表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/103

知らない宇宙と現実の海


地下牢。自分の房でベーゼンドルファ~が頭を抱えて横になっている。


 城のセキュリティを破壊する順序ならいくらでも頭に詰め込める。そのくらいの自信ならある。

しかし、『この城』を突破するために与えられてくる情報は、ほとんどが知らない宇宙の話である。


 行動を起こす前に、ベーゼンドルファーはこの地下牢で得た情報を整理していた。

……しかし、やれ『エレベーター』だ『コールセンター』だ、字面は覚えていてもそれが何なのか想像もつかないために、飲み込むのに難儀していたのだ。

とどのつまり、牢屋から出る事を日和っていた。


「随分暇そうだな」


 そこに、頭の後ろから自分に話しかける声がする。頭を整理しているときには鬱陶しい客人だ。


「……なんのようだい」


「できればとっくに城を攻略していて欲しかったんだがね」


「……そりゃ、悪かったよ」


 声の主は、闇商人 ディア・パソンだ。

悪党から煽られる事ほど不愉快なことはない。相手が自分より悪党なら尚更のことだ。

例えば自分の家族を人質に取るような……。


「どうやら難儀しているようだね」


「そうでもないさ。ただ……考えてたんだよ。

 知らない宇宙空間と現実の海とだったら、どっちが泳ぎやすいかね」


「少なくとも、それを考えることが君の仕事では無いはずだな」


 ベーゼンドルファーは、ため息をついて起き上がり、相手に向き合った。


「一体何のようだい。できれば昼寝を邪魔しないでほしいんだ」


「そうもいかないさ。……このまま私の不在が続けば、私のカルテルが危ないのでね。

 だから君の背中を押しにきたのさ。

 ……君の前にあるのが、宇宙空間だろうが海だろうがね」


「あんま期待されても困るぜ……」


「悪党に期待などしないさ。私たちは確かに商談を交わしたはずだ。進捗状況の確認くらいはしてもいいだろう」


 ディア・パソンは暗闇から火のついたタバコを一本取り出し、ベーゼンドルファーに差し出した。


「今日は私が奢ろう。昼寝を妨げてしまったお詫びだと思ってくれ」


 ベーゼンドルファーはタバコを受け取り、気だるく咥えた。


「で? 用事は昼寝の邪魔だけかい?」


「そうじゃないさ。……新しい情報を持ってきた」


 煙を吐きながら、ベーゼンドルファーは俯いてしまった。

『新しい、情報』ベーゼンドルファーが実は今一番聞きたくない言葉だった。


「聞きたくねえっつったら……?」


「意外な反応だね。喜んでくれると思ったんだが」


「……この城を吹っ飛ばす魔術の事だったら聞くよ。……嘘だよ聞かねえよ。

 知ってるなら自分でやってくれ」


「この短期間でだいぶ、この城の深刻さを飲み込んでくれたようだね。いい兆候だ」


 ディア・パソンは、自分の分のタバコにも火をつけて、煙を吐いた。


「まず一つ。これは新情報というより前に伝え忘れた事だ」


「この夢から覚める方法の事かい?」


「これが夢なら、現実の君はいよいよ海で溺れてるのだろうな。可哀想に」


「……茶化して悪かったよ」


「それは、制限時間についてだ」


「……制限時間? 何のことだ?」


「よかった。やはり知らなかったようだね。 まあ地下牢にこもっていたのでは分からないだろう」


 ベーゼンドルファーは肩をすくめた。


「この城は現在ね、数十分おきにタイムループを繰り返しているんだよ」


「タイムループ……なるほどな。最初この部屋に戻された時何の魔術だか分からなかったんだ。タイムループときたかい」


「『攻略班』の情報だと、『勇者』が王の間を出てからきっかり20分とのことだ」


 それを聞いて、ベーゼンドルファーの脳内で何かがつながった。

確か……『コールセンター』とやらに行ってタイムリセットがどうこう……という情報があったはずだ。

なるほど。つまり『タイムリセット』をしないと攻略できないのが前提ということだろう。

その情報をよこしたのは、確か目の前にいるディア・パソンだった。


 知らない宇宙が、少しだけ自分の懐に近づいてくる感覚があった。


「……どうかしたかね」


「いや……勇者?」


「異世界から転生してきた男のようだな」


「なるほど? つまり……ここの王もこの事態に手を焼いてて、それを勇者に解決させようとしてると。

 そして、その勇者とやらもここから出るのに難儀してると。そういうことだな」


「急に歯切れが良くなったな」


「目が覚めてきたよ。タバコが効いたのかな」


 ベーゼンドルファーは煙を吐いた。


「まあいい。もう一つだ。『水族館の鯨の模型は、騎士の扉を開けた先にある』」


 ……また宇宙が遠ざかった。ベーゼンドルファーは下を向いてしまった。


「『水族館』ってなんだ?」


「私が知ってるとでも?」


「いーや期待してなかった。親切にどうも」


「まだある。『正直村の門番にはおばあちゃんがいるから気にしてあげよう』」


「……それは情報なのか?」


「攻略班が苦労して集めた情報だよ。君が寝ている間にね」


 ベーゼンドルファーは項垂れていたが、『正直村の門番』の事なら、

こいつとは違うやつから聞いた。おばあちゃんがいることも。

『情報被り』が起きているということは、攻略班の情報とやらは信頼できそうだ。


「とにかく、やる気を出してそろそろ外に出る準備運動でもしたまえ」


 と、言い終わる頃にはディア・パソンは闇に溶けていなくなっていた。


「……気が向いたらね」


 ベーゼンドルファーはタバコを壁に押し当て、火を消した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ