勇者とユーレイの出会い
同刻、地下牢に隣接した、【世界一きったねえ水路】にて。
「魔術師どの、提案があります」
建成が神妙な顔つきでスタンウェイに話しかけた。
「はい、何ですか」
「痛みを伴う提案です」
「はあ」
「我々は、例の臭い馬小屋に……まあ、ここよりはマシですが……
そこに戻ることになるわけですが、確か道中には……」
「あの忌々しい石畳の螺旋階段ですね!?」
スタンウェイの顔つきが険しくなる。
「そうです。往復することになります。
私にも経験がありますが、捻挫をした足で石の階段を昇り降りするということは苦痛でしかありませんね。
魔術師どのはここで待っていただけますか」
「勇者様……私に気をつかって……」
「しかし、この決断には痛みが伴います。それは、私が馬小屋にあるとされる『鍵』を見つけて、戻ってくるまで、
魔術師どのをここに待たせることです。
捻挫した足での階段。鼻の曲がるくっさい場所。選ぶならどっち……」
「究極の選択ですね……私は正直、ここにいるくらいだったら足の痛みに耐えたいところです」
「ええ。ええそうでしょうとも。しかし、わたしたちには時間が惜しいのです」
「捻挫した私の足が邪魔ですか……」
「苦しい決断ですが仕方がありません。これは。
なるべく早く探して戻って参ります。それまでここで耐えてください」
「お一人で……決断されましたね」
「辛い決断でした。極限、折衷案も考えました。
水木しげる先生がゲゲゲの鬼太郎で、鼠男に言わせた
『この世はまだらにできてんだ。白黒つけたらしんどいだけだぜ』
という言葉を胸に……ね……」
「……その、会うたびに毎回出てくる水木何がしとは、何者なのですか?」
「ともかく、決断をしてしまった以上は待っていていただきたい。
正直……1秒でも早くここから出たい」
「勇者どのは……」
魔術師スタンウェイは呆れかえっていた。
「正直でございますね」
「では、行って参る」
建成はヌルヌルする地下牢を足速に去っていった。
取り残された魔術師スタンウェイは、鼻を手で押さえた。
【気まずさのエレベーター】
エレベーターには、エレベーターガールがこの匂いの中平然と待機していた。
「上に参ります」
「ま、またれい! 先ほどの螺旋階段の階で止めてもらいたいのだ!」
建成がそういうと、エレベーターガールは露骨に面倒臭そうな顔をした。が……
「かしこまりました」
と言って、エレベーターのボタンを押した。
エレベーターから、石畳の扉までは引き返せる事実を、建成は発見した。
【くだらない螺旋階段】
「急がねば! 魔術師どのの命が危ない!!」
建成は、螺旋階段を走って降った。
そして、道中の、馬小屋に通づる扉を開けた。
【『モウ』と鳴く馬小屋】
「ぜえ……ぜえ……臭い!!
今回は臭い思いしかしていない!!」
大声で建成は悪態をつくと、先ほど地下で囚人が話していた言葉を思い出した
「確か……一匹だけ……鳴き声の違う馬がいるのだったな……」
馬は、モウ、モウ、モウと牧歌的な鳴き声で建成を出迎えた。
馬の数は大体30頭と言ったところだろうか。
その全部が全く同じトーンで、「モウ」と鳴いている。
「くそ……どれだ!!」
建成は目を閉じた。今こそ、現実世界で、異世界に転生された時のために詰んだ修行を思い出す時である。
見えるもの、聞こえるものに惑わされず、己に与えられた情報を素直に受け取れ。
呼吸を忘れるな。集中……
モウ……モウモウ……モウモウモウ……
臭いー!! だめだ! 素直に情報を受け取ると匂いが先に来る!!
なんと不便な生き物なのだ人間とは!
モウ……モウ……モウ……モー……モウ……
「今のは!?」
確かに、1匹だけ語尾(?)がおかしい個体が居た。
建成は再び集中しながら、耳を済ませた。
モウ……モウモウ……モー……
「……こっちか……」
モウモウモウ…… モー……
「お前か!」
カ!!……っと、建成は閉じていた目を開いた。
そこには……馬に紛れて1匹、猫がいた。
モーと鳴いている……。
そして、鍵のついた首輪をしていた。
「……色々と言いたいことはあるが、時間がない。その鍵を借りるよ猫どの」
建成は、首輪から『地下牢の鍵』を手に入れた!!
【くだらない螺旋階段】
「急がねば!! 余計な時間をつかってしまった!!」
建成は、階段を駆け上がった。
【気まずさのエレベーター】
「上に行きますか? 下に行きますか?」
「ぜえ……ぜえ……ぜえ……し……下へ……」
エレベーターは下に降りていった。
【世界一きったねえ水路】
「魔術師どの!!」
「ゆ……勇者様……」
「よかった。匂いのあまり怪異にでもなっていたらどうしようと思いました」
「……その可能性もありました。それが、この壁の向こうに通じる鍵ですか」
「おそらくそのはずです」
「待っている間、扉は見つけておきました……。こちらです」
「さすがは魔術師どの!! 我々には効率が文字通り生命線ですからな!!」
「はい……」
スタンウェイに導かれ、建成は地下牢の扉を開けた……。
【地下牢】
自分の房で、相変わらず横になっていたベーゼンドルファーは、突然地下牢の扉が乱暴に空いたので驚き飛びおきた。
……誰だ?兵士が来たのか……?
マズイ……ドゥングリの泪のことがバレたのか……
しかし、その割には足音が変だ。少なくとも兵士ではない。
「どうやら、ここは囚人たちの牢獄にございますね勇者どの」
「ということは……先ほどの声は囚人の声だったのか……」
などという声がする。
……勇者?
『タイムループの時間は、勇者が王の間を出てからきっかり20分』
というディア・パソンの言葉を思い出した。
……勇者。利用できるかもしれない……
「魔術師どの、この先は行き止まりのようです。
ここを探索する必要はないのではなかろうかと……」
「そうですね。……と言っても、もう時間があまりありません。
次のループに備えましょう」
「……待ちな」
ベーゼンドルファーは、建成に声をかけた。




