灰色の世界だった。

あたりを、室外機のファンの音が響いている。

こんなに人工的な景色に、誰もいない。

エレベーターガールを含めて四人だけだ。

誰もいないのでその景色は動くものがなく、写真の中にでも閉じ込められたのかと思わせる雰囲気であった。

が、しかし……


「な……なんでございますか……勇者どの! この匂いは……」


「これは……」


「タバコだ」


 ベーゼンドルファーはこの空間に落ち着きを覚えた。


「私、この空間の匂いが一番ダメかもしれません!」


「さっきの地下水路よりですか!?」


 スタンウェイは目を閉じて鼻を摘んだ。

そこはどうやら、現代世界でいうところの、パチンコ屋と、換金所、オフィスビルの乱立する建物の世界のようだった。

建成には見慣れた景色だが、異世界の住民である二人からすると、要は逆異世界転生状態に陥っているために、

目を丸くしてあたりを見ていた。


「どうやら……思ったより厄介な魔法がかかってるようだな……そして悪い知らせだ」


「なんだ」


「タイムアウトだよ! ……仕方ねえ。『次』だ!『次』!!」


 ベーゼンドルファーはタバコに火をつけた。


「やめなさいその匂い!!」


「うるせえここは喫煙所だ! 喫煙者が禁煙者に理を唱えることのできる唯一の場所なんだよ!

 いやなら部屋からでてけ!」


 建成は、現実世界でも見慣れた風景にため息をつき、そして、ゆっくりと視界が溶けていく感覚を覚えた……



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