ep13:記憶にあるもの
「今回の調査報告は以上になります」
「ありがとうマリー隊長。ところで…ここからは個人的な質問になるのだが、今回の調査でアッシュはどうだった?」
「ふふっ、アッシュに何も伝えず送り出すくらい実力を評価しながらも心配なんですね」
「親バカ過ぎるかな?だが、あの子には色々考えて実践し、経験として積み重ねていって欲しいんだ。もちろん成功も失敗もね。 それがあの子の目標に近付く一番の近道だからね」
「ロック・ローランドですか?」
「あぁ、アッシュの小さい頃からの目標でね」
「何故それ程までに?身近な方ならノックス団長もいらっしゃったのに」
「それは……いや、今私の口から言うのはやめておこう。あの子が自分から話すことがあった時は聞いてやってくれ」
「…わかりました。それでアッシュですが、個人の力は非常に高いです。並のモンスター複数体程度であれば一人で難なく相手が出来ると思います。それに状況分析能力もあります。一方、連携面ではその力を活かしきれていないというか、戸惑いがあるようにも感じました。パーティ活動の経験が少ないのですか?」
「僕以外の誰かと組んだ実戦は初めてだからね」
「はじっ…えっ?初めてのパーティ活動だったんですか?」
「言って無かったかい?洞窟探索も俺と一度潜った事があるくらいだよ。あの子は自分で魔法の勉強や練習はするけど、僕との稽古以外はあまり実戦的な経験が多くなくてね。自警団で保全業務は学んだが、実戦経験はまだまだだ」
「全く聞いていません!そうであるならば評価も変わりますよ…」
「はっはっは、厳しいくらいで丁度良い。アッシュもその方が喜んでいるよ」
「はぁ…そちらのガーゴイルの腕は私が研究局に持っていきましょうか?」
「いや、これは僕も少し気になる事があってね。こちらで預かってまた何か分かれば伝えるよ」
「わかりました。では、これで失礼します」
「マリー隊長、この後は今日の調査パーティでご飯に行くんだろ?」
「はい、その予定ですが?」
お金の入った小袋をマリー隊長に手渡す。
「成果に対する僕からの報酬だ。美味しい物を食べてゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
やはり彼女に任せて良かった。
持ち帰ってくれたガーゴイルの情報は重要だ。
少なくとも、これで自然発生した現象では無い事が確定した。
元々あった石像などに後から核を埋め込む事でガーゴイルを生み出す事はあっても、自然現象でガーゴイルが生まれる事はあり得ない。
何者かが関与している。
再びガーゴイルの腕を手に取る。
その腕に彫られていた模様には見覚えがあった。
”コンコン”
「失礼するよ」
「丁度伺おうと思っていたよカイン」
王都バルサス守護魔法師団副団長カイン。
黒髪に眼鏡をかけた柔和な顔付きのその人は、ノックスが守護魔法師団団長になったキッカケの人物と言っても良いだろう。
「洞窟調査の件はどうだった?」
「ああ、カインが集めた情報通り、洞窟内で大量のモンスターと遭遇したみたいだ。そしてもう一つ」
ガーゴイルの腕をカインに差し出す。
「これはまさか!ガーゴイルが居たのか?」
「二体に襲われて、一体はその場で倒したが、もう一体には逃げられたようだ。個体としての能力が高かった為、深追いせず情報を持ち帰ってくれた」
「いや、一次調査としては十分過ぎる成果じゃないか!」
「これで何者かが暗躍している事は確定だろう。後は目的と規模。何とかもう少し情報を掴みたいな」
「再調査の段取りを進めよう。問題はマリー隊長が早期に撤退を決める程のモンスターか…生半可な戦力では派遣出来ないな」
「守護騎士団や冒険者ギルドには話をしてみるよ。どうするにせよ、彼らの力を借りなければならない」
「わかった。こちらは資金面で協力して貰えないか王宮に掛け合ってみる」
「任せるよカイン。今の時点で地上への影響は特別見られないのがまだ救いだ」
「時間の余裕がなくても焦る訳にはいかないからな。ところで、息子のアッシュくんはどうだったんだ?調査に連れて行かせたんだろう?」
「はは、まだまだ未熟さ。マリー隊長をはじめ、良い仲間達のおかげで成長の機会を与えて貰っている」
「彼も期待の新人の一人だ。これからの成長に期待しよう。では、私は戻るよ。何か進展があったら教えてくれノックス」
「ああ、そちらも頼んだ」
カインはガーゴイルの腕の模様に気付かなかった。
旧バルサス守護魔法師団からの旧友であるカインが気にしないという事は、俺の思い過ごしなら良いんだが……
その夜、ノックスはガーゴイルの腕を持って王都東の森に訪れていた。
違うならばそれで構わないが、念のために確認だけはしておこう。




