96話 レジーナとセレスティア
「レジーナ、あなたのことだから、俺のアカデミーのことは報告を受けているだろう?」
ええ、聞いているわ。優秀な護衛をつけたのだから。
レジーナは言葉にせずに、エドマンドの紫色の瞳をじっと見つめた。
「俺は、クレアとの結婚の許しを得るために帰って来たんだ」
わかってるわよ、そんなこと。
「俺はクレアと結婚する」
ああ、聞きたくない。それ以上言わないで!
「だからあなたにお願いがあるんだ」
わたくしにだってプライドがあるのよ。
「俺たちの結婚を」
今さら婚約破棄なんて言わないで!
「早めて欲しい」
「ダメよっ!……え?」
レジーナは、一瞬何を言われたのか理解に苦しんだ。
「今、結婚を早めて欲しいって言ったの? どうして?」
「だって、レジーナよりも早くクレアと結婚するのは、王妃を蔑ろにしているようでよくないだろう?」
「クレアを正妃にしたいんじゃなかったの?」
「いや、クレアに正妃は荷が重すぎる。レジーナこそが正妃に相応しいと彼女にも話しているし、彼女には側妃で迎えることに納得してもらっているよ」
「そ、そうなのね」
「だから、アカデミーを卒業したらすぐにレジーナと結婚して、その半年後にクレアと結婚しようと思っている。初めの予定よりずいぶん早い結婚になるが、それでもかまわないか?」
「え、ええ。それなら……」
拍子抜けしてしまった話の流れに、まんまと乗せられたような気もするが、結局レジーナはクレアが側妃になることを認めた。
と言っても、反対したところで、エドマンドの心を変えることはできないこともわかっていた。
しかしエドマンドの卒業後、クレアが側妃になることはなく、招待状を出してしまった手前、レジーナとエドマンドの結婚式が早められただけで、この話は終わりを迎えた。
エドマンドと結婚したレジーナは男児を産み、王妃の最大の責務を果たしてほっとしていたのだが、二人目の子を授かることはなかった。
王家の後継者が一人では心許ないと、周りからの勧めでエドマンドは側妃を迎えたが、妊娠した側妃は早過ぎる時期に産気づき、母子ともに帰らぬ人となってしまった。
「側妃を迎えたら、その女性は不幸になってしまう」
エドマンドはそう語り、それから先、側妃を迎えることはなかった。
そんな中で突然現れた血を分けた我が子、しかも愛してやまなかったクレアの子なのだ。
エドマンドが喜んで受け入れることは、至極当然のことであった。
パレードの日、レジーナはその耳ではっきりと聞いた。
「クレアがいる」
何故今頃?
レジーナはその一言にぞっとしたのを覚えている。
しかしエドマンドはレジーナの気持ちなんてまったく気づかずに、パレードの最中なのに「二列目にいる水色の髪の娘を連れてきて欲しい」と護衛騎士に命じた。
その女性、クレアの子がもうすぐ王宮にやって来る。
いったいどんな顔で会えば良いのだろう?
セレスティアは現在17歳、王太子フィリウスよりも一つ年上である。
女性のセレスティアはフィリウスの立場を脅かす存在ではなく、敵対する必要もないのだが、かといって手放しで喜んで迎える気にもならない。
悶々とした日々を過ごしている間に、一か月が過ぎ、とうとうセレスティアが王城にやってくる日が来た。
セレスティアはひと月の間、王女として振る舞うことに慣れようと一生懸命に努力していた。
その甲斐あってか、家庭教師はセレスティアの姿勢もマナーも勉学も、王族に必要な立ち居振る舞いまでも、十分に満たしていると太鼓判を押している。
家庭教師が自分を褒める度に、これもフローレンスのお陰だと、セレスティアは改めて恩師に感謝するのであった。
ウイキヌス王国の歴史や文化については子ども時代に一通りは覚えていたし、この国に来ると決心してからは、独学でさらに深く学んだ。
ウイキヌス王国は芸術家を数多く輩出している。
そして魔石の研究も盛んであることが大きな特徴である。
他にも地理、歴史あらゆる分野をしっかりと覚えた。
何を聞かれても狼狽えることなく、微笑みの仮面を貼り付けて王女として振る舞おう。
セレスティアは、自分の心に静かに誓った。
セレスティアは、王宮内にある謁見の間で、国王エドマンド、王妃レジーナ、そして王太子フィリウスと対面した。




