ep9:日常業務
バルサス守護魔法師団の入団試験から一週間。
事前に合格通知を貰っていた僕は、入団式へと来ている。
ヒースさんも無事に合格していて、配属は僕と同じ第3部隊だった為、お互い喜び合った。
隊長は、”水属性魔法師マリー・ウィンスロー”
それ自体が最大の目的であり、その希望が叶った事でヒースさんの喜びは爆発していた。
もちろん、同類に見られないよう距離は置かせて頂いた。
式が終わり、気になる事があったので、マリーさんに尋ねてみる。
「クライヴさんの姿が見えませんでしたが、不合格という訳ではないですよね?」
「アッシュはクライヴ様の事をどれくらい知っている?」
「Aランク冒険者パーティでリーダーを務めている事くらいです」
「あの方は王都バルサスで生まれ育ち、誰よりもこの国の事を大切に思っておられるお一人だと思う。クライヴ様もノックス団長も、王都バルサスで何かが起ころうしているとおっしゃっていた。具体的にはまだ何もわからないけど、その時、王都を守るべき守護魔法師団が守護龍ノックスに頼るだけの集まりならば、自分が王都の盾になろうと考えたそうよ」
義父さんもクライヴさんも、王都で異変が起きている事を感じている……
「だけど、いい若者に出会えて安心された。まだ未熟なところもあるけど、王都の守りを任せられる存在だとおっしゃっていた。だから、クライヴ様は自分のやり方で国の為に動くと辞退されたの。あの方からの期待を背負ったのよアッシュ」
「僕も義父さんもその為に王都バルサスに来ました。期待に応えられるように頑張ります。ありがとうございました」
守護魔法師団の仕事は、一般的には地味と思われる仕事が大半である。
王都内外と街道の巡回警備、周辺環境の調査を守護騎士団と共同で担っている。
モンスターからの防衛といえばカッコ良く聞こえるかもしれないが、動きが活発化した現在でも、1日に一、二度現れるかどうかくらいである。
守護魔法師団独自のものとしては、王都の防衛に守護結界装置という魔導具が使用されており、こちらに定期的に魔力を提供する事が非常に大切な業務になる。
守護結界装置は、夜間の防衛や急な襲撃の備えに特に効果を発揮し、しっかりと魔力を蓄えられれば2、3日は結界を展開出来る。
非常に便利な代物だが、唯一の欠点は王都バルサスの規模だと守護結界装置の数が大量に必要であり、その維持管理に魔法師も多数必要なことだ。
モンスターの活動が活発化するまでは、魔法師不足の為に、使用する装置の数を減らして運用したようだ。
問題が起こらないうちはそれで済んでいたが、ある時期を境に王都内で建物の損傷や崩壊といった原因がわからない事故が起きはじめた。
住民の不安は高まり、防衛強化の要望は日に日に高まっていった。
その結果として、時間はかかったが守護魔法師団の再結成が決まり、現在に至っている。
ちなみに、業務外の残った時間はすべて訓練に当てられる。
見た目とは裏腹に、マリーさんの訓練は非常に熱心なご指導で、多くの団員から悲鳴が上がっている。
短期間ながらも、セクレト村で自警団に所属していたので、仕事の規模は大きく違っても内容はあまり変わりないので、僕にとってはごく普通なのだが、ヒースさんのような元冒険者の人にとっては、そうでもないようだ。
「刺激が足りんぞアッシュ……」
まだ守護魔法師団に入って一ヵ月が過ぎたところだが、最近のヒースさんはこんな事ばかり言っている。
「マリーさんに話しかけられた時は今でも喜んでいるじゃないですか」
「そんなの当たり前だ!だが、そうじゃない。この仕事が王都を守る為に必要な事は十分わかった。しかし、冒険者の時のような刺激が足りなさ過ぎる」
「それでも、モンスターの動きは活発ですし、やる事はたくさんありますよ。訓練も大変ですけど、僕は充実した日々です」
「訓練は本当に地獄だな……いや、そうじゃなくて、冒険者じゃ無かったアッシュにはわからないか…」
「へぇー、ヒースはそんなに守護魔法師団の仕事が退屈なのか」
「マ、マリー隊長!?いつからお聞きになっていましたか…?」
「心配する必要ない。仕事が物足りなくて、訓練が地獄というあたりだけだ」
マリーさんはにこやかな表情をしているが、聞かれたのはほぼすべてである。
「マリー隊長、違いますよ。訓練が充実しているとアッシュと話していたんですよ」
「そうゆう事なら、明日からの訓練も内容の濃いものにしていかないといけないな」
「……はい、精一杯頑張ります……」
ヒースさんは器用に、泣きながら喜んでいる。
「さて、冗談はこれくらいで良いだろう。ヒースの言う通り、警備業務や守護結界の管理ばかりでは物足りない気持ちは、私も元冒険者だったからわかる。二人も王都内での仕事には慣れて来ただろうし、3日後の周辺調査が第3部隊の担当になっている。それに2人にも同行して貰おうと思っている」
「うおぉぉ!マリー隊長に同行出来るんですか!楽しみにしています!」
「ははは……調査対象は王都東の洞窟周辺と内部になる。モンスターの個体数が増加している報告があるので、準備は怠るなよ」
「「はい!」」
「ただいま」
「おかえり、お兄ちゃん」
私生活でも一つ変化がある。
僕の守護魔法師団への入団を機に、フローラと二人で部屋を借りて住む事にした。
最初は義父さんとリナリアさんに反対されたけど、フローラもあと一年も経てば成人する。
兄妹がこれから独り立ちしていく為の準備期間にしたい事を話して納得して貰った。
隣家とはいかなかったけど、歩いて二、三分の近い距離で部屋を借りられたので、何かあればすぐにリナリアさんもおじいちゃん達も頼れるから安心だ。
それに週に一度は家族で食事する約束もした。
どれだけ付き合いが長くても、義父さんとリナリアさんは新婚だ。
家を出る理由に嘘は無いけど、二人の生活も送って欲しいという気持ちが僕達にもあった。
いつでも会える距離だからこそ、フローラの心配も少ない。
新しい距離感でこれからも家族として過ごしていきたい。




