ep6:実技試験
守護魔法師団の入団試験は面接と実技試験の二つになっている。
面接では、これまでの実戦経験や適性魔法、得意魔法に志望動機など、様々な事を聞かれたが、想定された内容ばかりであった。
実戦経験と呼べるものが、1年に満たないセクレト村の自警団だけの僕には、この後の実技試験がより重要になるだろう。
「これより、地下訓練場にて実技試験を始める。従来は守護魔法師団に所属する者が手合わせしていたんだが、大変嬉しい事に入団希望者が多い為、本日は受験者同士の模擬戦とさせて頂く」
さきほどヒースさんが自ら教えてくれた炎属性の魔剣士という情報以外、元々誰の情報も知らないので変更点はあまり関係なさそうだ。
「対戦相手は面接で得た情報を元にこちらで決めさせて貰ったが、想定外の実力差があった場合は再度チャンスを設けるので、安心して模擬戦に望んで欲しい。そして最後に、あくまで実力を見るための模擬戦という事を忘れずに戦って貰いたいが、万が一の際は試験官が力づくで止めさせて貰う事を伝えておく。以上だ」
地下訓練場に降りると、小型の守護結界装置で周りに防壁が張られており、大抵の魔法などは防げるようになっていた。
正面に進んだ先の掲示板前で、またざわめきが起きている。
おそらく対戦表だろうか。
「おい、クライヴ・ターナーって本人か?」
「さすがに違うだろ。Aランク冒険者を辞めて守護魔法師団に入る理由がない」
「そもそもクライヴさんって剣士じゃないのか?魔法を使うなんて聞いた事ないぞ?」
「じゃあ、ただの同名か?」
何やら噂になっている人がいる。
そして、僕の名前の横にその名が書かれているので、模擬戦の相手なのだろう。
見覚えのある赤茶色の短髪が見えたので、近付いてヒースさんに聞いてみた。
「ヒースさん、クライヴさんって、そんなにすごい方なんですか?」
「アッシュ!またとんでもない人がお前の相手だな。すごいも何も、Aランク冒険者パーティでリーダーをやってる人だ。俺もちゃんと顔を見たことは無いが、本人なら凄腕の剣士って話だ」
「本人で間違いない」
そう言うと、義父さんと同じくらい大柄な男性が横に立った。
「君がアッシュか?まだ子供だな」
近くに居るだけで威圧感を相手に与えるだけの迫力がある。
「はい、そうです。もうすぐ16歳になりますよ。模擬戦よろしくお願いします」
そして右手を差し出した。
「名前だけで臆するような相手でなくて良かった。楽しみにしているぞアッシュ」
握り返された手からは、より力強さを感じる。
「アッシュ…間違いなく本人だ。再度チャンスはあると試験官は言っていた。無理はするなよ」
「ありがとうございます。知っている限りで良いので、クライヴさんがどんな方かもう少し教えて貰えますか?」
「——————」
相手の名前や肩書きは気にしないけど、戦い方の方向性が予想出来たのは助かった。
聞いた限りだと、クライヴさんの使う魔法は知られていないが、剣士として実力を認められた人だということ。
守護魔法師団の試験である以上、魔剣士と考えるのが妥当だろう。
もう一つの可能性として…それぞれの武器を極めていった先に練氣と呼ばれる技術が存在する。
魔法は、火、水、風、土の四大属性とされているが、一部の学者は練氣を第五の属性、無属性などと提言している。
それが認められた事は無いが、バルサス守護魔法師団がどう判断するかはわからないし、実見した事がないので注意は必要だと思う。
この対戦相手の選定には、何か別の意図もあるように感じるが、決まっている以上は仕方ない。
考えられる戦略を練って模擬戦に望んだが、対峙したクライヴさんが手に持っていたのは、その身長に近いほどの大剣だった。
レイピアを持つ手に汗が滲む。
「アッシュ、しっかり受け止めろよ」
クライヴさんは言い終えると、手に持つ大剣を振り被り、こちらに突進してくる。
見た目と武器からは想像出来ない俊敏な動きで間合いを詰められたが、振り下ろしに合わせて盾生成魔法を創り出す。
相手の初撃を防ぎ切って、反撃の魔法を考えていたが、創り出した盾生成魔法はいとも簡単に破壊される。
「盾生成魔法!!」
間一髪、魔力を上げた二つ目の盾生成魔法を創り出し、今度こそ斬撃を受け止めた。
「模擬戦だと言われたはずですが?」
焦りを悟られないよう、出来るだけ冷静に問いかける。
「君なら防ぎ切ると思ってね。守護龍ノックスの息子アッシュ。その片手レイピアはもう一人の守護龍ロックを模したスタイルだ。つまり、土属性使いに間違いないだろう」
「王都ではまだそれほど知られていないはずなんですが、すごい情報収集能力ですね。片手レイピアがハッタリだったらどうするんですか」
「その道に長けた優秀な仲間がいるのでな。実力がたいした事なければ寸止めして拘束していたさ」
それだけの腕を持っているという事か。
「おしゃべりはここまでだ。しっかり守らねばすぐに勝負が着くぞアッシュ」
「くっ……」
繰り返されるクライヴさんの斬撃を盾生成魔法で防いでいく。
見た目に囚われなければ、予想以上の速さには対応出来ている。
しかし、斬撃の威力を見誤る。
義父さんとの稽古で、何度も剣を受け止めて来たのに、想定を超えた威力がある為、魔力量を上げた盾生成魔法を創り続けなければならない。
又、時々だが斬撃の軌道がブレている気がする。
理由はまだわからないが、まるで盾生成魔法を躱すように感じる攻撃の数々に反撃の糸口を見つけられない。
相手の攻撃に違和感があるせいで、盾生成魔法に込める魔力を常に多くしなければならない。
ただ、見た事は無いがこれが練氣とは思えないし、クライヴさんの攻撃もAランク冒険者としては決定打が欠けているように感じる。
普段とは違う戦い方をしている…?
斬撃の違和感ばかりが気になっていたけど、そもそもクライヴさんの動き自体におかしさを感じていたんだった。
もし、それもすべて魔法によるものだとしたら————




