ep11:洞窟探索
丘陵地帯の一角に割と大きい穴が空いているのが見える。
あれが東の洞窟と呼ばれる場所の入口だろう。
見える範囲でも5、6体のゴブリンの群れが二つと、コボルトと呼ばれる犬のような見た目をした二足歩行のモンスターの群れも一つ確認出来た。
とはいえ、到底モンスターが大量発生しているという規模ではない。
「地上のモンスターはどうしますか?見つからずに洞窟に辿り着く事も出来そうですけど?」
「洞窟周辺での異常は今のところ見当たらない。内部の探索を優先しよう。視認出来るのは仲間を呼ばれたら面倒な奴らだ。地上のモンスターは無視して良いだろう」
モンスター達の注意がこちらに向いていないタイミングを見計らって洞窟内へと入って行く。
洞窟と呼ばれる場所に立ち入るのは人生で二度目だ。
初めては義父さんと二人で、どういった注意が必要なのかを実体験しながら教えて貰った。
言葉で聞いたり、書物で読むだけでは得られない経験が出来た事は忘れられない。
唯一残念だったのは、洞窟内に宝箱が存在しないと知ったこと。
あれはある例外を除いて御伽話の中だけで、現実でお宝になるのは様々な鉱石である。
詳しい理由はわからないが、洞窟内は魔力が溜まりやすい環境になっているからか、魔鉱石と呼ばれる様々な魔導具に使用される鉱石が発掘され易い。
ある程度の目利きは必要だが、他にも鉄鉱石や銀鉱石といった用途の多い物も見つかる。
どれも簡単に見つかる訳ではないが、洞窟探索の楽しみの一つである。
話が逸れてしまったが、特に注意が必要なのが、視界の確保と空間の把握だ。
道具で松明を使う手もあるが、片手を塞がれてしまう為、魔法師であれば灯火という魔法で周囲を照らすか魔導具で解決する方が一般的だ。
空間については経験が大事になってくる。
進む先と帰り道の把握は元より、狭い場所でモンスターと遭遇すれば武器を振るう事すら困難な状況もある。
先を見越した判断力が必要とされる。
前衛に立つアイリスさんとヒースさんは優秀だった。
モンスターとの遭遇地点を定め、誘い出したり、移動ペースを上げて広い場所で接敵している。
モンスターとの戦闘においても二人の動きに無駄は無いが、戦闘面の動きを支えているのはリネアさんだった。
風属性魔法を使って、二人が一対多数での戦いになり過ぎないように調整している。
攻撃魔法で直接敵を減らす動きもあれば、敵の一部の動きを鈍らせる事で攻撃のタイミングをズラしている。
そのおかげで二人の動きが乱れる事なく、次々とモンスターは倒されていく。
僕の補助が必要になる場面は無かったけど、単体のモンスターを請け負った。
マリーさんも後衛から攻撃魔法を放って敵を倒している。
パーティとして順調過ぎたから、僕は気付くのが遅かったのかもしれない。
洞窟内を4層まで進んでいるところで疑問を感じて尋ねてみた。
「洞窟ってここまでモンスターが多く出現するものなんですか?地上より遭遇する事はわかっていましたが、あまりにも多い気がするのですが…?」
「アッシュの言う通り、明らかに数は多い。なあ、アイリス?」
「そうだね。これくらいモンスターが大量にいる事は時々あるんだけど、この洞窟はそれがずっと続いてる」
「あくまで公表されている資料の範囲ですが…」
リネアさんも状況を説明してくれる。
「過密階層と言われる、今の私達のようなモンスターの大量発生が続く状況は過去にも報告があります。その最大数は4階層です」
まさに今の僕たちと同じ数だった。
「リネア、その報告をあげたパーティは原因を特定出来たかわかる?それと、4つの過密階層を過ぎた後の事がわかれば知りたい」
マリーさんが気になった事を聞いてくれる。
「ここよりも強力な個体のモンスターが居る洞窟だった事もあって、パーティはそこで退却を決断。原因もわかってないみたいだよ。ただ、その後調査隊が派遣されたけど、結局異常は見当たらなかったと書かれていた」
モンスターの増加が自然によるものなのか、それとも何者かの手によるのか、今すぐ解決は出来なくても原因に近付く事が出来れば対策出来る事もあるかもしれない。
そんな風に考えながら次の階層へと足を踏み入れた。
これまでと違い、階を降りてすぐモンスターに襲われるような事は無かったけど、どこか薄気味悪い雰囲気を漂わせ、奥から多くの気配を感じる。
「マリー隊長、此処はさすがに……」
一番最近まで冒険者だったヒースさんも危険を感じ取り、撤退の可能性を示唆する。
マリーさんもこの状況は理解しているが、残念ながら僕達は冒険者パーティではない。
冒険者であれば、自分たちのリスク管理を優先出来る事こそが優秀な証とも言えるが、守護魔法師団は王都に暮らす人々や街を守る事が目的だ。
ここで退けば後々大きな代償を払う可能性もあり得る。
「このまま戻っても成果は乏しい。先へ進もう。アッシュは退路の確保を。危険を感じれば自身の安全を優先して先に撤退して構わない。予想以上の敵が現れた場合は私が足止めする。その時はみんなも洞窟からの脱出を最優先に動いてくれ」
アイリスさんとリネアさんは頷くが、ヒースさんと僕は返事をしない。
「マリー隊長…例え実力に差があったとしても、俺は女性に守られながら逃げ帰る為に守護魔法師団に入った訳じゃありません!必ず仲間を守ります」
「僕も退路の確保はしますが、脱出する時は全員でしましょう」
「そうだね」
「そうですね」
アイリスさんとリネアさんも同意してくれる。
「みんな揃って……それじゃあ手に負えないものが現れない事を期待して進むわよ」
マリーさんの返事を聞いて、僕はヒースさんと目が合った。
おそらく同じ思いで、お互い笑みを浮かべた。
少し進んだ先に大きめの空間が広がっているようだ。
何故だろうか。
それは勘が働いたのだろうか、僕は嫌な風を感じて前に走り出していた。
走りながら両手に魔力を込め、盾生成魔法を前方に二つ創り出すが、それは次の瞬間に破壊されていた。
「あぶなー」
「助かったぞアッシュ」
アイリスさんとヒースさん、二人の前衛の声を聞いて間に合った事に安堵する。
二人共、戦闘態勢で対応出来ていたとはいえ、僕の魔法で守れるならその方が良い。
前方には攻撃して来た鎌と槍斧をそれぞれ持った二体のガーゴイルが飛んでいる。




