ep10:雪月花
「やっほー!アッシュくん、今日はよろしくねっ」
「えっと…何でアイリスさんがいらっしゃるんですか…?」
何故か守護騎士団に所属しているアイリスさんが僕達の洞窟探索の待ち合わせ場所に居た。
以前お会いした時は守護騎士団の比較的重装備姿だったが、今日は動き易そうな軽装備である。
腰に2本のショートソードを携えているから、外出するのだろう。
「ふふっ、それはね、私も一緒に行きたかったか……」
最後まで言い切る前にマリーさんに杖で小突かれる。
「私から説明するよ。ノックス団長が今後の王都周辺調査の相談を守護騎士団長に伝えに行った時にアイリスが盗み聞きしていたみたいでね。自分も今日の調査に一緒に行きたい。行けなきゃみんなに守護騎士団長の秘密を話すと脅したみたいなの」
マリーさんは額に手を当て、困ったような仕草をしながら教えてくれる。
「そしたらね、快く許可して貰えたの」
「全然快くじゃないでしょ!ノックス団長が私達が以前パーティを組んでいた事をご存知で、守護騎士団に不都合が無いならばって交渉してくれたのよ!」
「ノックス様の優しさに救われましたぁ」
アイリスさんは元気よく敬礼している。
「お二人でパーティを組まれていたんですね」
「えぇ、もう一人入れた三人だけどね。あの子が遅れて来るはず無いんだけど……」
「リネちゃんみーつけた」
「わわっ、ごめんね。三人が楽しそうに話していたから、出て来づらくなっちゃって…」
「ちょっと男性との会話に慣れて無いけど、同じ隊だから顔は見た事あるでしょアッシュ?」
「風属性魔法師のリネアさんですよね」
リネアさんは濃いブラウンの髪を一つに纏めた眼鏡の似合う知的な女性だ。
マリーさんに紹介された通り、同じ隊に所属しているので知っていたが、一緒に仕事をする機会が無かったので、話すのも初めてだ。
「あ、はい…リネア・ハーネスです…アッシュさん、よろしくお願いします」
「リネアと行く事は決めてて、それもアイリスが一緒に行きたがった理由でね。ちょっと騒がしいと思うけど、よろしくね」
親友が居るからか、マリーさんがいつもより柔らかい印象を受ける。
やはり隊長を務めるのは、気を張る事も多いのだろうか。
少しでも自然体で過ごせる時間になれば良いと思う。
「すみません!楽しみ過ぎて寝坊しました!」
ヒースさんが遅れて到着する。
「ヒースさん、普通そうゆう時は早く目が覚めるんですよ」
「そうなのか!?」
「さあ、全員集まったから出発しよう」
ヒースさんが遅れた事など気にせず、マリーさんが声をかけて出発した。
「マリー隊長は何かあったのか?てっきり怒られると思ったのに?」
「さあ?何故でしょうね」
「って言うか、どう言う事だアッシュ!?今日の可愛い女性3人組は、どう考えても元冒険者パーティ”雪月花”じゃないか!まさかご一緒出来る日が来るなんて俺は……俺は……」
リネアさんが少し震えているのが見える。
「ヒースさん、少し静かにしましょうね」
強めの口調だが、にこやかに語りかける。
「そ、そうだな……」
どうやら伝わったようで良かった。
「マリちゃん、あの人はにぎやか担当で入れたの?」
「いや、それだけでは無いんだけど…まあ、大丈夫だと思う…」
「マリーさん、今日はどういった行程ですか?」
「生態系調査もかねて東の森を真っ直ぐ抜けて東の洞窟を目指すよ。モンスターと遭遇すると思うから、各自注意して進もう」
「わかりました」
東の森を抜けた先の洞窟を目指して王都を発った。
木々の生い茂る森の中は、王都の喧騒を忘れさせ、セクレト村に居た時のような穏やかな時間の流れを感じさせてくれる。
まだ王都に来て一月ちょっとなのに懐かしさを感じてしまう。
だが、小鳥のさえずりが聞こえる緩やかな時間は長くは続かない。
僕がモンスターの存在に気付いた時には、他の仲間達も戦闘態勢入っている。
さすが冒険者として活動して来た人達なので、危機管理がしっかりしている。
前方から現れたのは、エビルモンキーという猿類のモンスターだ。
長い手足を巧みに使って森の中を縦横に動き回る。
それほど強いモンスターではないが、ここのような森で木の上から物を投げつけられると少し厄介だ。
魔法でまずは木から落とす事を考えていたが、アイリスさんが軽やかに木の上に跳躍し、二体を切り落とす。
残った一体も、リネアさんの風刃生成魔法によって倒される。
「目的地は洞窟だ。時間を掛けずに進もう」
マリーさんは何事でもないようにそう言ったが、僕は鮮やかな戦いに感嘆してしまう。
その後もイノシシ類モンスターのワイルドボアや虫系モンスターで毒攻撃をしてくるポイズンビーなどと遭遇したが、アイリスさんとリネアさんの二人でほぼ片付けてしまう。
「二人ともすごいですね。特にアイリスさんは守護騎士団の重装備じゃなくて、こちらの戦闘スタイルが本来ですか?」
森を進む中で、自然と前衛にアイリスさんとヒースさん、中衛にリネアさん、後衛に僕とマリーさんという並びになっていたので、隣を歩くマリーさんに尋ねる。
「そうよ。アイリスはああみえて鍛錬を怠らないの。自分のせいで誰かを傷付けたくなくて、守護騎士団の重装備も修行の一環なんて言って、学べるものは吸収しようとしてる。頑張り過ぎなのよ……そんなアイリスが無茶し過ぎないようにリネアほど周りのサポートを上手く出来る子は居ないわ」
これが今まで一緒にパーティを組んで来た信頼関係なんだろう。
僕の出る幕が無さ過ぎるが、至って順調なので良しとしよう。
「実は今回の調査は懸念されている事柄があって、ノックス団長から直々に頼まれて来てるの。アッシュは何も聞いてない?」
「特に何も言われなかったですね。元冒険者の方達から色々学んで来なさいと言われたくらいです」
「何も聞かされてないなんて、余程信頼されてるのね」
マリーさんに少し笑いながら言われる。
「先入観を持ち過ぎるなとは口酸っぱく言われていますけど、そのせいですかね」
「きっと貴方の感性を信頼してるのよ」
そんな風に考えた事は無かったけど、マリーさんに言われるとそうなのかもしれないと思えてくる。
「本番は洞窟に着いてからよ。モンスターの個体数が増えている事は間違いないから、気を引き締めていきましょ」
森を抜けた先は丘陵地帯が広がっていた。




