牢で朽ちさせることだけが反省じゃ無い。
薄暗い地下牢にて、建成達とベーゼンドルファーが鉄格子を挟んで向き合っている。
「お前らが勇者だな? 俺と取引しようや」
「誰だお前は」
「俺は……俺は俺さ。どうしても呼びたきゃ『ユーレイ』とでも呼んでくれ」
「ユーレイ…… 水木先生を知ってるのか!?」
途端に熱くなった建成を、魔術師スタンウェイが諌める。
「勇者どの! こやつは罪人です! 耳を貸してはなりませぬ!」
「お前ら……『エレベーターガール』の秘密を知らんのだろう」
ベーゼンドルファーはカマをかけてみた。
彼の思惑通り、目の前の二人組の顔色が変わり、
勇者の方が喋った。
「……話を聞こうか」
「オーッと。俺は取引って言ったよな?」
「金ならないぞ。俺は転生したばかりなんだ」
「……だぁれが。見るからに乞食っぽい奴に金なんかせびるかよ」
「何!? お前、『ユーレイ』のくせに知らないのか!?」
「……何を」
「『金なんか飢え死にしない程度にあったらええ』……水木先生がゲゲゲの鬼太郎の、猫娘に言わせたセリフだ!」
ベーゼンドルファーは、建成達に声をかけたことを少し後悔した。
彼は、話の通じない人間が大嫌いだった。
「……いいか? 俺の要求は一つ。……俺も連れていけ」
「? そんなことでいいのか?」
「なりません勇者どの! 脱獄に加担することになります!」
今度は魔術師の方が熱くなった。
「ちいせえこと言うなよ。お嬢ちゃん。
お前らもこの城に相当難儀してるんだろ?」
「悪党の手は借りません!!」
「そうだよ俺は悪党だ。でもな、正直な悪党だ。役には立つぜ。
……少なくとも、そっちの頭の弱そうな転生者よりかな」
「何だと!!」
建成は、突然鉄格子に頭突きをした。
ゴーーン……という音が地下室に響く。
建成は鼻血を出した。
「どうだ! 頭は強いぞ!」
スタンウェイもベーゼンドルファーも呆気に取られてしまった。
「……話を続けるぜ。俺が知ってるのは『エレベーターガール』のことだけじゃない。
ここの囚人は皆優秀でね。何人もこのおかしくなった城から脱獄を試みている。
そういった囚人達の集めてきた情報が詰まってんだ」
ベーゼンドルファーは、自分の頭を指差した。
「……ココにな。お前らは俺を連れて20分以内に城から出ればいい。
俺はお前らに必要な情報を与える。……どうだ。悪くねえ商談じゃねえか?」
建成は、スタンウェイを見た。
「……どう思います? 私は正直、情報は喉から手が出るほど欲しいです」
「しかし勇者どの……、脱獄の片棒を担ぐのは……第一、あなたは私たちと組んで何のメリットがあるの?
情報を持ってるなら一人で脱獄すればいいじゃない」
「そうだな。お前らが役に立たないと感じたら俺は1抜けさせてもらう。どうだい。素直だろ?」
「勇者どの、私は反対です。」
「しかし……事実問題として我々も、迷宮に迷っているのも事実。……鼠男も言ってました『ラクこそ幸福だ』……とね」
「どうなんだい。俺を雇うのか。それともこのまま迷路で遊んでるか」
すると建成はベーゼンドルファーをまっすぐみた。
「おい『ユーレイ』」
「……オメエにはまだ気安く呼ばれたくねえけど、なんだ」
「家族はいるのか」
ベーゼンドルファーには、突然建成の顔つきが変わったように思えた。
鼻血は心配だが……
「??……いるよ」
「家族を愛してるか」
「……なんでオメエにそんな事を聞かれにゃならん?」
「質問に質問で返すな」
「何なんだ突然……愛してるよ。家族の元に帰りたい。だからオメエに声をかけたんじゃねえか」
「……よし。信じる」
「勇者どの!!」
「魔術師どの、こいつは悪人かもしれませぬが、今の一言は本音です。
何もここで朽ちることだけが反省ではない。
ここから出た暁には、私がこいつに鉄拳制裁をします。
それで、どうです」
「どうと言われましても……」
「ハハハ。よかったよ思ったより話が通じるじゃねえか。
……嬢ちゃん、さっき、『もう時間がない』って言ったな。
……次のループでまっすぐここに来い。いいことを教えてやる」
スタンウェイの顔に険しさが増した。
「私は、あなたを信じてません。そっちが私たちを裏切るなら、私たちにだって考えはありますからね。
甘くみないでくださいよ」
「……おっかないねえ。
いいぜ。じゃあ、また後でな。おやすみ」
そう言って、ベーゼンドルファーは、牢獄の闇に溶けていった。




