ep12:未熟
ガーゴイルとは、石像に魔鉱石などを用いて作り出された核を埋め込まれ、何者かによって創り出された生命体だ。
命令に忠実であり、その能力も創造主の力に影響され、強力な個体も存在する。
物語には度々出て来ても、実物と対峙するとは思わなかったけど。
アイリスさんとヒースさんが前衛で二体を引き付け、後衛からマリーさんが魔法攻撃を繰り出す。
僕とリネアさんが防御と補助に回るが、ガーゴイル達は飛行能力を使って攻撃と離脱を繰り返す戦い方で致命打を避けている。
「くそっ、石の化物にしては知能が高過ぎないか。少しでも不利になると飛んで間合いをあけやがる」
「えぇ、しかも二体が連携した動きでね」
前衛の二人はガーゴイルとも渡り合えているのだが、連携面で相手が上回っている。
その上での飛行能力はかなり厄介だ。
後方から攻撃魔法で援護しても、ガーゴイルが素早く動き回るせいで決め手にならない。
「マリーさん、3人でガーゴイル一体を相手にしたらどれくらい時間がいりますか?」
「…三分あれば片付けるわ」
すぐに察して貰えて助かる。
「次のチャンスでいきます」
地面に手を付き魔力を込める。
「ヒース、少しの間だけ頑張りなさい」
「アイリスちゃん左に避けて」
リネアさんが風魔法で上手く誘導してくれたおかげで、上手くガーゴイルの距離を開ける事が出来た。
「土壁生成魔法!!」
二体のガーゴイルを分けるように巨大な石壁が立ち塞がる——
「急で驚いたが、俺はコイツを倒せば良いんだなアッシュ」
僕とヒースさんの前には斧槍を持ったガーゴイルが飛んでいる。
「リネアさんの補助が無い分、相手の速度が上がると思います。とりあえず時間を稼ぎましょう」
「一体だけなら何とかしたいがなっ」
ヒースさんは炎を纏わせた剣で斬りかかるが、かわされる。
「仲間の様子を気にする素振りを見せるとは少しは可愛げがあるじゃないか」
続けて連撃を繰り出す。
剣は槍斧で受け止められるが、相手の速さを殺す上手い立ち回りで、距離を取らないように戦っている。
一対一で集中出来るからか、ヒースさんの動きは先程より確実に良くなっていった————
マリーの前には数ヶ月前まで一緒に冒険者パーティを組んでいたアイリスとリネアが居る。
対峙しているのは鎌を持ったガーゴイル一体。
アッシュが王都に来た日の戦いを見ていたおかげで察する事が出来たけど、やっぱり初めて組む相手だとそれぞれ連携を取るのは難しいと改めて思う。
でも、この状況で負ける理由は無い。
「素早く倒して向こうを助けに行きたい。何とか奴を地上に落とせる?」
そう伝えて杖に魔力を込める。
「リネちゃん、久々にあれお願い出来る?」
「任せて」
アイリスは魔法を使わない。
魔力が少なくて初歩的な魔法も上手く扱えなかったから、一切諦めたと言っていた。
そんなアイリスが冒険者時代に思い直したように練習した魔法がある。
”浮遊魔法”
リネアが魔法で空を飛ぶのを見て、浮き上がるだけでも出来るようになりたいと何度も挑戦していた。
結果は残念ながらほんの十センチも浮く事は出来なかったけど……
自分の魔法で飛ぶ事を諦めたアイリスはリネアにお願いしていたけど、風属性魔法に長けたリネアでさえも、自分以外の人間を浮かせる事は難しかった。
繰り返し練習を続けた二人が辿り着いた魔法。
”空気圧縮魔法”
今のリネアが使っている補助魔法の基本になっている魔法だ。
空気の塊を創り出し、目で見る事は困難なのに確実にそこに存在している。
アイリスは上に向かって跳躍する。
飛んだ先の足元には、リネアが創り出した空気の塊が足場として存在し、再び跳躍。
アイリスは一歩、二歩、三歩と宙へと駈け上がり、最後の跳躍で空を飛んでいたガーゴイルに到達する。
自分の高さまで急に来ると思っていなかったのだろう。
不意を突かれたガーゴイルは逃げる間もなく、アイリスによって翼を斬り落とされた。
「マリちゃん、お願い!」
手に持つ杖のまわりに生成された水は、槍を模した氷へと姿を変えている。
相手の硬さがわからない以上、確実に消滅させて早くアッシュとヒースを助けに行きたい。
”氷槍神器写身降臨”
「解放」
解き放たれた氷槍は一直線に地上へと落ちたガーゴイルへと向かって行き、貫き消し去った。
「マリちゃん、ちょっと威力が強過ぎたんじゃない?核も何もかも綺麗さっぱり消し飛んじゃったよー」
ガーゴイルは目撃数が少ない個体なので、核の一部を持ち帰るだけでも研究資料として価値があるのだが……
「やり過ぎちゃったかも……」
「あはっ、マリちゃんでもそんな事あるんだね」
早く助けに行きたいと急いだからか、久々の心知ったるパーティで安心したのか、隊員が増えた忙しさに追われていた事からの解放感からか、自分で想像した以上の魔力が込められていた。
ただ…全力で放つ魔法は気持ち良かった。
「二人とも、アッシュさんとヒースさんの加勢に行くよ」
リネアに言われてハッとして、我に帰る。
「アッシュ!こっちは終わったわ」
——————
マリーさんの声を聞いて、空間を二つに分けていた土壁生成魔法を解除しながらヒースさんに声をかける。
「マリーさん達は終わったみたいです。ヒースさん、あと少しです」
状況を伝えながら考えていた。
こちらの戦闘は動きのキレが良くなったヒースさんが一人で担っていた。
土壁生成魔法を維持していたから介入出来なかった訳ではない。
単純に戦いに入り込む隙を見つけられ無かったんだ。
自分が戦う際に創り出す盾、仲間を守る為だけの盾であれば創れる。
でも、ヒースさんの戦いを邪魔せずに守る盾は創れなかった。
迂闊な対処をすれば、逆に仲間を不利な状況にしてしまう。
まだまだ僕には足りないものだらけだ。
「あの化物逃げやがって」
ガーゴイルの片腕らしき物を持ってヒースさんがこちらに戻ってくる。
「それは?」
「なんだ見てなかったのか?あの野郎、仲間がやられたのを見て逃げていきやがったんだ。それを追いかけて一撃入れたんだが、腕で防いで逃げられちまった」
「すみませんでした。全然お力になれず…」
「何言ってるんだアッシュ。剣を槍斧で絡め取られてバランスを崩した時、お前が盾で守ってくれなかったらすこーしだけ危なかった。十分助かったさ」
「…役に立てていれば良かったです」
「ああ、これからも頼むぞ」
「アッシュ、ヒース、大丈夫?」
「マリー隊長すみません!そっちのガーゴイルがやられたのを察したらすぐに逃げに転じて、腕一本は落としたんですが逃げられました」
「十分な収穫だよ。無事で良かった」
「ありがとうございます!逃げた奴を追いかけますか?」
「いや、逃げたガーゴイルが仲間を引き連れて来る可能性がある。一旦地上に戻りましょう」
「俺が取り逃したせいですみません」
「そんな事はない。あのレベルのモンスターが複数居る可能性を考えたら、私達は準備不足だよ。この情報を王都に持ち帰る事を優先しよう。すぐに動くよ」
「「はい!」」




