9話 お姫様と結婚する方法
「貴族のお姫様と結婚? お前何を……」
何を夢みたいなことを言ってるのだ? と言いたかったのだが、可愛い孫の顔を見て、ベンジャミンは口をつぐんだ。
おそらく、セレスティアお嬢様のことを思ってのことだろう。
だが、今のこの子に、夢を潰すようなことは言わない方がいい……。
そう思い直した。
エルヴィンは、生まれてわずか十年の間に、二度も絶望を味わった。
一度目は4歳のとき。
もうすぐ生まれる弟か妹を楽しみにしていたのに、母親は予定日よりも二ケ月も早く産気づき、出産の最中に赤ん坊と共に帰らぬ人となった。
赤ん坊を産むのは命がけであることはわかっていたのだが、エルヴィンが無事に生まれたこともあって、今回も大丈夫だとタカをくくっていたらしい。
それが仇となってしまったようだった。
ベンジャミンは知らせを受けて急いで駆け付け、葬儀の手配で忙しい父親に変わってエルヴィンのそばに付いていたが、葬儀の最中も、墓前に花を手向けるときも、エルヴィンはまるでこの世の終わりが来たかのように、わんわんと声をあげて泣いていた。
母親を失ったエルヴィンは、それからは商人の父親と一緒に行動を共にするようになる。
だが、今から二週間前の日に、父親を乗せた馬車が崖から転落し、エルヴィンは父親までも失ってしまったのである。
10歳の誕生日を迎えてすぐのことだった。
その日はたまたま店の従業員と一緒に留守番をしていたから、父親と一緒の馬車に乗っていなかった。
知らせを聞いて飛んで行き、葬儀の手配はベンジャミンがした。
その間、エルヴィンは声を殺して泣いていた。
なんとも切ない声にならない嗚咽を漏らし、涙を流し続けた。
ベンジャミンは葬儀を終え、従業員に給料を払い、店をたたみ終えるとエルヴィンを連れて伯爵家に戻って来たのである。
今は笑顔が見られるようになったが、祖父である自分に心配をかけたくなくて無理しているのではないだろうかと、それが気がかりだった。
そんな孫が未来に思いを馳せている。
これはきちんと答えてやった方が良いのだろう。
「エルヴィン、よく聞きなさい。貴族のお姫様と結婚したかったら、お前も貴族にならなければならない」
「どうやったら、なれる?」
エルヴィンの赤い瞳が、期待で爛々と輝いている。
ベンジャミンはその瞳を見て、何から話せば良いのかと、少しの間、思案した。
「方法はいろいろあるが、大金持ちになって爵位を買う、だな」
「大金持ちってどれくらい?」
「わしが百年働いた給料でも、まだ足りない」
「百年も待てないよ。他には?」
「貴族の養子になるというのもある。だが、よほどのことがない限り、平民を養子にするような貴族はおらんな」
「よほどって?」
「子がいない貴族に気に入ってもらうことだろうが、そんな幸運に出会えるのは、一粒のゴマを砂の中から見つけ出すようなもんだ」
「はあ、他には?」
「軍に入るか騎士にでもなって、武功をあげることだな。だが、武功をあげる前に死んでしまったら元も子もない」
「それなら、死ななければいいんだろ? この中で俺にもできそうなのは、軍に入ることくらいか」
「できればたった一人の孫を、戦に出したくはないのだが……。お前、そんなヒョロヒョロだと、戦に出たら真っ先に殺されてしまうぞ」
エルヴィンは、言われて自分の腕と祖父ベンジャミンの腕を見比べた。
年はとっていても、ベンジャミンの腕の方がよっぽど筋肉がつき、太くてがっしりしている。
「俺、じいちゃんみたいになりたい。これから毎日身体を鍛えるよ。」
「そうだな。軍隊に入れるのは15歳からだから、それまでにしっかり鍛えておくといい」
その日から、エルヴィンは、ベンジャミンと一緒に仕事をしながら身体を鍛え始めた。




