ep2:書簡
スルードの災厄の戦犯とされたロック・ローランドと守護魔法師団は多くの人々から非難された。
僕に言わせれば、全く馬鹿げた話である。
命までかけて国や住民の為に戦い、その元凶を討ったというのに、そのような扱いを受けた意味がわからなかった。
だけどそれは、事の顛末を知っているから言えることなのだろうか……
スルードが襲撃したのは、アーガルト王国の王都バルサスだけでは無かった。
かつて、ロック達仲間を率いて魔王討伐を果たした勇者アーウィン。
彼が魔王討伐の褒賞として建国した国があった。
国の名はノースレイ。
北方に位置する小さな港町だったノースレイに戻ったアーウィンは、故郷の発展に心血を注いだ。
勇者アーウィンを慕って協力した者達、魔王を討伐した力に守られる安心を求めて世界中から集まった者達。
多くの人達が集う事で、ノースレイは急速な発展を遂げ、世界に存在する5人の国王達からも6カ国目の国と認められるだけの規模にまで成長していた。
そんな矢先にスルードが大量のモンスターを率いてノースレイに現れたのだ。
これも今から9年前の出来事である。
詳しい戦いの記録は残っていない。
文字通りノースレイは壊滅し、わずかに逃げ延びた住民が、行商で訪れた商人に伝えた事で世界中に広まったのだ。
王都バルサスに暮らす人々がその事実を知ったのは、自分達の暮らす街が同じくスルードの襲撃を受けて一月以上が経ってからの事だった。
この話が広まる事で、ロック・ローランドと守護魔法師団に向けられていた非難の声は一気に沈静化した。
だが、残念ながら彼等の名誉がすぐに回復する訳では無い。
ロック・ローランド達に非難を向けた事で、王宮への糾弾は止んでいた。
また、税金を引き下げた事で、国の収入は落ちたが、復興は上手くいっており、不満も最小限に抑えられている。
今更それを撤回し、自らの非を認めるのか?
一度振り上げてしまった拳は簡単には下ろせない。
王宮はその件に関して沈黙という道を選んだ。
声をあげていた住民達も同様だ。
国からの正式な発表は何もない。
自分達が実はロックに命を助けられたのだと気付いても、今更出来る事などほとんど無い。
彼等は王宮から十分過ぎる補償を受けている最中だったのだから……
死者は元より、守護魔法師団に所属した者達の気持ちを他所に、その名をその存在を口に出す者は居なくなっていった。
「お兄ちゃん、さっきから難しい顔してるけど大丈夫?ご飯冷めちゃうよ?」
「ごめん、フローラ。ちょっと考え事をし過ぎてたみたい。今日も美味しそうな料理だね!」
「リナリアさんに教えて貰ったの。お兄ちゃんも働き出して料理当番の回数が増えたから、新しい料理に挑戦してみようかなって」
そう言いながら、フローラは義父さんに視線を向けてみるが、特に反応は無い。
リナリアさんは、義父さんの幼馴染に当たる女性だ。
元々セクレト村の出身だったが、道具屋を営むリナリアさんのお父さんが、王都で新しく商売を始める為に近所に引越してきたのを機に仲良くなったそうだ。
同じ5歳の時に出会った二人の交友はずっと続き、義父さんがバルサス守護魔法師団に入る前の冒険者時代には、短い期間ながらも一緒に活動していたと聞いている。
二人が18歳の時にリナリアさんのお父さんが体調を崩してしまい、療養の為にセクレト村に家族で戻る事になって離れてしまったけど、スルードの災厄を経て義父さんが頼ったのはセクレト村に居るリナリアさんだった。
「いい加減くっつけば良いのに…」
フローラが聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟く。
フローラがそう言いたくなるのも無理はない。
二人のことを傍から見れば、何故結ばれていないのか不思議なくらいわかり合っているように見える。
義父さんは、頼まれたからではなく、自分の意志で僕とフローラを引き取ると決めた。
二人が成人するまでは、この子達を最優先に考えたいとリナリアさんに伝えてあるそうだ……
その話を聞いた時、当事者としては何とも言えない複雑な気持ちを感じながらも、僕は義父さんに感謝する事しか出来なかった。
2歳違いのフローラが成人を迎えるまであと1年と2ヶ月。
もう少しで二人の約束した日を迎える。
「そういえば、お義父さん宛に書簡が届いてたわよ」
「ありがとう、後で確認しておくよ」
何気ないやり取りだったが、この書簡によって僕達の生活は大きく変わる事になる。
義父さんと同じ、セクレト村の自警団として働き始めてもうすぐ一年が経つ。
今日は休みの日だったので、午前中は義父さんに稽古をつけてもらったが、午後からはフローラに買い出しの手伝いを頼まれていたので、一緒に道具屋兼食料品店に来ていた。
「やあ、二人ともいらっしゃい」
「「こんにちは」」
リナリアさんのお父さんが出迎えてくれる。
一時は流行り病で体調を崩していたが、セクレト村での療養か良かったのか、すっかり元気になってお店を営んでいる。
若い時からの夢で、一度は王都で商売をしてみたかったそうだが、今はセクレト村でのんびり商売するのが性に合うようだ。
「リナリアさんはいらっしゃいますか?」
「奥で商品を片付けているけど、すぐに戻ると思うよ」
「ありがとうございます」
フローラがリナリアさんの事を尋ねていると、奥から長い髪をまとめ上げたエプロン姿のリナリアさんが戻って来た。
「アッシュくん、フローラちゃん、いらっしゃい」
「こんにちは」
「リナリアさーん!」
フローラは飛び付くような勢いでリナリアさんの元に駆け寄って行った。
「このあいだ教えて貰った料理、ちゃんと出来て、お義父さんもお兄ちゃんも喜んでくれましたっ」
「それは良かったわ。次はイエローポテトを使った煮物にしてみる?」
「是非教えてください!」
少し歳の離れた姉妹のように、楽しそうに話している二人を見ると何だかホッとする。
フローラがあれこれ話し込むので、気付けば一時間近くお店に滞在していたみたいだけど、満足そうにニコニコした隣の妹を見ると、しょうがないかと諦めもついた。
自宅に帰って、買って来た品物を片付けていると、義父さんに大事な話があると呼ばれて二人で向かった。




