94話 エルシーの処分
「王妃陛下は、このような心の狭い嫌がらせをすることはお命じにならなかった。では、あなたに何を?」
「そ、それは……」
セレスティアに見つめられたエルシーは、咄嗟に視線を落とした。
「言いたくないのなら、わたくしが言いましょう。わたくしの行動を逐一報告するようにとお命じになった。違いますか?」
「うっ……」
エルシーは言葉に詰まり、まともな会話ができなくなっていた。
そこへ執事のブライアンが見かねて声をかけた。
「王女殿下、エルシーがしたことは厳罰に値します。エルシーの処分はどういたしましょうか?」
その言葉に、エルシーは青ざめブルブルと震えだし、ボロボロと泣き出してしまった。
「も、申し訳ございません。お、お、お許しください」
「そうですね……」
セレスティアは、一呼吸してから視線をブライアンからエルシーに移した。
「エルシー、本来なら王族の料理に手を加えたあなたは無事では済まされないでしょう。ですが、王妃陛下から与えられた仕事は、このまま最後まで全うしなさい。ただし、悪意を込めるのではなく、見たことをそのまま隠さずに王妃陛下に報告しなさい」
「は、は、はい。ありがとうございます」
エルシーは涙でぐしゃぐしゃのまま深く頭を下げた。
「それから、あなたは料理人に謝らなければなりません。心のこもった料理を台無しにしたのですから」
「はい。わかりました」
「それからもう一つ。あなたがしたことは、王妃陛下の顔に泥を塗るような行為であることを肝に銘じなさい。二度とこのようなことがないように」
「は、はい。本当に申し訳ございませんでした」
この後、用意されたデザートが運ばれて食事は終わり、セレスティアは私室に戻ったが、同行するのはエルシーを除いた三人である。
セレスティアは、父エドマンドが選んだ口が堅く信頼のおける三人だけをそばに置くことにした。
「それにしても、本当に驚きました。エルシーがあんなことをするなんて。塩辛くてとても食べれたものではありませんでした」
赤髪のリリアンが申し訳なさそうな顔をする。
「王女殿下は、エルシーの仕業だってよくおわかりになりましたね」
これは金髪を二つ括りにしているオーブリー。
「それは、毒見の後に塩を入れることができるのは、お料理を運んできたエルシーしかいないと思ったからですわ。それにエルシーが表情を隠しきれていなかったのもありますね。このことから、彼女はお父様の選んだ侍女ではないと思ったのです」
「私もおかしいと思っていたのです。私たち三人とブライアン様は陛下から直接辞令をいただきました。エルシーは後から自分も辞令をもらったって、突然入って来たのです。でもまさか、王女殿下に酷い嫌がらせをするとは思いもしませんでした」
ぷんぷんと怒っているのは茶髪のミアである。
セレスティアは侍女と話しながら、この件が無事に終わったことに胸をなでおろしていた。
一口食べた瞬間、頭を過ったのは、このまま食べるか、それとも残すべきか?だった。
しかし、どちらにしても、このまま何もしなければ、この嫌がらせはこれからも続くだろう。
そしてそれは、王女として振る舞うことにはならない。
きっと王女ならこの料理について言及し、嫌がらせをした犯人を厳しく処罰するはずだ。
そう思ったセレスティアは行動を起こした。
幸いなことに嫌がらせはエルシー個人の感情からだったようなので、彼女が反省して二度と同じ過ちを犯さなければそれで良いと思った。
ついでに王妃陛下にもしっかり自分のことを伝えてもらえれば、後から細かく詮索されることもないだろう。
今回の件は自分の思うような解決に至ったが、いつもこう上手くいくとは限らない。
これからも心してかからなくてはと、セレスティアは強く思った。
翌日から、王女教育が始まった。
王女に必要な知識やマナーなどを教えてくれる女性の教師が来たのだが、彼女は一週間かけて一通り教えた後に、セレスティアにはこれ以上の教育は必要ないと判断した。
それは、王都にいるエドマンドにも伝えられる。
エドマンドはブライアンから届く手紙と教師から送られて来る手紙を読んで、満足そうな笑みを浮かべた。
「ああ、クレアと俺の子は優秀なのだな。王城に呼び寄せる日が今から楽しみだ」
セレスティアの様子を知らされているのは、エドマンドだけではない。
エルシーから届く手紙を読む王妃レジーナもその一人である。
「ああ、なんてこと。わたくしへの忠誠心が強い娘だからレイネスに行かせたのに、まさかこんな嫌がらせをするなんて……」
レジーナの手紙を持つ手は、ワナワナと震えていた。




