ep5:守護魔法師団
守護魔法師団の駐屯地には義父さんだけが挨拶で寄り、王都の新しい家に荷物を降ろして隣家に移動した。
隣家は王都バルサスに暮らしている義父さんの両親、つまり、おじいちゃん、おばあちゃんが住んでいる家だ。
おじいちゃんが空き家になっていた隣家に住めるよう、事前に手続きをしてくれたおかげで助かったと聞いている。
「ノックス、よく帰って来た。リナリアちゃんも綺麗になって!ノックスが迷惑掛けてないかい?」
「ご無沙汰しています。おじ様、おば様…いえ、お父様、お母様。私の方が良くして頂いています」
「知らない顔じゃ無いんだ。そんなに改まる必要はないよ。今日はゆっくりしていきなさい」
「ありがとうございます。お世話になります」
「アッシュくんとフローラちゃんも久しぶりね。自分の家だと思ってゆっくりしていってね」
「おばあちゃん、ありがとう!」
フローラが元気良く笑顔で挨拶し、お土産を手渡している。
正直、僕はおじいちゃん、おばあちゃんと呼ぶことすら抵抗を感じている。
スルードの災厄の後、二、三度顔を合わせただけの血の繋がりも無い孫……
フローラの話を楽しそうに聞くおばあちゃんを見て、考え過ぎなのは自分だけなのだろうかと思いながら、屈託なく笑うフローラを羨ましく思った。
義父さんとリナリアさんの結婚祝いも兼ねてという事で、すごい量のご馳走が用意されている。
「今日は色々なお祝いだ。みんな遠慮せず食べていってくれ」
食事が進み、気になっていた事を義父さんに聞いてみる。
「そういえば、守護騎士団の人に義父さんが守護魔法師団の団長になるって言われていたけど、そうなの?」
「いや…俺もそこまでは何も聞いていないんだ。ただ、王都に着いたら、国王が謁見したいとおっしゃっているようで、早速明日時間を頂いている」
「なんだノックス、承知してなかったのか?王都内じゃお前が守護魔法師団の団長に着任するって広まっているぞ?」
「そうなの?」
「これは王宮かカインに上手く利用されてるな。お前達も守護魔法師団が再結成された経緯は知ってるな?」
「確かモンスターの動きが活発になっていて人が足りないって」
「その通りだ。だが、思うように人が集まっていなかった。そこで、ロックと並んでバルサスの守護双龍なんて呼ばれていたノックスを表に出す事を思い着いたんだろう。アッシュとフローラちゃんは覚えてないかもしれないけど、あの時は童話になったりして子供達に人気だったからな」
「お義父さん、そんなに人気だったんだ」
と、フローラは素直に驚いている。
「だが、そうした事も覚悟の上だろうノックス?」
「ああ、相談くらいはして欲しかったけど、必要な事ならば仕方ない」
「ハッハッハ、実際、若い連中の入団希望が増えているらしいから良かったじゃないか。自分の復帰直後から、カインはノックスの事を強く推薦していたらしい。望んだ結果になっているなら礼はしておけよ」
「ああ、わかってる」
義父さんが納得しているなら仕方ないと思いつつも、都合良く利用されているという事には不満を感じてしまった。
義父さんは国王との謁見後、正式に新生王都バルサス守護魔法師団団長に就任する事になった。
そして僕はというと、今日が守護魔法師団の入団試験日だ。
王都バルサスは、守護魔法師団を再結成した事で魔法師と騎士による組織が2つづつ、合計4つの組織によって防衛されている。
貴族をはじめとした身分の高い者達で組織されている宮廷魔法師と近衛騎士団。
彼らは王都の中でも中心に位置する王宮と周辺の貴族街の防衛や有事の際の他国への派遣等、外交に関わる活動にも従事する。
業務の性質上、身元の保証される一定以上の身分の者でなければ入る事を許されない。
貴族の次男以降が所属するケースもあるので、なかなか難しい世界のようだが、個々の実力は折り紙付きだ。
この2つは合わせて近衛隊とも呼ばれる。
一方、僕がこれから受ける守護魔法師団、そして守護騎士団は王都全体と周辺街道の防衛を目的とした組織である。
こちらは最低限の身元確認はされるが、実力と動機によって採用されている。
担う役割の違いはあるが、互いに交流も多く共同で任務を遂行する場面も少なくない。
所属しているのは、元冒険者が家庭を持ったり、生活の安定を求めて入っているケースが大半で、割と年齢層が高いと聞いていたけど……義父さんの影響かはわからないが、守護魔法師団の試験会場には僕と同年代の人も多く感じる。
ちなみに、こちらは合わせて守護隊と呼ばれている。
試験会場で待っていると、周りでざわめきが起きるのを感じる。
次第に僕の方にも視線が向いているのを感じて後ろを振り向くと、そこにはマリーさんが立っていた。
「やあ、アッシュ。また会ったね。君ならきっと来ると思っていたよ」
こちらの目を見ながら微かに微笑む仕草に、思わず見惚れてしまうが、周りの視線を強く感じる。
「今日はよろしくお願いします。マリーさんは試験官ですか?」
「ああ、その通りだ。ノックス団長の影響か、入団希望者が多くなっていてとても嬉しい。アッシュも頑張ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
マリーさんは軽く手を振ると、奥の部屋へと入って行った。
「おいおい、お前マリー隊長と知り合いなのか?」
声を掛けられて振り返ると、しっかり鍛えられた体つきの赤茶色の髪をした男性が立っていた。
「俺はヒースだ。随分若いな?」
「アッシュです。年齢は15歳です」
「15!?成人したばかりしゃないか。ここの守護魔法師団は本当に若い奴らが多いな」
「マリーさんが言っていたように、ノックス団長の影響でしょうか?」
「それは大きいな。俺達くらいの世代は小さい頃に守護双龍の物語に夢中になって育っている。その一人が帰って来ると聞いて気にならない奴の方が少ない」
僕の知らない義父さんの影響力に驚きつつ、それを利用した人の思惑通りにもなっているのか。
「ヒースさんもそうなんですか?」
「同じ炎属性の魔剣士だからノックス団長への憧れはあるが、俺はマリー隊長目当てだ!あれほど綺麗な人が守護魔法師団に所属したと知って、冒険者にはすぐ見切りを付けた!」
「はは…そうですか…」
さっきの視線を考えると、同じような人は他に何人もいる気がする。
マリーさんが隊長を務めているとは思わなかったが、それだけの実力を持っているという事だ。
「そういえば、アッシュは何でマリー隊長と面識があるんだ?」
「先日、王都に来たんですが、門前でモンスターの群れと遭遇して、その時に出会いました」
「そうか、王都に来て早々マリー隊長に助けて貰えて、名前まで覚えて貰えるなんて運のいい奴だな」
少し違うが、訂正する程じゃない。
「ヒース・ビアーズさん、一番右の部屋に入って下さい」
「名前を呼ばれたみたいだ、またなアッシュ。お互い受かろうな」
「はい、ありがとうございます」




